まひる 44
文字数 1,816文字
巨獣は体の全ての身体部位を血汚泥の海に沈めて瓦解した。
あたしとキノッピ、それと養蜂家のコージは頭の凹んだカーミラ・亜種に掴まって、札幌の町に浸透を始めた血汚泥の流れに乗ってすすき野交差点を後にした。
振り向けば、没していた瓦礫の山や自衛隊車両が姿を見せ始めている。
戦いの間、遠巻きにしていた自衛隊も再び態勢を整えようとしていた。
「これからどうする?」
コージが聞いて来た。
キノッピは答えてよいか確認するようにあたしに振り返る。
あたしの行先は敵方に筒抜けだろうから問題ないと頷いて見せる。
するとキノッピは、
「苫小牧へ」
と簡潔に答えた。
そうだ。あたしはこれから北海道を出てフェリーで本州に渡り辻沢へ帰らねばならない。
屍人にしてしまったコトハを元に戻すために。
そのためにまずやらねばならないことがある。
アヤネからコトハを取り返すこと。
探す?
いいや、その必要はないだろう。
きっとアヤネは辻沢までのどこかで待ち構えている。
だから逆に、あたしたちの逃走経路を前触れした方がよいくらいだった。
すすき野交差点から裏手に回るとき東の空を見ると白み始めていた。
夜明けが来たのだ。
長い夜だった。
リリカ&メルルとの問答、
その父親が巨大化した男根巨獣となって一戦交わし、
さらに母親の偽ヒナタとの決戦。
彼女らのカルマの解消になったかどうかは知らないが、あたし的にもケリをつけることはできたと思う。
交差点を曲がって路地に入った。
不思議とここは血汚泥の影響が少ないようだ。
ヤオマン・イン・札幌の前までくるとコージが凹み頭のカーミラ・亜種を横づけにして、あたしとキノッピにここで降りるように促した。
「助かったよ。コージはこれからどうする?」
とキノッピが尋ねる。
「本業のほうも準備しなければいけないし、こいつらを連れて一旦辻沢に帰るよ」
と後ろにいる数体の蛭人間を見て言った。
キノッピが、
「なら……」
ここから先の行程が一緒だから同行を勧めようとすると、
コージは、
「いや、世話になった人に挨拶しないとだから」
とそれを遮って言った。
世話になった人とはおそらく今回の騒動の元になったアンチ勢のことだろう。
だが、コージはあたしたちに協力した以上もはやアンチ勢と袂を分かったはずで、挨拶に行けば何をされるか知れない境遇だ。
なおのこと戦線離脱して一緒に行こうというキノッピらしい思いやりだったのだが、あえなく断られてしまった。
そもそも挨拶とは?
コージの心を読んでみる。
やはりそうだった。
「父の仇を討つ!」(極太明朝体)
と固く誓っていた。
あらためてコージの手勢を見る。
凹み頭のカーミラ・亜種、他に血まみれのセーラー服を着たカーミラ・亜種が2体に、改・ドラキュラが3体。合計6体の蛭人間。
無間地獄を生き抜いた猛者たちとはいえ、この数では人ひとり蒸し殺すこともできなさそうだった。
その勢力で敵地に乗り込むとは無謀すぎるのでは?
「あたしたちも行くよ」
助力してくれた人間を見捨てて行くわけにはいかなかった。
「え?」
コージが驚いた表情を見せる。
キノッピが嬉しそうにあたしの言葉に追随する。
「協力するって、まひるが。もちろん僕も」
「いいのか?」
「ああ。だって僕ら仲間だろ」
そうだ。コージはあたしたちの仲間になったのだ。
あたしは今回、北海道を横断しながら様々な人に出会った。
まず佐呂間でキノッピこと木下くん。
遠軽では、エカチェリーナさん、ヒョードルさん、セルゲイ。司祭もいたか。
旭川では、JKのアイルとラーメン店主のユタカくん。それにウラジーミル改めカイトくん。
そして、札幌のコージだ。
みんなの協力があって、あたしはここまで来れたと思う。
別れて来た人たちのためにも、あたしはいつでも感謝の気持ちを露わしておきたい。
「行先を教えて」
コージは一瞬口ごもったが、すぐに、
「峠の茶屋がある道の駅」
と言った。
「どこ?」
キノッピも知らないらしい。
峠の茶屋なら日本全国にありそうだが。
「たしか、揚げ芋食って待ってるって」
と言って、スマフォを取り出して調べ出した。
「ここ。望羊中山」
とカーミラ・亜種の上から検索結果をキノッピに投げてよこした。
キノッピがそれを受けて、
「まひる。道民のソールフードが食べられるよ」
キノッピは心の中で苫小牧への道から外れると考えた上で明るく言ったのだった。
どんな時も、人のことを最優先するキノッピ。
あたしはこの人と出会えて本当に良かったと思った。
あたしとキノッピ、それと養蜂家のコージは頭の凹んだカーミラ・亜種に掴まって、札幌の町に浸透を始めた血汚泥の流れに乗ってすすき野交差点を後にした。
振り向けば、没していた瓦礫の山や自衛隊車両が姿を見せ始めている。
戦いの間、遠巻きにしていた自衛隊も再び態勢を整えようとしていた。
「これからどうする?」
コージが聞いて来た。
キノッピは答えてよいか確認するようにあたしに振り返る。
あたしの行先は敵方に筒抜けだろうから問題ないと頷いて見せる。
するとキノッピは、
「苫小牧へ」
と簡潔に答えた。
そうだ。あたしはこれから北海道を出てフェリーで本州に渡り辻沢へ帰らねばならない。
屍人にしてしまったコトハを元に戻すために。
そのためにまずやらねばならないことがある。
アヤネからコトハを取り返すこと。
探す?
いいや、その必要はないだろう。
きっとアヤネは辻沢までのどこかで待ち構えている。
だから逆に、あたしたちの逃走経路を前触れした方がよいくらいだった。
すすき野交差点から裏手に回るとき東の空を見ると白み始めていた。
夜明けが来たのだ。
長い夜だった。
リリカ&メルルとの問答、
その父親が巨大化した男根巨獣となって一戦交わし、
さらに母親の偽ヒナタとの決戦。
彼女らのカルマの解消になったかどうかは知らないが、あたし的にもケリをつけることはできたと思う。
交差点を曲がって路地に入った。
不思議とここは血汚泥の影響が少ないようだ。
ヤオマン・イン・札幌の前までくるとコージが凹み頭のカーミラ・亜種を横づけにして、あたしとキノッピにここで降りるように促した。
「助かったよ。コージはこれからどうする?」
とキノッピが尋ねる。
「本業のほうも準備しなければいけないし、こいつらを連れて一旦辻沢に帰るよ」
と後ろにいる数体の蛭人間を見て言った。
キノッピが、
「なら……」
ここから先の行程が一緒だから同行を勧めようとすると、
コージは、
「いや、世話になった人に挨拶しないとだから」
とそれを遮って言った。
世話になった人とはおそらく今回の騒動の元になったアンチ勢のことだろう。
だが、コージはあたしたちに協力した以上もはやアンチ勢と袂を分かったはずで、挨拶に行けば何をされるか知れない境遇だ。
なおのこと戦線離脱して一緒に行こうというキノッピらしい思いやりだったのだが、あえなく断られてしまった。
そもそも挨拶とは?
コージの心を読んでみる。
やはりそうだった。
「父の仇を討つ!」(極太明朝体)
と固く誓っていた。
あらためてコージの手勢を見る。
凹み頭のカーミラ・亜種、他に血まみれのセーラー服を着たカーミラ・亜種が2体に、改・ドラキュラが3体。合計6体の蛭人間。
無間地獄を生き抜いた猛者たちとはいえ、この数では人ひとり蒸し殺すこともできなさそうだった。
その勢力で敵地に乗り込むとは無謀すぎるのでは?
「あたしたちも行くよ」
助力してくれた人間を見捨てて行くわけにはいかなかった。
「え?」
コージが驚いた表情を見せる。
キノッピが嬉しそうにあたしの言葉に追随する。
「協力するって、まひるが。もちろん僕も」
「いいのか?」
「ああ。だって僕ら仲間だろ」
そうだ。コージはあたしたちの仲間になったのだ。
あたしは今回、北海道を横断しながら様々な人に出会った。
まず佐呂間でキノッピこと木下くん。
遠軽では、エカチェリーナさん、ヒョードルさん、セルゲイ。司祭もいたか。
旭川では、JKのアイルとラーメン店主のユタカくん。それにウラジーミル改めカイトくん。
そして、札幌のコージだ。
みんなの協力があって、あたしはここまで来れたと思う。
別れて来た人たちのためにも、あたしはいつでも感謝の気持ちを露わしておきたい。
「行先を教えて」
コージは一瞬口ごもったが、すぐに、
「峠の茶屋がある道の駅」
と言った。
「どこ?」
キノッピも知らないらしい。
峠の茶屋なら日本全国にありそうだが。
「たしか、揚げ芋食って待ってるって」
と言って、スマフォを取り出して調べ出した。
「ここ。望羊中山」
とカーミラ・亜種の上から検索結果をキノッピに投げてよこした。
キノッピがそれを受けて、
「まひる。道民のソールフードが食べられるよ」
キノッピは心の中で苫小牧への道から外れると考えた上で明るく言ったのだった。
どんな時も、人のことを最優先するキノッピ。
あたしはこの人と出会えて本当に良かったと思った。