キノッピ 47
文字数 1,510文字
「援軍が来ます」
コージがそう言ってから10分も経たないうちに、峠道に10tトラックの行列が出来た。
トラックは西からも東からも集まって来てすべてが望羊中山の駐車場に入って来たのだった。
見渡す限りに蝟集したトラックには共通する特徴があった。
「38ー38」
「83-83」
「38-83」
「83-38」
どのトラックのナンバーも38 か83 だった。
ということはこれは全て、
「養蜂家の仲間たちだよ」
養蜂家仲間に町長と決戦すると伝えたら助力を申し出てくれたのだそう。
「じゃあ、蜜蜂で対決?」
「まさか。商売道具でそんなことしないよ」
トラックから降りた作業着の人たちが荷台のドアを開く。
そこから出て来たのは蛭人間たち。
それぞれ数体ずつの改・ドラキュラやカーミラ・亜種だった。
「親父が作業用に提供してたんだ」
幌加内で蜜蜂の巣箱を持った時、これを100箱も200箱も設置するのは大変だと思った。
老齢化が進む養蜂業界にとっては朗報だったことだろう。
僕は木漏れ日の中で作業する養蜂家と蛭人間の朴訥な姿を想像してみた。
なんだかおとぎ話のように感じた。
「一家に5体は配属してるから……」
トラック30台分とすると、総勢150の蛭人間。
対する敵は蛭牛、約50頭。
「北海道に渡ってからだから半月も経っていないはず。それで50頭の牛の血をすすって殺すなんて、どんだけ大食いなんだか」
半ばあきれつつコージが言う。
蛭牛は蛭人間の3倍の大きさとして、体躯的には5分と5分。
まひるの戦闘力が加われば有利に戦えそうだが、問題はあの町長の存在だ。
どれだけの力量か分からない今、戦況を見極めるのは難しそうだった。
「いうて、向こうは牛。知恵ではこっちが上回っている」
と、コージは楽観視するのだが。
「じゃあ、行くね」
まひるがトラックを降りる。
僕も続くと、凹み頭のカーミラ・亜種が近づいて来て頭を下げた。
どうやら背中に乗れと言っているらしい。
それに応えてコージと一緒に背中に乗ると、目の前の改・ドラキュラに乗ったまひるが、
「何かあがる曲かけて」
と言ったので、隣のコージに、
「なんかある?」
コージはポケットからスマフォを取り出しプレイリストをこちらに見せて来た。
「バック難波走り」
いやいや。誰でもプレイリストに変な名前つけたがるけども、これはまったく分からん。
そもそも難波走りにバックなんてあんのか?
「何、これ?」
「Back Numberだけど、世代だろ?」
なんだ。確かに高校のころ皆聞いてたけど僕は蚊帳の外だったから……。
と思いつつプレイリストの詳細を見ると、案外知ってる曲が並んでいた。
「大不正解」
タイトルだけで言うと、今の状況でこれは違うな。
「HAPPY BIRTHDAY」
片思いの曲。僕がまひるに? そんなのおこがましすぎる。
「オールドファッション」
聞いたことはあるけど、この曲じゃないな。
「エメラルド」
憧れをこじらせた歌だ。
まさに僕の歌。これに決定!
曲名をタップすると軽快な前奏が始まった。
まひるから「いいね」のサインが出た。
コージのトラックの拡声器を通して楽曲が道の駅に響き渡る。
それをきっかけに養蜂家の蛭人間勢が前進を始めた。
横一列に並ぶ養蜂家の蛭人間たち150体。
そこに突進して来る蛭牛の群れ50頭。
駐車場の真ん中で両軍が激突する瞬間だった。
まひるが改・ドラキュラの頭を凹ませて高く高く飛翔した。
全員の視線がまひるに注がれる中、
その行く手に待ち構えるのは、メタボ腹のおっさん改め、巨大なコウモリ翼を広げ禍々しいヴァンパイアの姿に変化 した町長だ。
今まさに、羊蹄山が見守る中山峠で戦端が開かれた。
これが世に言う揚げ芋戦争の始まりだった。
コージがそう言ってから10分も経たないうちに、峠道に10tトラックの行列が出来た。
トラックは西からも東からも集まって来てすべてが望羊中山の駐車場に入って来たのだった。
見渡す限りに蝟集したトラックには共通する特徴があった。
「38ー38」
「83-83」
「38-83」
「83-38」
どのトラックのナンバーも
ということはこれは全て、
「養蜂家の仲間たちだよ」
養蜂家仲間に町長と決戦すると伝えたら助力を申し出てくれたのだそう。
「じゃあ、蜜蜂で対決?」
「まさか。商売道具でそんなことしないよ」
トラックから降りた作業着の人たちが荷台のドアを開く。
そこから出て来たのは蛭人間たち。
それぞれ数体ずつの改・ドラキュラやカーミラ・亜種だった。
「親父が作業用に提供してたんだ」
幌加内で蜜蜂の巣箱を持った時、これを100箱も200箱も設置するのは大変だと思った。
老齢化が進む養蜂業界にとっては朗報だったことだろう。
僕は木漏れ日の中で作業する養蜂家と蛭人間の朴訥な姿を想像してみた。
なんだかおとぎ話のように感じた。
「一家に5体は配属してるから……」
トラック30台分とすると、総勢150の蛭人間。
対する敵は蛭牛、約50頭。
「北海道に渡ってからだから半月も経っていないはず。それで50頭の牛の血をすすって殺すなんて、どんだけ大食いなんだか」
半ばあきれつつコージが言う。
蛭牛は蛭人間の3倍の大きさとして、体躯的には5分と5分。
まひるの戦闘力が加われば有利に戦えそうだが、問題はあの町長の存在だ。
どれだけの力量か分からない今、戦況を見極めるのは難しそうだった。
「いうて、向こうは牛。知恵ではこっちが上回っている」
と、コージは楽観視するのだが。
「じゃあ、行くね」
まひるがトラックを降りる。
僕も続くと、凹み頭のカーミラ・亜種が近づいて来て頭を下げた。
どうやら背中に乗れと言っているらしい。
それに応えてコージと一緒に背中に乗ると、目の前の改・ドラキュラに乗ったまひるが、
「何かあがる曲かけて」
と言ったので、隣のコージに、
「なんかある?」
コージはポケットからスマフォを取り出しプレイリストをこちらに見せて来た。
「バック難波走り」
いやいや。誰でもプレイリストに変な名前つけたがるけども、これはまったく分からん。
そもそも難波走りにバックなんてあんのか?
「何、これ?」
「Back Numberだけど、世代だろ?」
なんだ。確かに高校のころ皆聞いてたけど僕は蚊帳の外だったから……。
と思いつつプレイリストの詳細を見ると、案外知ってる曲が並んでいた。
「大不正解」
タイトルだけで言うと、今の状況でこれは違うな。
「HAPPY BIRTHDAY」
片思いの曲。僕がまひるに? そんなのおこがましすぎる。
「オールドファッション」
聞いたことはあるけど、この曲じゃないな。
「エメラルド」
憧れをこじらせた歌だ。
まさに僕の歌。これに決定!
曲名をタップすると軽快な前奏が始まった。
まひるから「いいね」のサインが出た。
コージのトラックの拡声器を通して楽曲が道の駅に響き渡る。
それをきっかけに養蜂家の蛭人間勢が前進を始めた。
横一列に並ぶ養蜂家の蛭人間たち150体。
そこに突進して来る蛭牛の群れ50頭。
駐車場の真ん中で両軍が激突する瞬間だった。
まひるが改・ドラキュラの頭を凹ませて高く高く飛翔した。
全員の視線がまひるに注がれる中、
その行く手に待ち構えるのは、メタボ腹のおっさん改め、巨大なコウモリ翼を広げ禍々しいヴァンパイアの姿に
今まさに、羊蹄山が見守る中山峠で戦端が開かれた。
これが世に言う揚げ芋戦争の始まりだった。