キノッピ 36
文字数 1,761文字
まひるたちの戦いは、数回やりあった後、膠着状態になってしまった。
もう何時間もの間、じっとして動きがない。
その間にも自衛隊は増員され、包囲網が十重二十重と厚くなってきていた。
ここにいると人目につくので、もう一度大看板によじ登ることにする。
3階くらい登って落ち着くことにする。
この状況を全国のお茶の間に伝えているのだろうか、上空からヘリコプターの音が降ってきていた。
向かいのビルの屋上に人影が見えた。
他のビルにも同じような人影がいて、銃口を交差点に向けていた。
自衛隊の狙撃手が配置されいるようだ。
ターゲットは暴れまわっていた少女のはずだけど、突然現れて戦い出したまひるまで脅威と映ってなければいいと思った。
札幌の空は茜色に染まりだし日が暮れようとしていた。
そういえば空が静かだった。
いつの間にかヘリコプターの音がしなくなっていたのだ。
いよいよあたりが暗くなり始めたころ向かいの屋上で異変が起きた。
狙撃手の頭上に巨大な翼が舞い降りてきたのだ。
銃声がビルの間に一発だけ響き渡ってすぐに静かになった。
それは狙撃手の断末魔のように聞こえた。
他のビルの上の狙撃手の上にも次々に黒い翼が舞い降りて来た。
そして夜空から無数の黒い翼が降って来てそこかしこのビルの屋上を黒く塗りこめてしまった。
遠軽で見たロシアヴァンパイアのようだった。
僕のいる大看板を見上げてみた。
やはり、こちら側にもたくさんの黒い影が集まって来ている。
夜陰に乗じて北海道中のロシアヴァンパイアがすすきの交差点に集結したようだった。
もしかしたら団長の娘はこれを待っていたのじゃないか?
いたずらにまひるとやりあうよりも数で優位に立って戦う。
団長が考えそうなことだ。
すすき野交差点に展開している装甲車が再び後退を始めた。
自衛隊はビルの屋上に蟠る黒い翼の群れから距離を取って静観することにしたようだ。
まひると対峙するのは辻っ子代表と大量のロシアヴァンパイア。
まひるにとって絶対的に不利な状況になった。
「どうする?」
コノッピか。まだ呼んだつもりないけど。
「あたしのこと考えたでしょ?」
まあ、そうだけど。
「なら、呼んだも同じだね」
よっぽど僕の中から出たいんだね。
「そりゃー、外の空気のほうがおいしいから」
でも、どうやって出るの?
「試してみる?」
痛くない?
「さっきはどうだった?」
覚えてないよ。
「なら、大丈夫じゃない?」
ま、そうかも。
「やるよ」
というコノッピの言葉と同時に、僕の意識が後ろにずれ始めた。
このままいくと気絶しそうだ。
でも、気絶していたら僕がまひるを助けることにならない。
「じゃあ、目を開けてれば? できるでしょ?」
そう言われて気を確かに持ってコノッピが出てくるのを待った。
僕はコノッピのことを霊的な存在だと思っていた。
僕が気を失ったら、エクトプラズムみたいに口からモクモク煙となって出てくるものだと。
でも、それは大間違いだった。
「イテーーーーーーーーーーー!」
僕は服をめくって膨れ上がった腹を晒した。
へそに亀裂が縦に走り、そこから丸い血だらけのものが捩じり出て来ようとしていた。
どこから出るつもりだよ! 痛いってば!!!
「ちょっと黙ってて、ここ難しいんだから」
痛すぎるって!
鼻の穴からスイカ出すくらい痛い!
じりじりと頭が出て来る最中何度も気を失いかける。
やっと頭が出たと思ったら今度は肩を捩じり出し始める。
やっぱり痛い。相当痛い。
この世のありとあらゆる痛みをひっくるめたくらい痛い。
ようやく両肩を出し終わると、そこから血まみれの少女がぬるっと目の前に現れ出たのだった。
「やっと出れた。毎度大変だよ」
とんでもなく痛かった。想像を絶する痛みだった。
前世と後世を含めた人生で一番の痛みだった。
「だから最初に気を失って痛みを回避してたんじゃない?」
なるほど。でも、この後どうする?
コノッピが帰ってくるまで僕のお腹は裂けたままなんだろうか?
「じゃ、行って来るね」
「ちょっと待って、これ着て」
コノッピは裸だった。
このまま行かせては、いろいろまずい。
僕は上着を脱いでコノッピに渡した。
「ありがとう」
コノッピは上着を羽織ると、物凄い勢いで大看板を飛び昇って行った。
僕も戦いに参加したいけど、内臓が見えてるこの状態では無理そうだった。
頑張って。
今度も僕は応援に徹するつもりだった。
もう何時間もの間、じっとして動きがない。
その間にも自衛隊は増員され、包囲網が十重二十重と厚くなってきていた。
ここにいると人目につくので、もう一度大看板によじ登ることにする。
3階くらい登って落ち着くことにする。
この状況を全国のお茶の間に伝えているのだろうか、上空からヘリコプターの音が降ってきていた。
向かいのビルの屋上に人影が見えた。
他のビルにも同じような人影がいて、銃口を交差点に向けていた。
自衛隊の狙撃手が配置されいるようだ。
ターゲットは暴れまわっていた少女のはずだけど、突然現れて戦い出したまひるまで脅威と映ってなければいいと思った。
札幌の空は茜色に染まりだし日が暮れようとしていた。
そういえば空が静かだった。
いつの間にかヘリコプターの音がしなくなっていたのだ。
いよいよあたりが暗くなり始めたころ向かいの屋上で異変が起きた。
狙撃手の頭上に巨大な翼が舞い降りてきたのだ。
銃声がビルの間に一発だけ響き渡ってすぐに静かになった。
それは狙撃手の断末魔のように聞こえた。
他のビルの上の狙撃手の上にも次々に黒い翼が舞い降りて来た。
そして夜空から無数の黒い翼が降って来てそこかしこのビルの屋上を黒く塗りこめてしまった。
遠軽で見たロシアヴァンパイアのようだった。
僕のいる大看板を見上げてみた。
やはり、こちら側にもたくさんの黒い影が集まって来ている。
夜陰に乗じて北海道中のロシアヴァンパイアがすすきの交差点に集結したようだった。
もしかしたら団長の娘はこれを待っていたのじゃないか?
いたずらにまひるとやりあうよりも数で優位に立って戦う。
団長が考えそうなことだ。
すすき野交差点に展開している装甲車が再び後退を始めた。
自衛隊はビルの屋上に蟠る黒い翼の群れから距離を取って静観することにしたようだ。
まひると対峙するのは辻っ子代表と大量のロシアヴァンパイア。
まひるにとって絶対的に不利な状況になった。
「どうする?」
コノッピか。まだ呼んだつもりないけど。
「あたしのこと考えたでしょ?」
まあ、そうだけど。
「なら、呼んだも同じだね」
よっぽど僕の中から出たいんだね。
「そりゃー、外の空気のほうがおいしいから」
でも、どうやって出るの?
「試してみる?」
痛くない?
「さっきはどうだった?」
覚えてないよ。
「なら、大丈夫じゃない?」
ま、そうかも。
「やるよ」
というコノッピの言葉と同時に、僕の意識が後ろにずれ始めた。
このままいくと気絶しそうだ。
でも、気絶していたら僕がまひるを助けることにならない。
「じゃあ、目を開けてれば? できるでしょ?」
そう言われて気を確かに持ってコノッピが出てくるのを待った。
僕はコノッピのことを霊的な存在だと思っていた。
僕が気を失ったら、エクトプラズムみたいに口からモクモク煙となって出てくるものだと。
でも、それは大間違いだった。
「イテーーーーーーーーーーー!」
僕は服をめくって膨れ上がった腹を晒した。
へそに亀裂が縦に走り、そこから丸い血だらけのものが捩じり出て来ようとしていた。
どこから出るつもりだよ! 痛いってば!!!
「ちょっと黙ってて、ここ難しいんだから」
痛すぎるって!
鼻の穴からスイカ出すくらい痛い!
じりじりと頭が出て来る最中何度も気を失いかける。
やっと頭が出たと思ったら今度は肩を捩じり出し始める。
やっぱり痛い。相当痛い。
この世のありとあらゆる痛みをひっくるめたくらい痛い。
ようやく両肩を出し終わると、そこから血まみれの少女がぬるっと目の前に現れ出たのだった。
「やっと出れた。毎度大変だよ」
とんでもなく痛かった。想像を絶する痛みだった。
前世と後世を含めた人生で一番の痛みだった。
「だから最初に気を失って痛みを回避してたんじゃない?」
なるほど。でも、この後どうする?
コノッピが帰ってくるまで僕のお腹は裂けたままなんだろうか?
「じゃ、行って来るね」
「ちょっと待って、これ着て」
コノッピは裸だった。
このまま行かせては、いろいろまずい。
僕は上着を脱いでコノッピに渡した。
「ありがとう」
コノッピは上着を羽織ると、物凄い勢いで大看板を飛び昇って行った。
僕も戦いに参加したいけど、内臓が見えてるこの状態では無理そうだった。
頑張って。
今度も僕は応援に徹するつもりだった。