第69話 美への願い(4)完

文字数 1,051文字

 美を極めていた麗香だが、どうも心は休まらなかった。

 昔は20歳ぐらの若い女性を見ても何とも思わなかった。テレビにいる女優を見ても何も思わなかったのに、今は嫉妬対象だった。若い子よりも女優よりも綺麗にならなきゃという義務感や焦燥感に縛られていた。

 心の空洞は、婚活が上手くいかないせいだとも思っていた。しかし、ハイスペ男性にモテるようになってから、それも違うような気がしてきた。

 そもそも自分は、本当に綺麗になりたかったんだろうか。いくら綺麗になっても、いつかは美も朽ちて死ぬ。とても頼りないものを追いかけていた気がしていた。

 それに綺麗になっても女性は相変わらず意地悪で、「若作り」とか「調子に乗っている」とか呪いの言葉を投げつけられた。

 そんな折、自宅にあやかし神社から手紙が届いているのに気づいた。

「え? 請求書? こんなに願いを叶えてあげたのだから、あなたの将来や健康、あるいは財産から請求させていただきます。それでも払えない場合は、家族、友達、恋人、子供から請求させていただきます。ちなみに子供が一番負債額が高くなります、って何これ?」

 請求書を受け取った麗香の表情が真っ青になり、どこも美しくなっていた。

 そんな麗香を空中から見ていた悪魔は、腹を抱えて大笑いしていた。

「俺の上司のルシファー、悪魔の親分は美しいものが好きでな。美しいものが正義となるよう、この世界を支配しちゃってるわけよ。しかし、実はそんなものには意味無いんだけどね? お互いに比較させ、嫉妬させ、争わせるのが一番の目的ね? 美を過剰に追いかけたら、心が病むようになってんのよー。整形依存症や拒食症とかまんまコレ。ま、これは神の方の意図でもそうなのよ。そんなものより大事なものに気づかせる為に。ちなみに人間バージョンの神は不細工だが、俺らはイケメン☆」

 悪魔は余裕ぶって大笑いをしていたが、麗香は教会から貰ったチラシを眺めていた。

「確かに神社に行っておかしな事が続いてる。相談に行ってみよう……」

 そう言い、麗香は家の近所にある教会の門を叩いていた。

「ちょっと待て。何教会に行ってるわけ? 日本はアメリカとかと違ってスピリチュアル被害者の為の自助グループとかないから、油断していたが……。くそ! またクリスチャンかよ!」

 悪魔は悔しそうに地団駄を踏んでいた。確かにその悪魔の容姿のみは、天使のように美しいかった。これから別のターゲットを騙しに行く為、大天使ミカエルの格好をしていたのだ。

 みなさん、美しいものには気をつけて?
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登場人物紹介

悪魔

あやかし神社の主。人間の記憶を食い幽霊のフリ、天使、動物やイケメンのフリをして人間を騙している。ヤクザのように願いの代償を請求する。聖書の神様に敵対。

悪霊

悪魔の手先。人間の心に棲みつく実行部隊。あやかし神社では眷属のフリをしている。

聖書

悪魔と人間が結んだ契約を破棄する鍵…?

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