まひる 26
文字数 1,838文字
あたしが偽ヒョードルの首に長ドスを突きつけていると、背後から声がかかった。
振り向くと女子高生が立っていて、偽ヒョードルに狙いを定め拳銃を構えていた。
「アイルさん。どうしました?」
と女子高生の後ろから首を出したのは、先ほどカウンターの中にいた中年男のユタカだった。
「ユタカくんは出てこないの」
とごま塩頭を店の中に押し返す。
口ぶりからラーメン屋の主は女子高生のようだ。ということはこのアイルというこの子がヴァンパイア?
そして目は偽ヒョードルから離さずに、
「あんた。誰だか知らないけど、そいつに利用されてるよ」
と言ったので、
「利用とは?」
と聞き返すと、
「そいつは自分で戦わず、人を使って邪魔者を消す卑怯者だ」
と言うと、首を一振りしてあたしに退くよう仕草した。
指示に倣って数歩下がる。
「ジジー。海斗はどうした?」
アイルが偽ヒョードルに聞いた。
「お前のセフレのことなど知るか! ズベ○め!!」
と汚い言葉でアイルを罵った。
その言葉は十分に引き金を引く理由だが、アイルは撃たずにあたしを見たので、
「家に帰した」
と答えてあげた。
アイルはそれを聞いて、
「ありがとう」
頭を一つ下げてから、
「で、この人はウチと戦う気はなさそうだが、ジジーはどうする?」
と偽ヒョードルに聞く。
偽ヒョードルは、ゆっく立ち上がり、
「そうだな。今夜は止めておこう」
と後ろを向いて片手を挙げた刹那、何かがアイルに襲いかかった。
それはリクス姿の羽根の生えた輩で、空から1羽、2羽、3羽とアイルに浴びせかかって来たのだった。
あたしは瞬時にアイルに味方することに決め、リクスガラスに長ドスで斬りかかる。
ところが、一刀目を叩き込む寸前、あたしの目の前でリクスガラスは全て紫色の炎を上げて雨散霧消してしまった。
あとのアイルの周りには、巨大な深黒の棘が数本地面から天に向かって突き出していた。
このヴァンパイアは奇妙な技を使うらしい。
「おま、こんなんでウチを何とかできると?」
と棘列の中から出てきたアイルは歩きながら偽ヒョードルに拳銃を連射し始めた。
その弾は全て命中するも、寸前で飴のような白い物質が偽ヒョードルの体を覆い全て受け止めている。
こいつもまた、奇妙な技を持っているようだった。
「ジジー、すぐ閉じこもりやがって」
と言うと、今度は偽ヒョードルの足の下から先ほどの漆黒の棘が次々に飛び出して来た。
しかし、その全てを白い物質が阻止して偽ヒョードルの体を守り、最後には黒い棘と白い巨大な飴玉の壮大なオブジェができあがったのだった。
「ちぇっ! また泥玉かよ」
といってアイルがその前で腕組みをしてそれを見上げている。
あたしはアイルの横に立って、
「これは?」
「ジジーの防御スフィア。一ヶ月はこのまんま。こんなん店前にあったら商売になんねーのよ」
と吐き捨てるように言った。
そこに、
「アイルさん」
と暗がりから呼ぶ声がした。
そちらを見るとウラジーミルだった。
3丁のAK自動小銃を両肩に担いで重そうにしている。
「海斗。ジジーの操心術が解けたんだね」
とアイルが言うと、
「ええ、結構しんどかったです」
と答えた。
教会で会った時から少し変だったのは、偽ヒョードルの操心術のせいだったそうだ。
先ほど店に来たとき変に子どもっぽかったのも、アイルの影響化に入ったせいでそれが中途半端に解けたからだった。
「でも、こいつを教会から持ち出せたのはえらかったよ」
とアイルがAK一丁を受け取り、もう一丁をあたしに渡すと、
「こいつであそこを撃ちまくってくれ」
と言った。
アイルが指さした場所は飴玉のそこだけ、臍のように落ちくぼんでいた。
あたし、アイル、ウラジーミル改め海斗の3人で偽ヒョードルの臍に狙いを定めて、
「てー!」
一斉連射。
銃弾と硝煙が世界を覆い尽くした後、白い飴玉に大きなひびが入った。
そこにアイルがゴン太 の黒棘をねじ込むと、もう白い飴は偽ヒョードルを守ることはなかった。
こうして老獪で臆病なヴァンパイアは、旭川の早春の星空に串刺しの姿を晒して最期を遂げたのだった。
それを眺めながらアイルが、
「あんた、誰だか知らんけど、助かった」
とお礼を言った。
そして、店の中から様子をうかがっていたユタカがおずおずと近づいてきて、海斗と一緒に、
「「助かりました」」
と頭を下げた。
帰り際、あたしは何もしていないと言ったのに、
「お礼のラーメン5食無料券です」
とユタカが渡してきた。
貰うには貰ったが、おそらくあたしは永久にこれを使うことはないだろう。
振り向くと女子高生が立っていて、偽ヒョードルに狙いを定め拳銃を構えていた。
「アイルさん。どうしました?」
と女子高生の後ろから首を出したのは、先ほどカウンターの中にいた中年男のユタカだった。
「ユタカくんは出てこないの」
とごま塩頭を店の中に押し返す。
口ぶりからラーメン屋の主は女子高生のようだ。ということはこのアイルというこの子がヴァンパイア?
そして目は偽ヒョードルから離さずに、
「あんた。誰だか知らないけど、そいつに利用されてるよ」
と言ったので、
「利用とは?」
と聞き返すと、
「そいつは自分で戦わず、人を使って邪魔者を消す卑怯者だ」
と言うと、首を一振りしてあたしに退くよう仕草した。
指示に倣って数歩下がる。
「ジジー。海斗はどうした?」
アイルが偽ヒョードルに聞いた。
「お前のセフレのことなど知るか! ズベ○め!!」
と汚い言葉でアイルを罵った。
その言葉は十分に引き金を引く理由だが、アイルは撃たずにあたしを見たので、
「家に帰した」
と答えてあげた。
アイルはそれを聞いて、
「ありがとう」
頭を一つ下げてから、
「で、この人はウチと戦う気はなさそうだが、ジジーはどうする?」
と偽ヒョードルに聞く。
偽ヒョードルは、ゆっく立ち上がり、
「そうだな。今夜は止めておこう」
と後ろを向いて片手を挙げた刹那、何かがアイルに襲いかかった。
それはリクス姿の羽根の生えた輩で、空から1羽、2羽、3羽とアイルに浴びせかかって来たのだった。
あたしは瞬時にアイルに味方することに決め、リクスガラスに長ドスで斬りかかる。
ところが、一刀目を叩き込む寸前、あたしの目の前でリクスガラスは全て紫色の炎を上げて雨散霧消してしまった。
あとのアイルの周りには、巨大な深黒の棘が数本地面から天に向かって突き出していた。
このヴァンパイアは奇妙な技を使うらしい。
「おま、こんなんでウチを何とかできると?」
と棘列の中から出てきたアイルは歩きながら偽ヒョードルに拳銃を連射し始めた。
その弾は全て命中するも、寸前で飴のような白い物質が偽ヒョードルの体を覆い全て受け止めている。
こいつもまた、奇妙な技を持っているようだった。
「ジジー、すぐ閉じこもりやがって」
と言うと、今度は偽ヒョードルの足の下から先ほどの漆黒の棘が次々に飛び出して来た。
しかし、その全てを白い物質が阻止して偽ヒョードルの体を守り、最後には黒い棘と白い巨大な飴玉の壮大なオブジェができあがったのだった。
「ちぇっ! また泥玉かよ」
といってアイルがその前で腕組みをしてそれを見上げている。
あたしはアイルの横に立って、
「これは?」
「ジジーの防御スフィア。一ヶ月はこのまんま。こんなん店前にあったら商売になんねーのよ」
と吐き捨てるように言った。
そこに、
「アイルさん」
と暗がりから呼ぶ声がした。
そちらを見るとウラジーミルだった。
3丁のAK自動小銃を両肩に担いで重そうにしている。
「海斗。ジジーの操心術が解けたんだね」
とアイルが言うと、
「ええ、結構しんどかったです」
と答えた。
教会で会った時から少し変だったのは、偽ヒョードルの操心術のせいだったそうだ。
先ほど店に来たとき変に子どもっぽかったのも、アイルの影響化に入ったせいでそれが中途半端に解けたからだった。
「でも、こいつを教会から持ち出せたのはえらかったよ」
とアイルがAK一丁を受け取り、もう一丁をあたしに渡すと、
「こいつであそこを撃ちまくってくれ」
と言った。
アイルが指さした場所は飴玉のそこだけ、臍のように落ちくぼんでいた。
あたし、アイル、ウラジーミル改め海斗の3人で偽ヒョードルの臍に狙いを定めて、
「てー!」
一斉連射。
銃弾と硝煙が世界を覆い尽くした後、白い飴玉に大きなひびが入った。
そこにアイルがゴン
こうして老獪で臆病なヴァンパイアは、旭川の早春の星空に串刺しの姿を晒して最期を遂げたのだった。
それを眺めながらアイルが、
「あんた、誰だか知らんけど、助かった」
とお礼を言った。
そして、店の中から様子をうかがっていたユタカがおずおずと近づいてきて、海斗と一緒に、
「「助かりました」」
と頭を下げた。
帰り際、あたしは何もしていないと言ったのに、
「お礼のラーメン5食無料券です」
とユタカが渡してきた。
貰うには貰ったが、おそらくあたしは永久にこれを使うことはないだろう。