キノッピ 6

文字数 1,269文字

 農道を出て幹線道路に戻った。 

HONDA Z360のエンジンは快調で、問題なさそうだ。

車内はまひるの香水か、いい香りがしてるし。

暖房も効いてきて車内も快適になった。

 トラックを貯水池に沈めて車に戻った時は驚いた。

キーを渡しておいたのにエンジンをかけていず、中が外気と変わらぬ寒さになっていた。

始動の仕方が分からなかったのかと急いでエンジンをかけて暖房を入れた。

「寒かったでしょう?」

後部座席を振り返って、また驚いた。

何だ? この段ボールの仕切りは。

「気にしないで」

と、助手席に乗り込んだまひるはそう言ったけれど、気になりすぎる。

着替え中?

妄想が暴走しそうになったので、急いでアクセルを踏んだ。

 で、ここまでずっと楽しい会話が続いて、まるで修学旅行のバスの中……。

のはずもなく、助手席のまひるは腕組みをして目をとじたまま。

後ろのコトコトとアヤネちゃんにいたっては沈黙すぎて、いるのかどうかさえ分からない。

気詰まりが限界に来て、

「曲でもかけましょうか?」

ラジオを入れてみる。

 流れてきたのは、昭和ポップスだった。

知ってるこの曲。

のっけからダダ、ダダダダって迫ってくるやつ。

旧車だからって、ラジオまではね。

選局レバーを回す。

音量MAX!

「ごめんなさい」

何で? 選局こっちのレバー?

音量MAX!

あわわわ。

焦ってボタンをあちこち押してたら、カセットが吐き出された。

壬生のやつ、ラジオ改造してカセットデッキにしてたんだ。

「この曲好きだよ」

まひるがポツリと言った。

カセットを戻して、曲を流す。

曲名思い出した。

「そしてボキは途方に暮れる」

気持ち代弁してくれなくていいから。



 無人のガススタがあったので、給油のために停車した。

給油口を開くレバーを探したがない。

外に出て見ると、キーで開けるタイプだった。

用心深いな。

昭和はガソリン泥棒とか普通にいたのかもしれない。

給油口にガソリンが際限なく吸い込まれていく。

結構減っていたんだな。

「こいつ、小さいくせに大食いなんだ。どうしてだと思う?」

知るか!

壬生の言うことなどスルーした。

理由、聞いときゃよかった。いまさら。

 視線を感じた。

水中眼鏡のリアウインドから、カワイイ顔がこっちを見ていた。

アヤネちゃんだった。

頭を下げて挨拶すると、八重歯を見せて笑った。

アヤネちゃんってあんなに八重歯出てたっけ。

 車内にもどって紙地図とにらめっこだ。

スマフォもカードも足が着くものは使えない。

行程を決めるためだが、

「キノッピにまかせるね」

と言われた手前、こっちで組むしか無かった。

 道内は苫小牧まで約300Kmを行く。

普通の経路は、遠軽->上川->旭川->滝川->札幌->苫小牧だ。

人目を気にするなら旭川から富良野方面へ抜けるルートもある。

ただ富良野ルートは、雪で峠が不通の可能性が大きい。

どっちを取るかは上川あたりで状況見て決めよう。

 苫小牧に着いたらそこから先は、敦賀港まで日本海フェリーに乗る。

まひるとHONDA Z360と一緒に辻沢へ帰るのだ。

 エンジンをかけて再出発。

ここで一番の問題が出来した。

現金が底を突いていた。
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