第１話　とある牧師の独り言

　みなさんは偶像崇拝という言葉をご存知だろうか。

　これは、唯一の神以外のものを高く上げ、拝む行為だ。そして自分の願望に合う神を作る。日本には八百万の神がいるそうだが、個人の欲望・願望を追い求めた結果だろう。

　日本はカルトも多い。ツボを売るのカルトは日本人相手ばっかりらしい。果たして欲望を追いかけ、どの宗教でもOKというのは寛容で素晴らしい事だろうか。神社で売ってるお札や御守りも効果あっただろうか。なかったらカルトが売りつけているツボとあんまり変わらないのが。ツボはともかく神社のお札や御守りはナチュラルに買ってしまう理由は、何だろうか。

　最近、神棚を飾ると成功するといったスピリチュアル本を読んだのだが、著者は無神論者と公言しながら、神棚の凄さを力説していた。その発言の矛盾点もよくよく考えてみて欲しい……。ギャグで言ってる可能性もあるが、あまり笑えない。

　私はキリスト教の牧師をやっているので、日本にある神社仏閣も八百万の神もカルトも全て偶像崇拝と断言する。こう言うのも仕事の一つみたいなもんだ。

　日本人にとって神社仏閣や八百万の神を拝む事は「文化風習」であり、「宗教」という概念は薄いかもしれない。キリスト教の神が唯一の神である事も理解しがたいだろう。

　しかし、実際そうなのだから仕方ない。別にこちらの神について強制的に信じろなんて言わないが、神社で拝む事も「宗教」なので、リスクを承知しておいた方が良いのではないだろう。

　どんな良い事にもリスクはある。美味しいお菓子は太る。イケメンはライバルが多い。モテればストーカーも現れる。ペットもいずれ人間より早く死ぬ。金持ちは税金対策が面倒くさい。上手い話にはワケがある。これは「神社」にもある事だ。これぐらいは理解してくれるだろうか。

　確かに神社で願いを叶えてくれるかもしれない。

　でも、偶像崇拝にだってそれなりの代償が伴う。聖書では気が狂ったり、愚かになると言われている。己の欲望を肯定し、幻みたいな偶像を追い求めて幸せになれるわけがないのだ。聖書の神は、そんな自分に都合の良いものはない、目を覚ませと耳の痛い事も何度も伝えている。

　実は本来の仏教や神道も人間の欲望は全く肯定していない。その教えの道徳的な部分は悪くはない。だんだんと日本人の需要に合わせてカスタムされ、偽物が生まれてしまったのだろう。神道はユダヤ教とも共通点があるという噂もあるが、今は全く別ものだ。日本人はユダヤ人の血が入っているから凄いという陰謀論も見かけるが、現状は偶像をこんなに作っている国民である。他の国民を見下して良いわけがない。そして本当にユダヤ人だった場合、神の裁きも強烈になるので、必ずしも嬉しい情報ではない。

　そんな偶像崇拝の最終地点は、地獄。

　この言葉を持ち出して人々を脅すのは、いくら牧師といえどもできない。それを言ったら、市井の占い師とあまり変わりがない。

　という事で、自分の教会の掲示板に「神社仏閣やスピリチュアルに行って何か困った事がある方は、お気軽にご相談ください。もちろん無償で相談に乗ります」という張り紙を出した。

　こんな事書いたら、宗教差別だと叩かれるだろうとも思ったが、意外な事に相談する人が増えた。

　聖書に書かれてある偶像崇拝について教えると「ああ、やっぱり」「納得しました」と言われる。妻も教会で奉仕しているが、そう言った声は昔からよく聞くらしい。

　今日もまた神社仏閣の被害者が相談しにきた。

　全くやれやれだ。

　日本人はもう少し宗教知識をつけるべきではないだろうか。別にこちらの神を信仰しろと言いたいわけではない。せめて神社は文化風習ではなく宗教でリスクがある事は知るべきではないだろうか。カルトやスピリチュアルも表面的にバカにしないで、その悪質さを知るべきではないだろうか。日本は特に教育の質が悪いので、学校の勉強だけしてると人生詰むようにできてる。日本人だけがカルトにカモられている理由もよくわかる。個人の自己責任とは決して言えない。もちろん我々の実力不足もあり悔しいものだ。

　え？　神社に行って願いが叶った人もいるって？

　それは居るだろう。

　ただ、願いが叶って何の報いを受けないのは、私達の神も呆れている状態なのだ。もう不幸を起こしても悔い改める事は無いだろうと、匙をなげている。だからそのままハッピーでラッキーな状況にしている。

　神社に行って不幸になったみなさん、おめでとう。

　あなたは、神に愛されているかもしれない。