まひる 34
文字数 2,036文字
キノッピに渡された自衛隊の迷彩服を着こんで、すすきの交差点に向かった。
近づくにつれ、うめき声をあげてそこここに人が倒れているのが目に留まった。
黒い上下の姿はロシア正教会のエージェントさんたちだ。
頭や腹から血を流している者、変な方向に手足が曲がっている者。
この中にエカチェリーナさんたちがいないことを祈るばかりだ。
交差点の真ん中を見ると、セーラー服の少女がいて、その横にヤオマンホテルで倒れていた男たちと同じ迷彩服の男が立っていた。
セーラー服の肩に手を置いて何か話しかけている姿はまるでセコンドのようだ。
それを見ているうちに、あたしは格ゲーのアリーナにいるような気分になった。
久しぶりの感覚だ。
身に着けたインジェクト端末をONしてゲーム開始。一瞬でアリーナに飛ばされる。
あの瞬間を思い出す。
最初に襲ってくる眩暈。
全ての体感覚をゲーム世界に引っ張られる感触。
慣れるまでは船酔いのような気持ち悪さがあったが、回を重ねるごとに意識がスライドする快感を味わえるようになる。
「よく来た。夜野まひる」
その迷彩服が言った。
あたしはこの男に見覚えがあった。
10年前、RIB立ち上げ前の辻沢で、あたしと双子の姉のヒナタは辻っ子集団の襲撃を受けた。
その時あたしは最愛の姉を失うと同時に姉の血を全身に浴びて覚醒し、ヴァンパイアになった。
ヴァンパイアとなったあたしは、襲撃して来た連中を皆殺しにした。
……つもりだった。
この男こそ、あの時ヒナタを刀で突き刺した犯人だった。
どうやら肝心の下手人を取り逃がしていたらしい。
「お前、首がつながったのか?」
一番最初に、こいつの素っ首を刎ねてバスケのゴールにダンクしたはず。
「ああ、あの時は死んだかと思ったが」
と言うとタートルネックの襟に指をかけて下に引き下げた。
露わになったそいつの首には、横に赤黒い接合跡がケロイドのようにへばりついていた。
「人形使いのおかげでこの通りだ」
人形使い。キノッピが言っていた首魁のことか。
刎ねた首を繋げられるほどの能力者?
迷彩服はセーラー服を前に促して、
「お前たちの獲物が来たぞ」
と言った。
たち?
セーラー服はどう見てもひとりだった。
ただ着ているセーラー服は普通ではなかった。
右半分はセーラー服だが、左半分はジャージになっていたのだ。
「奇妙な格好をしているな」
そう言うと迷彩服がうれしそうに、
「人形使いの趣味らしいんだが、二人に似合ってるだろ?」
「二人?」
「紹介がまだだったな。私の双子の娘、リリカとメルルだ」
そう言われてあたしは顔をよく見た。
その顔は以前見た顔面神経麻痺になった人に似ていた。
半面は全く普通の様子なのだが、半面は皮膚が下方に雪崩ているよう。
そして雪崩の半面は、青ざめた肌をして目をつむりあたかも屍人のようだった。
ただ顔面神経麻痺とは明らかな違いがあって、それは額から襟元まで縦に接合跡が走っていること。
「右がメルルで左がリリカだ。素晴らしい出来だろう!」
迷彩服の言ってることはおかしかったが、必死に理解しようとした。
つまり、メルル&リリカ姉妹を半分ずつくっつけたってこと?
「シャム双生児っていうのを知ってるか?」
迷彩服が目をギラギラさせながら言った。
昔は双子が同体で生まれる現象をそう言った。
知らないはずはない。
あたしたちのグループ名はREGIN♡IN♡BLOODだ。
その名付け親はスラッシュメタル大好きのヒナタなのだ。
辻沢にいたころ二人で訓練する時は必ず、スラッシュメタル四天王の曲をBGMにしていた。
ヒナタが殺された時流れていたのも、スレイヤーの名曲「ANGEL OF DEATH」だった。
メルル&リリカにされたこと。
それは、あの曲の中で歌われているおぞましい人体実験とまったく同じなのだ。
「ベルク・カッツェだ!」
迷彩服が高笑いをしだした。
何を言っているのか分からず、あたしが黙っていると、
「知らない? ガッチャマンに出て来る悪党なんだけど……」
と不安そうに聞いて来た。
さらにそれを無視して、
「なんでそんなことを?」
どのみちやっつけるが、その前に訳を聞いておくことにした。
「この子たちは、あろうことかヴァンパイアだったんだよ。ヴァンパイアが大嫌いな、この私の娘なのに。だからお仕置きしてやった。お前の姉を切り殺した要領で刀で真っ二つにしたんだ。おいおい、虐待なんて言わないでくれよ。ちゃんと元に戻したんだから。ただ火事が出て体が燃えてしまい部位が足りなくなっててね。それで仕方なく半分ずつくっつけたんだよ」
「それをお前が?」
「まさか、人形使いのあの方が仕上げてくださった。繊細なメルルと大胆なリリカが一緒になったんだ。これを完璧と言わずになんと言う」
人形使いというのはアヤネのことなのだろうか? あの子にそんな能力があった?
だとするとアヤネはヴァンパイアですらないということになる。
迷彩服が片手を挙げた。
それを合図にリリカとメルルがその場で踏ん張ったかと思うと、勢いをつけて飛び掛かってきたのだった。
近づくにつれ、うめき声をあげてそこここに人が倒れているのが目に留まった。
黒い上下の姿はロシア正教会のエージェントさんたちだ。
頭や腹から血を流している者、変な方向に手足が曲がっている者。
この中にエカチェリーナさんたちがいないことを祈るばかりだ。
交差点の真ん中を見ると、セーラー服の少女がいて、その横にヤオマンホテルで倒れていた男たちと同じ迷彩服の男が立っていた。
セーラー服の肩に手を置いて何か話しかけている姿はまるでセコンドのようだ。
それを見ているうちに、あたしは格ゲーのアリーナにいるような気分になった。
久しぶりの感覚だ。
身に着けたインジェクト端末をONしてゲーム開始。一瞬でアリーナに飛ばされる。
あの瞬間を思い出す。
最初に襲ってくる眩暈。
全ての体感覚をゲーム世界に引っ張られる感触。
慣れるまでは船酔いのような気持ち悪さがあったが、回を重ねるごとに意識がスライドする快感を味わえるようになる。
「よく来た。夜野まひる」
その迷彩服が言った。
あたしはこの男に見覚えがあった。
10年前、RIB立ち上げ前の辻沢で、あたしと双子の姉のヒナタは辻っ子集団の襲撃を受けた。
その時あたしは最愛の姉を失うと同時に姉の血を全身に浴びて覚醒し、ヴァンパイアになった。
ヴァンパイアとなったあたしは、襲撃して来た連中を皆殺しにした。
……つもりだった。
この男こそ、あの時ヒナタを刀で突き刺した犯人だった。
どうやら肝心の下手人を取り逃がしていたらしい。
「お前、首がつながったのか?」
一番最初に、こいつの素っ首を刎ねてバスケのゴールにダンクしたはず。
「ああ、あの時は死んだかと思ったが」
と言うとタートルネックの襟に指をかけて下に引き下げた。
露わになったそいつの首には、横に赤黒い接合跡がケロイドのようにへばりついていた。
「人形使いのおかげでこの通りだ」
人形使い。キノッピが言っていた首魁のことか。
刎ねた首を繋げられるほどの能力者?
迷彩服はセーラー服を前に促して、
「お前たちの獲物が来たぞ」
と言った。
たち?
セーラー服はどう見てもひとりだった。
ただ着ているセーラー服は普通ではなかった。
右半分はセーラー服だが、左半分はジャージになっていたのだ。
「奇妙な格好をしているな」
そう言うと迷彩服がうれしそうに、
「人形使いの趣味らしいんだが、二人に似合ってるだろ?」
「二人?」
「紹介がまだだったな。私の双子の娘、リリカとメルルだ」
そう言われてあたしは顔をよく見た。
その顔は以前見た顔面神経麻痺になった人に似ていた。
半面は全く普通の様子なのだが、半面は皮膚が下方に雪崩ているよう。
そして雪崩の半面は、青ざめた肌をして目をつむりあたかも屍人のようだった。
ただ顔面神経麻痺とは明らかな違いがあって、それは額から襟元まで縦に接合跡が走っていること。
「右がメルルで左がリリカだ。素晴らしい出来だろう!」
迷彩服の言ってることはおかしかったが、必死に理解しようとした。
つまり、メルル&リリカ姉妹を半分ずつくっつけたってこと?
「シャム双生児っていうのを知ってるか?」
迷彩服が目をギラギラさせながら言った。
昔は双子が同体で生まれる現象をそう言った。
知らないはずはない。
あたしたちのグループ名はREGIN♡IN♡BLOODだ。
その名付け親はスラッシュメタル大好きのヒナタなのだ。
辻沢にいたころ二人で訓練する時は必ず、スラッシュメタル四天王の曲をBGMにしていた。
ヒナタが殺された時流れていたのも、スレイヤーの名曲「ANGEL OF DEATH」だった。
メルル&リリカにされたこと。
それは、あの曲の中で歌われているおぞましい人体実験とまったく同じなのだ。
「ベルク・カッツェだ!」
迷彩服が高笑いをしだした。
何を言っているのか分からず、あたしが黙っていると、
「知らない? ガッチャマンに出て来る悪党なんだけど……」
と不安そうに聞いて来た。
さらにそれを無視して、
「なんでそんなことを?」
どのみちやっつけるが、その前に訳を聞いておくことにした。
「この子たちは、あろうことかヴァンパイアだったんだよ。ヴァンパイアが大嫌いな、この私の娘なのに。だからお仕置きしてやった。お前の姉を切り殺した要領で刀で真っ二つにしたんだ。おいおい、虐待なんて言わないでくれよ。ちゃんと元に戻したんだから。ただ火事が出て体が燃えてしまい部位が足りなくなっててね。それで仕方なく半分ずつくっつけたんだよ」
「それをお前が?」
「まさか、人形使いのあの方が仕上げてくださった。繊細なメルルと大胆なリリカが一緒になったんだ。これを完璧と言わずになんと言う」
人形使いというのはアヤネのことなのだろうか? あの子にそんな能力があった?
だとするとアヤネはヴァンパイアですらないということになる。
迷彩服が片手を挙げた。
それを合図にリリカとメルルがその場で踏ん張ったかと思うと、勢いをつけて飛び掛かってきたのだった。