第54話 使命の願い(1)

文字数 885文字

 空中にいる悪魔は、あやかし神社の本堂の中に舞い戻っていた。実はこの中は空っぽで何もない。御神体などもなく、怠惰な悪魔がグースカ眠っている場所だった。

 ある日の昼下がり、ガラガラと鈴が鳴っていたので強制的に起こされた。

「ッチ。めんどくせーな!」

 悪魔は起き上がり、人間の願いを聞いてやった。

「実は子供を妊娠しました。神様のおかげです。ありがとうございます!」

 若い女の声だった。悪魔に命を宿す力はなく、妊娠は神がやった事だ。的外れな感謝をする人間の女にニヤニヤしてしまう。Amazonで買い物をしたのに、トヨタの社長に感謝しているような愚行だが、女は自分が何をしているのか全く気づいていない。スピリチュアルの「感謝しよう、ありがとうって言おう」というメゾットも一見美しいが、的外れな事をさせるものだった。人間の的外れな感謝の力は全て悪魔側に吸収されていく。「ありがとう」と100万回言っても何の意味は無い。要は誰に向けて感謝しているかが問題だった。

「うん?」

 そして悪魔は、お腹に宿っている子供を観てみた。クリスチャンだと神の霊・聖霊がいるので、思考が読めない時があるが、そうでも無い人間などセキュリティがユルユルで簡単に覗ける。

「はあ?」

 女の子供を見ながら、悪魔はギリギリと下唇を噛む。この赤ん坊の神の計画が透けて見えた。この子は、将来救われ、教会の伝道師やエクソシストになる計画があるらしい。

「ふざけんな。この計画は潰して、盗むぞ!」

 この日から、悪魔はこの子をターゲットにする事に決定した。

「神様ありがとう。この子の名前は何故か決まってるんです。聖花って名前にします」

 呑気にあやかし神社で祈る女の声を聞きながら、悪魔も計画や作戦を練り始めた。

「おい! 来てくれ!」

 まずは部下の悪霊も呼び、あの女に憑いていくように命令する。あの女にはスピリチュアル、死、夫婦仲を引き裂く悪霊を送った。実際、神社参拝していて罪に扉を開けているので、イージーだった。

 神の計画は何としても盗み、滅ぼし、潰したかった。

「さっそく、殺しにいくけど、いい?」

 悪魔はニヤニヤ笑っていた。
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登場人物紹介

悪魔

あやかし神社の主。人間の記憶を食い幽霊のフリ、天使、動物やイケメンのフリをして人間を騙している。ヤクザのように願いの代償を請求する。聖書の神様に敵対。

悪霊

悪魔の手先。人間の心に棲みつく実行部隊。あやかし神社では眷属のフリをしている。

聖書

悪魔と人間が結んだ契約を破棄する鍵…?

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