第4話 結婚の願い(3)
文字数 1,527文字
そんな変な夢を見てから、数日後。
三つ年下の妹・幸子から連絡があった。驚いた事に結婚したい人がいるという。相手は、ゲームプログラマーで、結婚後は海外に引っ越すという。
妹が結婚だなんて。
久美の心はかき乱されたが、ここでジェラシーを表に出すわけにはいかない。冷静さを装い、幸子とその婚約者にあった。
個室のあるカフェで、婚約中の二人にあう。幸子の夫となる人は、太っていて冴えない中年だった。そのルックスを見て心の中でホッとしてしまった久美は、幸子を祝う気持ちは一ミリもなかった。
「おめでとう、幸子」
一応祝いの言葉は言ったが、二人は真に受けていた。
「久美姉ちゃん、ありがとう」
「ええ。お母さんみたいになっちゃダメだよ」
そういうと、幸子は泣きそうな顔を浮かべていた。
私達の親は酷かった。離婚したら、母はホストにハマり、ろくに育児もしなかった。子供の私達が泣くと、暴力を振るわれた。おかげで子供の時のマトモな記憶が1秒もない。
母みたいにはなりたく無い。母のような虐待する親には絶対なりたく無い。母とは全く違う人間だ。今は仕事もして自立もしている。母とは違う。自分は間違っていない。母が全部悪くて自分は被害者だ。久美はそんな言葉を頭の中で呟いた。
「でも、お母さんもそんな風にしか生きられなかったんだよ。可哀想な人。人は弱いからね。私はもうお母さんを許してるから。どんなに頑張っても出来ない事はあるよ。私も結婚しようと思って初めてお母さんの弱さがわかった。ありがとうも大事だけど、ごめんねも大事だよねぇ。私も悪い所がいっぱいあったと思う。お姉ちゃんもごめんね。こんな情け無い妹で」
綺麗事を言う幸子に、婚約者は涙をこぼしていた。
イライラする。
良い子ぶりっ子ってこういう事? それとも幸子は今だに結婚できない自分を馬鹿にしているんだろうか?
久美は、母を許す事などできなかった。
その帰り道、家の近所まで歩くと、あやかし神社がある事に気づいた。
夢なのか幻なのかわからない。
それでも、再びあの鬼に会いたいような気がしてきた。
手水舎で手を洗うと本殿に進み、鈴を鳴らした。すると、再びあの鬼が現れた。
「どうだい? 久美ちゃんよ、俺と契約したくなったか?」
鬼は美しい笑顔を見せていた。こんな美しい笑顔を見せる鬼が嘘を言っているようには、見えなくなってしまった。
「ちなみに私から奪うものって何なの?」
「それは、俺がランダムで選ぶよ」
笑った鬼には八重歯が生えている事に気づいた。悪魔っぽい笑顔だ。その笑顔を見ていると、怖くないとは言えない。
ただ、幸子の偽善者っぽい発言を思い出すと再びイライラとしてしまう。
「まあ、俺の気が変わったら何も奪わないかもね?」
「本当?」
「ああ」
嘘を言っているという可能性も頭をよぎったが、その言葉を信じたくなった。
そもそもこの瞬間全てが夢か幻の可能性だって高い。この瞬間だけ良い夢を見ても良い気がした。
「わかった。契約する」
「おぉ。それは、お前の自由意思でいいんだね?」
なぜか鬼はここで念を押してきた。
「久美が自ら選んだ事だね? 自由意志で選んだって事だね?」
「だからそうだって言ってるじゃない!」
若干イライラしながら、鬼から契約書を奪い取り、そこに名前を書いた。
「契約成立だね?」
鬼は笑いながら、契約書を回収し懐に納めた。
それから不思議な事ばかり起きた。
アプリで知り合った3つ年上の内科医と結婚した。見た目も性格もいい次男だった。もちろん医者だから年収もいい。久美も結婚後は専業主婦になった。
誰もが羨む結婚だった。鬼の言うような何かを奪われる事も無く、子供も生まれ、久美は幸せだった。
めでたし、めでたし?
三つ年下の妹・幸子から連絡があった。驚いた事に結婚したい人がいるという。相手は、ゲームプログラマーで、結婚後は海外に引っ越すという。
妹が結婚だなんて。
久美の心はかき乱されたが、ここでジェラシーを表に出すわけにはいかない。冷静さを装い、幸子とその婚約者にあった。
個室のあるカフェで、婚約中の二人にあう。幸子の夫となる人は、太っていて冴えない中年だった。そのルックスを見て心の中でホッとしてしまった久美は、幸子を祝う気持ちは一ミリもなかった。
「おめでとう、幸子」
一応祝いの言葉は言ったが、二人は真に受けていた。
「久美姉ちゃん、ありがとう」
「ええ。お母さんみたいになっちゃダメだよ」
そういうと、幸子は泣きそうな顔を浮かべていた。
私達の親は酷かった。離婚したら、母はホストにハマり、ろくに育児もしなかった。子供の私達が泣くと、暴力を振るわれた。おかげで子供の時のマトモな記憶が1秒もない。
母みたいにはなりたく無い。母のような虐待する親には絶対なりたく無い。母とは全く違う人間だ。今は仕事もして自立もしている。母とは違う。自分は間違っていない。母が全部悪くて自分は被害者だ。久美はそんな言葉を頭の中で呟いた。
「でも、お母さんもそんな風にしか生きられなかったんだよ。可哀想な人。人は弱いからね。私はもうお母さんを許してるから。どんなに頑張っても出来ない事はあるよ。私も結婚しようと思って初めてお母さんの弱さがわかった。ありがとうも大事だけど、ごめんねも大事だよねぇ。私も悪い所がいっぱいあったと思う。お姉ちゃんもごめんね。こんな情け無い妹で」
綺麗事を言う幸子に、婚約者は涙をこぼしていた。
イライラする。
良い子ぶりっ子ってこういう事? それとも幸子は今だに結婚できない自分を馬鹿にしているんだろうか?
久美は、母を許す事などできなかった。
その帰り道、家の近所まで歩くと、あやかし神社がある事に気づいた。
夢なのか幻なのかわからない。
それでも、再びあの鬼に会いたいような気がしてきた。
手水舎で手を洗うと本殿に進み、鈴を鳴らした。すると、再びあの鬼が現れた。
「どうだい? 久美ちゃんよ、俺と契約したくなったか?」
鬼は美しい笑顔を見せていた。こんな美しい笑顔を見せる鬼が嘘を言っているようには、見えなくなってしまった。
「ちなみに私から奪うものって何なの?」
「それは、俺がランダムで選ぶよ」
笑った鬼には八重歯が生えている事に気づいた。悪魔っぽい笑顔だ。その笑顔を見ていると、怖くないとは言えない。
ただ、幸子の偽善者っぽい発言を思い出すと再びイライラとしてしまう。
「まあ、俺の気が変わったら何も奪わないかもね?」
「本当?」
「ああ」
嘘を言っているという可能性も頭をよぎったが、その言葉を信じたくなった。
そもそもこの瞬間全てが夢か幻の可能性だって高い。この瞬間だけ良い夢を見ても良い気がした。
「わかった。契約する」
「おぉ。それは、お前の自由意思でいいんだね?」
なぜか鬼はここで念を押してきた。
「久美が自ら選んだ事だね? 自由意志で選んだって事だね?」
「だからそうだって言ってるじゃない!」
若干イライラしながら、鬼から契約書を奪い取り、そこに名前を書いた。
「契約成立だね?」
鬼は笑いながら、契約書を回収し懐に納めた。
それから不思議な事ばかり起きた。
アプリで知り合った3つ年上の内科医と結婚した。見た目も性格もいい次男だった。もちろん医者だから年収もいい。久美も結婚後は専業主婦になった。
誰もが羨む結婚だった。鬼の言うような何かを奪われる事も無く、子供も生まれ、久美は幸せだった。
めでたし、めでたし?
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