まひる 14

文字数 1,332文字

 銃火器は効かないが長ドスは使える敵。

本当にそんなヴァンパイアがいるのだろうか?

あの白髭の老人の悪い冗談のような気がしてならなかった。

 何でもニコニコ気安く引き受ける態度。

これは狡猾な人間が裏返しで持ってる属性だ。

例えば利を見て敵に寝返るような輩。

それが宗教家だというだけで博愛精神に成り代わる不思議。

別に具体的な体験があるわけでないけれども。

 セルゲイと作戦会議をしようと書斎に出ると、キノッピが片付けの続きをしていた。

セルゲイに頼んで、キノッピには席を外してもらう。

伏目勝ちに部屋を出て行く姿だけで相当不服だと察しられたが、キノッピに内情を話すわけにもいかないのだった。

「敵の居場所は掴めてないんでしょ?」

「はい。この近辺だということは分かっているんですけど」

場所が特定できるまで待機ということか。

むしろ、おびき出す方が手っ取り早いが、瞰望岩の時でさえ現れなかったのが簡単に出て来るとも思えず……。

「エカチェリーナが情報持ってるようです」

「その方はいつ来るの?」

「あ、さっき旦那のところに」

旦那?

「ヒョードルの奥さんなんです」

で、セルゲイはエカチェリーナの弟と。

「僕の姉なんです」

身内の寄り合いか。

「今は斜里のロシア正教会所属です」

「呼んで来てくれる?」

しばらくして、セルゲイに案内されて書斎に入ってきたのは、どう見ても戦闘力を期待できそうにない中年の女性だった。

「姉さん、この人が電話で話した人だよ」

と紹介されると、あたしの顔を覗き込むようにして、

「あの、ひょっとして夜野まひるさん、ですか?」

どうやらあたしのことを知っているらしい。

「そうです」

この場合それ以外になんて言えばいいか分からない。
 
 それから甥っ子が大ファンだの、あたしの試合をテレビで観ただの、コンビニのコラボ商品の抽選で他のメンバーしか当たらなかっただのと、エカチェリーナさんのRIB体験を話しだして止まらなくなった。

このままだと夜まで終わりそうにないので、セルゲイに目配せをする。

すると、

「姉さん」

と促してくれ、ようやく本題に入ることが出来た。

「はっきりとはしてないんですけどね」

とのっけから言葉を濁す。

数年も見ない存在なら、そう簡単に居場所が掴めるはずもないか。

「ここから北西の山奥に、今は誰も住んでない大きな古い洋館があるんですけど」

と言って、夏に撮ったらしい写メを見せて来た。

いやいや。ここ以外ないだろ。ヴァンパイアいるいる屋敷じゃない。

てか、なんで今までここを攻めなかった?

「ここは調査してみたことが?」

と聞いてみるとセルゲイが、

「いいや、この時はまだ借金もそれほどじゃなかったから」

結局、借金の過多がこの人たちの行動原理なのだった。

 とりま、そこに行ってみることになった。

「では、すぐに支度を」

と言ったのはエカチェリーナさんだ。

「留守を守ってくれるのでは?」

と言うと、

「留守は僕とヒョードルで。姉は居合の師範ですから大丈夫です」

人は見かけによらない。

「一つお願いしてもいいかな」

「なんでしょう」

とセルゲイが身構えた感じで言った。

「運転をキノッピに頼みたいんだけど」

と言うと、

「きっと彼、喜びますよ」

と部屋を出て行った。

エカチェリーナさんは不思議そうな顔でそれを見送ったのだった。
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