まひる 10
文字数 1,537文字
リクス女の顔面を踵で潰して滅殺し、玄関に向かった。
車に戻れと言っておいたのに、キノッピは顔面蒼白で廊下に凝固していたけれど、もう仕方が無い。
構わず横を通り過ぎて、コトハとアヤネがいる寝室に行く。
無事ならばと祈る気持ちでドアを開けると、ベッドの向こうで二人蹲って抱き合いっていた。
側に寄って、どこにも傷がないか確認する。
屍人はある程度肢体を損傷をしても動作に支障は無いが、それは滅殺されて復活するまで回復することはない。
もし顔半分でも無くなるようなことがあったら、キノッピに同行を願うことはできなくなってしまうのだった。
一点だけ、アヤネの袖が引き裂けていたが、二の腕に損傷はなかった。
きっとコトハを守ってアヤネが矢面に立って出来た破れだろう。
生前の時のように。
コトハは誰でもウエルカムのところがあったので、沢山の人から支持もされたが、アンチも多かった。
その時も、数ヶ月前から執拗な嫌がらせをSNS等でしてくるアンチがいたが、
「へっちゃら」
とコトハは相手にしなかった。
しかし、それは起こってしまった。
その日は4枚目シングル「恋は血みどろハッピーエンド」(ハピ血)の発売記念握手会で、コトハとアヤネが同ブースでファンサービスをしていた。
何人目かに応対した男は、初めはにこやかにしていた。
しかし、いきなり表情をこわばらせると、片腕を真っ直ぐコトハの顔面に向けた。
そして袖に隠したチューブから液体を噴射したのだった。
強い酸性臭がブースに充満する。
横にいたアヤナが袖からチューブが出ていることに気がついたのて、咄嗟に手にした団扇をコトハの前に差し出した。
おかげでコトハは顔面直撃にならずにすんだのだった。
でも飛沫の一部が頭部に掛かり、髪が焼け頭皮に火傷を負ってしまった。
そこからのアヤネがすごかった。
テーブルを乗り越えてその男に飛びつくと、さっきあたしがリクス女にしたように馬乗りのなって、素手でパンチのラッシュを浴びせた。
本来は危険であるし男が他に何を隠し持っているか知れない。
全てスタッフの役目だが、アヤネのコトハに対する想いが強すぎて、前後を顧みずに飛びついたのだった。
結果、男はアヤネの殴打に気絶して取り押さえられたはした。
しかし、アヤネは右の薬指を骨折し、直っても曲がらない後遺症が残った。
そして液体に侵されたコトハはと言えば、
頭頂部の十センチの範囲に髪が生えてこなくなってしまった。
それでもコトハは、
「平気」
と可愛いウイッグを探してまわるのが楽しいと言っていたのだった。
あの時、あたしが側にいてあげられたら。
男の意図を事前に読み取って対処してあげられたのに。
二人が落ち着くまで側にいてから、寝室を出た。
書斎の調度は倒され壊れた窓から外気が吹き込んでいた。
まだ、微かにだが松脂の匂いがしている。
階下に降りると、廊下にヒョードルとセルゲイがいた。
近づくと、ヒョードルが
「済みません。守るとお約束したのに、こっちで手一杯になってしまって」
「いったい何体に襲撃されたのですか?」
と聞くと、
「こちらに来たのは1体、2階に上がったのは2体の3体でした」
それを聞いて耳を疑った。
あたしが相手にしたのは1体だけだったのだ。
到着したときに別の敵が部屋にいたようには見えなかった。
まさか、まだどこかに潜んでいるとか?
あたしは急いで2階にもどると、各部屋、物置、天上裏を確認して回った。
結局、どこにもその気配は感じられなかった。
どういうことだろう。
アヤネが撃退したとか?
屍人とヴァンパイアとでは力に差がありすぎる。
それはあり得ないことだった。
考えられるとしたら、昨晩窓から手を振ってくれた女性が現れて敵を撃退してくれたか。
今回は山椒の香りはしていなかったけれども。
車に戻れと言っておいたのに、キノッピは顔面蒼白で廊下に凝固していたけれど、もう仕方が無い。
構わず横を通り過ぎて、コトハとアヤネがいる寝室に行く。
無事ならばと祈る気持ちでドアを開けると、ベッドの向こうで二人蹲って抱き合いっていた。
側に寄って、どこにも傷がないか確認する。
屍人はある程度肢体を損傷をしても動作に支障は無いが、それは滅殺されて復活するまで回復することはない。
もし顔半分でも無くなるようなことがあったら、キノッピに同行を願うことはできなくなってしまうのだった。
一点だけ、アヤネの袖が引き裂けていたが、二の腕に損傷はなかった。
きっとコトハを守ってアヤネが矢面に立って出来た破れだろう。
生前の時のように。
コトハは誰でもウエルカムのところがあったので、沢山の人から支持もされたが、アンチも多かった。
その時も、数ヶ月前から執拗な嫌がらせをSNS等でしてくるアンチがいたが、
「へっちゃら」
とコトハは相手にしなかった。
しかし、それは起こってしまった。
その日は4枚目シングル「恋は血みどろハッピーエンド」(ハピ血)の発売記念握手会で、コトハとアヤネが同ブースでファンサービスをしていた。
何人目かに応対した男は、初めはにこやかにしていた。
しかし、いきなり表情をこわばらせると、片腕を真っ直ぐコトハの顔面に向けた。
そして袖に隠したチューブから液体を噴射したのだった。
強い酸性臭がブースに充満する。
横にいたアヤナが袖からチューブが出ていることに気がついたのて、咄嗟に手にした団扇をコトハの前に差し出した。
おかげでコトハは顔面直撃にならずにすんだのだった。
でも飛沫の一部が頭部に掛かり、髪が焼け頭皮に火傷を負ってしまった。
そこからのアヤネがすごかった。
テーブルを乗り越えてその男に飛びつくと、さっきあたしがリクス女にしたように馬乗りのなって、素手でパンチのラッシュを浴びせた。
本来は危険であるし男が他に何を隠し持っているか知れない。
全てスタッフの役目だが、アヤネのコトハに対する想いが強すぎて、前後を顧みずに飛びついたのだった。
結果、男はアヤネの殴打に気絶して取り押さえられたはした。
しかし、アヤネは右の薬指を骨折し、直っても曲がらない後遺症が残った。
そして液体に侵されたコトハはと言えば、
頭頂部の十センチの範囲に髪が生えてこなくなってしまった。
それでもコトハは、
「平気」
と可愛いウイッグを探してまわるのが楽しいと言っていたのだった。
あの時、あたしが側にいてあげられたら。
男の意図を事前に読み取って対処してあげられたのに。
二人が落ち着くまで側にいてから、寝室を出た。
書斎の調度は倒され壊れた窓から外気が吹き込んでいた。
まだ、微かにだが松脂の匂いがしている。
階下に降りると、廊下にヒョードルとセルゲイがいた。
近づくと、ヒョードルが
「済みません。守るとお約束したのに、こっちで手一杯になってしまって」
「いったい何体に襲撃されたのですか?」
と聞くと、
「こちらに来たのは1体、2階に上がったのは2体の3体でした」
それを聞いて耳を疑った。
あたしが相手にしたのは1体だけだったのだ。
到着したときに別の敵が部屋にいたようには見えなかった。
まさか、まだどこかに潜んでいるとか?
あたしは急いで2階にもどると、各部屋、物置、天上裏を確認して回った。
結局、どこにもその気配は感じられなかった。
どういうことだろう。
アヤネが撃退したとか?
屍人とヴァンパイアとでは力に差がありすぎる。
それはあり得ないことだった。
考えられるとしたら、昨晩窓から手を振ってくれた女性が現れて敵を撃退してくれたか。
今回は山椒の香りはしていなかったけれども。