キノッピ 41

文字数 2,154文字

「sdlkfdふぃ。sd!」

 またコージの叫び声が聞こえた。

「コージ!」

 血汚泥の波間にコージを探す。

「たすsかふぁいh!」

 巨獣の方向に、カーミラ・亜種の三つ編みにつかまって押し流されそなコージが見えた。

 足をやられているせいで踏ん張りがきないのだろう、このままではエージェントさんたちのように血汚泥に呑まれてしまいそうだった。

「今、そっちに行く!」

 まひるのこともあったが、見捨てることはできなかった。

 とはいうものの血汚泥に足をすくわれそうで、なかなかコージの元へ近づけない。

「木下dlkgs!」

 コージも僕に気づいて必死に声を上げている。もう溺れる寸前といった様子だ。

 僕もコージに向かって行こうとするけれど、血汚泥の勢いが強くて思うようにならない。

「ダメだ! 流される」
 
 コージにこの苦境を訴えようとすると、コージが掴っているカーミラ・亜種が波間を搔き分けてこっちに近づいて来た。

流石に馬力が違うのか、この激流をなんなく移動している。

そしてついには僕の側まで来て、その鋭い鎌爪をうまく使って引き寄せ脇に抱えられてしまった。

「コージ、大丈夫か?」
 
 三つ編みにしがみつくコージに声を掛けると、

「は? 溺れてたのはお前だろが」

 あ、そういうこと。どうやら助けられたのは僕のほうだったよう。

「まあ、心配してもらったのはありがたいがな」

 と言いながら、蛭人間を大看板へ差し向けるので、

「待って、先にまひるを助けなきゃ」

 というと、

「わかった。どこにいる?」

「多分、交差点の向こう」

 するとコージがカーミラ・亜種の頭を叩いて、

「dsfはいうつ!」

 と訳がわからない言葉を口にした。

 すると蛭人間は方向を変え交差点の中心に向かって進みだした。

どうやら、今までコージが叫んでたのは蛭人間語だったらしい。

「こっちに捕まれ。そのままだと締め上げかねん」

 言わてカーミラ・亜種の脇から三つ編みに移動すると、

「で、これから助けに行くのは?」

「夜野まひ……」

 と言かけると、

「@mahiinochi、コスプレーヤーの。だろ?」

 すっかり忘れていた。まひるって今、隠密逃避行中だったんだっけ。



 僕らが血汚泥の中をカーミラ・亜種につかまって移動するうち、巨獣に引きはがされた他の蛭人間たちが周りに集まって来ていた。

しかしその数が増えれば増えるほど巨獣の足元は自由になって行くわけで、その挙動を抑えられなくなりつつあった。

「急いで、コスプレーヤーさんが」

「はいはい。しそはkふえ!」

 コージは手を挙げて一群の蛭人間に号令をする。 

するとカーミラ・亜種が改・ドラキュラが一斉に血汚泥を蹴立ててスピードを上げた。

「お前。すごいな」

 まるで軍団を率いて戦場に乗り込むヒーローのようだったから。

「今度こそ、親父の願いをかなえられそうだ」

 コージの父親が町長の要望を聴き入れ蛭人間の製造をしたのは、辻っ子とヴァンパイアとが共生できるようにと思ったからだそうだ。

「でも、あいつらはアンチに都合のいいよにしか使おうとしなかった」

 いつの間にか、コージもアンチの思想に染まって判断ができなくなった。

それで団長の説明を真に受けて、命令されたままにまひるに蛭人間を仕向けたのだった。

「あれは間違いだった。すまん」

「いいよ。もう」

 短い沈黙のあとコージが思い出したよに言った。

「お前こそ、よくあの蜂球からコスプレーヤーさんを助け出したよな」

 階段の上のコージからは僕が蜂球を破壊してまひるを助けたように見えたという。

それはきっとコノッピだ。

僕はあの時、コノッピが腹から出た激痛で気絶してしまったはずだから。

でもそれを言ってもきっと信じてもらえない。

「それは……」

 と言い淀むとコージが、

「お前、もしかしてまたあの子がやったと思ってるんじゃないか?」

「あの子?」

「ああ、お前の別キャラの子。コノッピって言ったっけか」

 ……あれは小学校の5年か6年だったと思う。

いつもちょっかいをしてくる悪ガキ連中に体育館の物置に呼び出されて殴る蹴るの暴行を受けた。

僕は何でそんなことされるか分からず、必死に謝って許してもらおうとした。

でも、悪ガキどもは口からよだれをたらして狂ったように殴る蹴るを続けた。

助けて!

そう叫んだ時いつもの意識のズレが来て、あの子が突然目の前に現れた。

あの子は悪ガキの顔面をつかんで一人ずつ物置の壁に叩きつけてゆく。

多分みんな気絶していた。

ガラス窓に頭を突っ込んで血まみれになってるやつもいた。

その時の僕はまったく現実感がなく、まるでVRで他人がゲームをしているのを見ているような感覚だった。

だから、悪ガキたちに一切同情なんかしなかった。

ザマ―、どうせなら死んじゃえばいいのにって思った。

もがれた腕や脚が床に転がり、血飛沫が壁に飛び散る。

あの子がさらなる制裁を加えるのに愉悦を感じていた。

 気づいた時、男の先生たち数人に取り押さえられて僕は物置の外にいた。

周りに人だかりができていて、その中にコージや山根サイクルのさっちゃんもいた。

「コノッピが助けてくれたんだ!」

 僕は無意識に叫んでいたのだった。

 蛭人間の三つ編みを掴んだコージが、

「お前、あの時と瞳の色が一緒だぞ」
 
 と言た。

「色?」

「ああ、金色に光ってる。まるでヴァンパイアみたいに」
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