第7話 健康の願い(2)
文字数 2,062文字
午後からもお腹が痛くて最悪だった。
あまりにも顔が蒼いので、教師からは早退するように言われた。
午後過ぎ、中途半端な時間に下校し最寄りの駅に降りた。
愛美の住む街は比較的田舎の方で、のどかな野菜畑や梨畑が広がっていた。帰り道も周りは畑だらけで、すれ違う人も少ないが、時々、陰謀論者のような反ワクチンの活動家が、マイクで何か訴えながら歩いてウンザリしてきた。
「あれ? こんな所に神社あったっけ?」
なぜか目の前に神社があった。森の中にある神社のようで、周りの畑や梨畑といい感じに調和している。あまりにも調和しすぎていて、こんな神社があった事を忘れていたのだろうか。
赤い鳥居の横には、ボロボロの看板があり「あやかし神社」とある。
「あやかし神社?」
愛美は眉を顰めまがら呟いた。
あやかしというと、ファンタジー小説に出てくる妖怪だ。鬼、河童、猫又、狐、天狗などが出てきた記憶がある。確か神様的な何かでもあり、願いを叶えたりもできた記憶がある。
何だか普通の神社よりもご利益がありそうな気がした。
これは、病院でも治せない体調不良をここで願掛けしろと言われているような気がした。
神社には人影はなく、木々が風に擦れる音が不気味だが、ご利益には負けそうになった。これで投げ銭をして願いが叶ったら儲けものではないかか。不思議とお腹の痛みは少しおさまっていた。もしかしたら、もうご利益があるかもしれない。
愛美はいそいそと神社の鳥居を潜った。
確か真ん中を歩くと神様に失礼になるから、参道のはしを歩きながら、手水舎に辿り着く。
本当に人がいない。風だけ強いが、葉っぱ一枚も落ちてない。綺麗に清められていた。どことなく「神聖」という雰囲気で、怖くもなってくる。
手を洗うと、ハンカチで手を拭いた。口に水も含む。湧水のようで、店で売ってるミネラルウォーターより冷たくて美味しい。田舎だから愛美の家も井戸水を使っているので、珍しい事ではないが。
こうして本堂にすすみ、小銭を賽銭箱に投げた。
カラカラと鈴をならし、ぎゅっと目を瞑って祈った。
「身体を魔法のように元気にしてください。とにかく健康になりたいです。元気になったら東京に住んでいる美保にも会いたいです!」
美保は愛美の幼馴染だ。身体が悪い愛美にも優しい子だった。残念ながら、この春から東京に越した為会えない。別に東京ぐらい電車を使えば2時間ぐらいで行けるが、途中でお腹や頭が痛くなると思うと、不安があった。
美保の事を思うと、ちょっと泣けてくる。唯一親しい友達だった。
そんな事を思い出して目元を濡らしていると、目の前に綺麗な男性が現れた。
突然の事で、愛美は目を丸くする事しかできなかった。
男性は、日本人のようだが黄色の髪で、外国人のように色が白い。和風な塩風イケメンだったが、どことなく妖艶な雰囲気だった。黒い着物を着ていて体格もいい。小柄な愛美は一口で飲み込まれそうな恐怖を覚えた。
何よりおかしいのは、頭にキツネのような耳が生えていた事だ。腰にもなぜかフワフワな金色の尻尾がついているのが見えた。
まさか妖狐というやつ?
愛美が前に読んだファンタジー小説にも似たような姿形の妖狐が出てきた事を思う出す。
コスプレ男かとも思ったが、その割には尻尾や耳が生々しい。コスプレのような作りモノっぽい雰囲気は全くなかった。
それに妖狐は、イケメンだった。一応女子である愛美は、思わずポーッとしてしまう。鑑賞として眺めるだけなら、この妖狐が100点満点といったところだろう。
「願いを聞いたよ、愛美」
「は?」
「愛美を健康にしてあげよう」
「うそ」
信じられない。あんな小銭少しだけで?
そもそもこの男は本物?
狐に化かされるという言葉もあるが、今はその言葉がリアルに感じてしまった。
「うん。でも、俺と契約しよう」
「は?」
妖狐は、懐から紙を一枚出して見せた。そこには、契約書があった。
契約すると妖狐と身体、魂、財産、健康全てを共有する約束とある。契約とは結婚。これは神が作ったシスムなので覆せない。契約すると夫婦のように全てを共有するとある。今回の願いを叶える為に、愛美がもっているもの一つを代償として頂くという。とても小さな文字で願いによっては一つではなく全部頂く。それでも足りない場合は家族、友達、恋人を奪うとあった。
「それって……」
言葉が出ない。
「どう? 契約すると、健康でも何でもあげるよ。その代わり、一つは何か貰うけど、これで願いが叶ったら安いものじゃない?」
甘い声だった。妖狐からは、花の蜜のような甘い香りもした。
ふと、頭に美保の顔が浮かんだ。なぜか、ここで契約する事は、美保をとても悲しませる気がした。
「い、いや。こんな簡単に願いが叶えるわけがないよ!」
愛美は全力疾走で、あやかし神社から逃げた。
途中で頭やお腹も痛くなってきたが、ここは逃げるしか無い。
夢か幻かわからない。現実ではないのかもしれない。
狐に化かされた?
それでも頭の中に冷静な何かは残っていた。
あまりにも顔が蒼いので、教師からは早退するように言われた。
午後過ぎ、中途半端な時間に下校し最寄りの駅に降りた。
愛美の住む街は比較的田舎の方で、のどかな野菜畑や梨畑が広がっていた。帰り道も周りは畑だらけで、すれ違う人も少ないが、時々、陰謀論者のような反ワクチンの活動家が、マイクで何か訴えながら歩いてウンザリしてきた。
「あれ? こんな所に神社あったっけ?」
なぜか目の前に神社があった。森の中にある神社のようで、周りの畑や梨畑といい感じに調和している。あまりにも調和しすぎていて、こんな神社があった事を忘れていたのだろうか。
赤い鳥居の横には、ボロボロの看板があり「あやかし神社」とある。
「あやかし神社?」
愛美は眉を顰めまがら呟いた。
あやかしというと、ファンタジー小説に出てくる妖怪だ。鬼、河童、猫又、狐、天狗などが出てきた記憶がある。確か神様的な何かでもあり、願いを叶えたりもできた記憶がある。
何だか普通の神社よりもご利益がありそうな気がした。
これは、病院でも治せない体調不良をここで願掛けしろと言われているような気がした。
神社には人影はなく、木々が風に擦れる音が不気味だが、ご利益には負けそうになった。これで投げ銭をして願いが叶ったら儲けものではないかか。不思議とお腹の痛みは少しおさまっていた。もしかしたら、もうご利益があるかもしれない。
愛美はいそいそと神社の鳥居を潜った。
確か真ん中を歩くと神様に失礼になるから、参道のはしを歩きながら、手水舎に辿り着く。
本当に人がいない。風だけ強いが、葉っぱ一枚も落ちてない。綺麗に清められていた。どことなく「神聖」という雰囲気で、怖くもなってくる。
手を洗うと、ハンカチで手を拭いた。口に水も含む。湧水のようで、店で売ってるミネラルウォーターより冷たくて美味しい。田舎だから愛美の家も井戸水を使っているので、珍しい事ではないが。
こうして本堂にすすみ、小銭を賽銭箱に投げた。
カラカラと鈴をならし、ぎゅっと目を瞑って祈った。
「身体を魔法のように元気にしてください。とにかく健康になりたいです。元気になったら東京に住んでいる美保にも会いたいです!」
美保は愛美の幼馴染だ。身体が悪い愛美にも優しい子だった。残念ながら、この春から東京に越した為会えない。別に東京ぐらい電車を使えば2時間ぐらいで行けるが、途中でお腹や頭が痛くなると思うと、不安があった。
美保の事を思うと、ちょっと泣けてくる。唯一親しい友達だった。
そんな事を思い出して目元を濡らしていると、目の前に綺麗な男性が現れた。
突然の事で、愛美は目を丸くする事しかできなかった。
男性は、日本人のようだが黄色の髪で、外国人のように色が白い。和風な塩風イケメンだったが、どことなく妖艶な雰囲気だった。黒い着物を着ていて体格もいい。小柄な愛美は一口で飲み込まれそうな恐怖を覚えた。
何よりおかしいのは、頭にキツネのような耳が生えていた事だ。腰にもなぜかフワフワな金色の尻尾がついているのが見えた。
まさか妖狐というやつ?
愛美が前に読んだファンタジー小説にも似たような姿形の妖狐が出てきた事を思う出す。
コスプレ男かとも思ったが、その割には尻尾や耳が生々しい。コスプレのような作りモノっぽい雰囲気は全くなかった。
それに妖狐は、イケメンだった。一応女子である愛美は、思わずポーッとしてしまう。鑑賞として眺めるだけなら、この妖狐が100点満点といったところだろう。
「願いを聞いたよ、愛美」
「は?」
「愛美を健康にしてあげよう」
「うそ」
信じられない。あんな小銭少しだけで?
そもそもこの男は本物?
狐に化かされるという言葉もあるが、今はその言葉がリアルに感じてしまった。
「うん。でも、俺と契約しよう」
「は?」
妖狐は、懐から紙を一枚出して見せた。そこには、契約書があった。
契約すると妖狐と身体、魂、財産、健康全てを共有する約束とある。契約とは結婚。これは神が作ったシスムなので覆せない。契約すると夫婦のように全てを共有するとある。今回の願いを叶える為に、愛美がもっているもの一つを代償として頂くという。とても小さな文字で願いによっては一つではなく全部頂く。それでも足りない場合は家族、友達、恋人を奪うとあった。
「それって……」
言葉が出ない。
「どう? 契約すると、健康でも何でもあげるよ。その代わり、一つは何か貰うけど、これで願いが叶ったら安いものじゃない?」
甘い声だった。妖狐からは、花の蜜のような甘い香りもした。
ふと、頭に美保の顔が浮かんだ。なぜか、ここで契約する事は、美保をとても悲しませる気がした。
「い、いや。こんな簡単に願いが叶えるわけがないよ!」
愛美は全力疾走で、あやかし神社から逃げた。
途中で頭やお腹も痛くなってきたが、ここは逃げるしか無い。
夢か幻かわからない。現実ではないのかもしれない。
狐に化かされた?
それでも頭の中に冷静な何かは残っていた。
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