まひる 42
文字数 2,014文字
あたしはキノッピとコージらと作戦を立て終え、上がる曲をバックに巨獣の残滓に向かう。
コージが展開した蛭人間を踏み場にして血汚泥の海を駆ける。
巨獣に向かって見えるのは、カーミラ・亜種、改・ドラキュラ、カーミラ・亜種、カーミラ・亜種の列。
カー! ドラ! カー! カー!
キノッピに合図を送ってジャンプする。
あたしの後にキノッピが飛ぶのを見ながら、巨獣の脛、腿、腰、腹、鳩尾、胸と上昇する。
上昇の際で足裏にキノッピの拳を感じ、巨獣の頸に矛先を向ける。
流れるように宙を渡り、頸に据えられたリリカ&メルルへと長ドスを振り下ろす。
よく見るとメルルの瞳も屍人のように白濁となり、すでにその意思が巨獣に奪われたことがうかがわれた。
ならば黙して斬撃を待つはずもなく、体表の白骨と腐肉がこちらへ向かって突き出してきた。
あたしはそれら無数の棘列に晒されながらも、体を返して全てを避け切って、さらにリリカ&メルルに肉薄した。
しかし、すんでの所でいきり立った腐肉の壁に阻まれて、あたしはそのまま巨獣の体内に取り込まれてしまったのだった。
その中は巨大な空間が広がっていた。
中心に車ほどの大きさの心臓が拍動していた。
その見渡す限りに白骨と腐肉と臓物が浮遊している。
白骨が繋がって人を形創り、臓物が位置を定め、腐肉はそれを補って筋肉を構成しようとしている。
けれど、いずれも中途で歪 な生物となり再び解体してしまう。
無限に繰り返される狂気の創生。
そういえばリリカ&メルルはバグったと言ってたな。
これはまさにバグった人体合成だった。
あたしはその中を何かに引き寄せられて下方へとゆっくり落ちてゆく。
足下を見るともう一つ心臓が見えた。
その心臓から二つの掌が生えている。
その手が花のように開いて、浮遊する白骨と腐肉と臓物を引き寄せているのだった。
近づくにつれ、それが心臓でないことに気が付いた。
同じように拍動していたけれど、それは子宮だった。
子宮が体内の歪 な生物を吸い寄せていたのだ。
その流れにあたしも一緒にされているようだった。
あの手の花に捉えられたらどうなるのか?
きっと溶解され血汚泥となって排出されてしまうに違いない。
そんなことはごめんだった。
あたしは何かに取りすがって落下に抵抗しようとした。
しかし、その頼りにしたもの全てが白骨であり、腐肉であり、臓物だった。
否応なしに子宮の掌に吸い寄せられてゆく。
抗ったが最後は手の花に絡め取られて母なる臓器の中へ。
細くて暗い管のようなところを通って、辿り着いたのは清浄な空間だった。
空気は澄み、温度もちょうどよい。
あたしはゆっくりとそのやわらかな壁面に着床する。
薄ピンクの空間を見渡すと、そこに見知った人がいた。
「ヒナタ?」
あたしと同じ顔、同じ体つき、そして金色の髪。
最愛の姉があたしを見てほほ笑んだ。
「久しぶり。元気だった?」
「どうしてここに?」
リリカ&メルルの母親ってこと?
まさか、時間が合わない。
リリカ&メルルとあたしたち姉妹は同学年だったはず。
「ごめんね。あたしはあなたの本当の姉じゃない」
あたしの姉に本当も嘘もない。
ヒナタは生まれた時からずっと一緒だった。
「あなたの姉は、母親の子宮の中で死んだようよ」
バニシングツイン。
話は聞いたことがあった。
「じゃあ、あなたは……、いいえ、誰でもいい。どうして姉のふりなんか?」
ヒナタはうつむいて考え事をしているようだった。
「なんて言えばいいのかな。そうね。あなたの覚醒が必要だったから」
あたしがヴァンパイアになったことに何の意味が?
「あたしたちの間では、つがいのヴァンナパイアが地獄の蓋を開くって言われててね。あなたと、木下くんって言ったかな」
地獄の蓋は辻沢にあって、それが今年の秋の満月の晩に開くという。
そのためにはいくつもの条件が必要だけれど、つがいのヴァンパイアはあたしとキノッピが候補に挙がった。
辻沢に調査に入った十数年前、目出ってヴァンパイアに覚醒する可能性があったのが、あたしとキノッピだったからだ。
覚醒させるため一人で練習中のあたしを辻っ子団に襲わせたが、返り討ちにした辻っ子の血では覚醒しなかったので、「最愛の姉ヒナタ」を記憶に刷り込んで強制的に覚醒させた。
キノッピにも同じ手を使ったが何故だか効き目がなく、今までずっと期を伺っていた。
裏切られてしまったが、遠軽露西亜正教会に監視をさせたのもそのためだった。
ところが、浦塩崇徳の血を浴びたところすんなりヴァンパイアになったのでそれは良しとした。
時期を待つ必要があったのだろう。
ヒナタのふりしたそいつは、そう説明した。
「どうして地獄に行きたがる?」
「この通り、あたしたち種族はそろそろ生物的に限界で、地獄の底にあるエリクサーで回生したい」
種族というのは、人形使いのことらしかった。
でも、そんなの知らない。
あたしは高倉健さん直伝の長ドスの切っ先をヒナタもどきに向けた。
トリマ、死んで貰います。
コージが展開した蛭人間を踏み場にして血汚泥の海を駆ける。
巨獣に向かって見えるのは、カーミラ・亜種、改・ドラキュラ、カーミラ・亜種、カーミラ・亜種の列。
カー! ドラ! カー! カー!
キノッピに合図を送ってジャンプする。
あたしの後にキノッピが飛ぶのを見ながら、巨獣の脛、腿、腰、腹、鳩尾、胸と上昇する。
上昇の際で足裏にキノッピの拳を感じ、巨獣の頸に矛先を向ける。
流れるように宙を渡り、頸に据えられたリリカ&メルルへと長ドスを振り下ろす。
よく見るとメルルの瞳も屍人のように白濁となり、すでにその意思が巨獣に奪われたことがうかがわれた。
ならば黙して斬撃を待つはずもなく、体表の白骨と腐肉がこちらへ向かって突き出してきた。
あたしはそれら無数の棘列に晒されながらも、体を返して全てを避け切って、さらにリリカ&メルルに肉薄した。
しかし、すんでの所でいきり立った腐肉の壁に阻まれて、あたしはそのまま巨獣の体内に取り込まれてしまったのだった。
その中は巨大な空間が広がっていた。
中心に車ほどの大きさの心臓が拍動していた。
その見渡す限りに白骨と腐肉と臓物が浮遊している。
白骨が繋がって人を形創り、臓物が位置を定め、腐肉はそれを補って筋肉を構成しようとしている。
けれど、いずれも中途で
無限に繰り返される狂気の創生。
そういえばリリカ&メルルはバグったと言ってたな。
これはまさにバグった人体合成だった。
あたしはその中を何かに引き寄せられて下方へとゆっくり落ちてゆく。
足下を見るともう一つ心臓が見えた。
その心臓から二つの掌が生えている。
その手が花のように開いて、浮遊する白骨と腐肉と臓物を引き寄せているのだった。
近づくにつれ、それが心臓でないことに気が付いた。
同じように拍動していたけれど、それは子宮だった。
子宮が体内の
その流れにあたしも一緒にされているようだった。
あの手の花に捉えられたらどうなるのか?
きっと溶解され血汚泥となって排出されてしまうに違いない。
そんなことはごめんだった。
あたしは何かに取りすがって落下に抵抗しようとした。
しかし、その頼りにしたもの全てが白骨であり、腐肉であり、臓物だった。
否応なしに子宮の掌に吸い寄せられてゆく。
抗ったが最後は手の花に絡め取られて母なる臓器の中へ。
細くて暗い管のようなところを通って、辿り着いたのは清浄な空間だった。
空気は澄み、温度もちょうどよい。
あたしはゆっくりとそのやわらかな壁面に着床する。
薄ピンクの空間を見渡すと、そこに見知った人がいた。
「ヒナタ?」
あたしと同じ顔、同じ体つき、そして金色の髪。
最愛の姉があたしを見てほほ笑んだ。
「久しぶり。元気だった?」
「どうしてここに?」
リリカ&メルルの母親ってこと?
まさか、時間が合わない。
リリカ&メルルとあたしたち姉妹は同学年だったはず。
「ごめんね。あたしはあなたの本当の姉じゃない」
あたしの姉に本当も嘘もない。
ヒナタは生まれた時からずっと一緒だった。
「あなたの姉は、母親の子宮の中で死んだようよ」
バニシングツイン。
話は聞いたことがあった。
「じゃあ、あなたは……、いいえ、誰でもいい。どうして姉のふりなんか?」
ヒナタはうつむいて考え事をしているようだった。
「なんて言えばいいのかな。そうね。あなたの覚醒が必要だったから」
あたしがヴァンパイアになったことに何の意味が?
「あたしたちの間では、つがいのヴァンナパイアが地獄の蓋を開くって言われててね。あなたと、木下くんって言ったかな」
地獄の蓋は辻沢にあって、それが今年の秋の満月の晩に開くという。
そのためにはいくつもの条件が必要だけれど、つがいのヴァンパイアはあたしとキノッピが候補に挙がった。
辻沢に調査に入った十数年前、目出ってヴァンパイアに覚醒する可能性があったのが、あたしとキノッピだったからだ。
覚醒させるため一人で練習中のあたしを辻っ子団に襲わせたが、返り討ちにした辻っ子の血では覚醒しなかったので、「最愛の姉ヒナタ」を記憶に刷り込んで強制的に覚醒させた。
キノッピにも同じ手を使ったが何故だか効き目がなく、今までずっと期を伺っていた。
裏切られてしまったが、遠軽露西亜正教会に監視をさせたのもそのためだった。
ところが、浦塩崇徳の血を浴びたところすんなりヴァンパイアになったのでそれは良しとした。
時期を待つ必要があったのだろう。
ヒナタのふりしたそいつは、そう説明した。
「どうして地獄に行きたがる?」
「この通り、あたしたち種族はそろそろ生物的に限界で、地獄の底にあるエリクサーで回生したい」
種族というのは、人形使いのことらしかった。
でも、そんなの知らない。
あたしは高倉健さん直伝の長ドスの切っ先をヒナタもどきに向けた。
トリマ、死んで貰います。