第33話 成功の願い(4)完

文字数 1,409文字

 成功し、この世の春を謳歌しているはずだった璃子だが、なぜかちっとも満たされなかった。

 お金は稼げるが、出て行く金も多く、親戚からお金を無心されるようになった。金目当てで近づいてくる男が多く、全く長続きしない。せっかく良い人と知り合っても、璃子の金を目当てにして、ヒモになる事も多かった。

 せっかく手に入れた成功だったが、思ったものとちょっと違う。車や宝石、豪華な食事で心を埋めようとしてみたが、全く満たされない。それどころか、だんだとマリアに命令されるようになってきた。最初は優しかったマリアだが、ちょっとでも指示と違う事をすれば罵倒して、金縛や悪夢の攻撃をしてきた。

 やっぱり欲望は良くなかった気もしてきた。欲望を追求した結果の今は、全く自由がない。それどころか、マリアの奴隷と化していた。自分の癒しを求める客も多いので、途中でやめる事も出来なかった。

「馬鹿すぎだわな!」

 マリアは、空中からそんな璃子の姿を見下ろしていた。

 清らかで美しいマリアの姿から、だんだんとツノが生えた悪魔の姿に戻っていた。

「今回もイージーに成功だったわ。しかし、人間って聖母マリアとかミカエルが大好きだわな。神より清らかだと思ってるのかね? 馬鹿だなぁー」

 悪魔は、璃子を見ながら笑い続けていた。

「マリアなんてタダの人だぜ? 聖書では超脇役なのに、人間はなぜか主役にしちゃってるよね。ま、同僚の悪魔もカトリックの方でマリアのフリして、お仕事を頑張っているわけだが」

 悪魔はこうやって聖母や聖人、光の天使を装うのは十八番だった。時には奇跡や癒しを見せてやってもいい。それで最終的に自分を信じ契約させれば、よかった。悪魔でもちょっとした奇跡や癒しはできるのだ。

 そもそもマリアは人なので、本当はそんなパワーもないのだが。大天使ミカエルも神の仕事で忙しく、スピリチュアル系の女に話しかける暇など全くないのだが、人間は、ニセモノの光に簡単に騙されてしまう。

「うん? 璃子のやつ、何やってるんだ?」

 璃子は近所にある教会の門をたたき、マリアの事を牧師に聞いていた。

「やばい、やばい! 止めさせないと!」

 悪魔は焦って璃子に声をかけるが、一歩遅かった。璃子は牧師から聞いた福音に涙を流していた。すぐに牧師と二人で悔い改め、信仰告白をし、悪魔との契約を断ち切る祈りをしていた。同時に悪魔が持っていた契約書も神の血で無効になり、ビリビリに砕け散ってしまった。

「くそ! 福音聞いたのかよ、ふざけんな! やっぱり俺がマリアのフリをするのはリスキーだったわ! 真帆に下ネタやめたらって言われたから、マリアをやってみたが。これはカトリック専門の同僚の方が超上手いんだよなー。同僚に上手くいくコツとか聞いておけばよかったわ」

 その上、本当の神からの遣い、天使がやってきてボコボコにされてしまった。こうなると、上手く手出しができない。福音と祈りでバリアができた璃子からは思考も読めず、マリアとしての声もかけられない。おまけに讃美歌まで歌われると、余計に何もできやしない。

「まあ、こんな事もあるさ。次こそ、人間を騙すからな! 要は福音を聴かせなきゃいいのだ。その為にはクリスチャンには嫌がらせをし続けるからな。覚悟しとけよ! くそ、天使も神もゆるせねー」

 あやかし神社に逃げ帰った悪魔は、神や天使、クリスチャンへの恨みを募らせながらも、次のターゲットを探しはじめた。
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登場人物紹介

悪魔

あやかし神社の主。人間の記憶を食い幽霊のフリ、天使、動物やイケメンのフリをして人間を騙している。ヤクザのように願いの代償を請求する。聖書の神様に敵対。

悪霊

悪魔の手先。人間の心に棲みつく実行部隊。あやかし神社では眷属のフリをしている。

聖書

悪魔と人間が結んだ契約を破棄する鍵…?

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