第5話 結婚の願い(4)完

文字数 1,614文字

 久美が結婚して5年が過ぎた。

「ちょっと! 久美! お前、誰のおかげで飯が食えていると思ってるんだよ!」

 夫が突然モラハラ化した。

 毎日のように家事のできない所を突っ込まれ、暴言を吐かれた。

「俺は固茹でのゆで卵がいいんだよ! 半熟持ってくんな!」
「ちょっと間違えただけじゃない」
「誰が口答えしろと言ったか? 全く働きもしない穀潰しが何言ってるんだよ!」

 夫の指摘は、もっともで何も言えない。出産後、久美は病気がみつかり、フルタイムで働けない状況だった。

 さらに夫の母親が多額の借金を作っていて、久美にも害が及び、ほとんど自由に使えるお金がなかった。夫は極度のマザコンで、母親に頭が上がらない。結婚後、初めて知る事実だった。

 子供は発達障害の疑いがあり、ちっとも可愛くない。

 夫と喧嘩していると、子供は泣いて叫んでさらに場を混乱させた。

「麗矢、お願いだから黙って!」

 久美はそう叫ぶが、息子の麗矢は泣き止まずに暴れている。

「静かにしてよ!」

 バシッと鋭い音が響く。

 久美は、一人息子である麗矢に手を挙げていた。

 その様子を空中から見ていた鬼は、腹を抱えて大笑いしていた。

 その姿は、美しい鬼から赤い顔をした悪魔に変えていた。悪魔というと西洋のイメージがあるだろうが、元々は全知全能の神が作った被創物。国によって忖度するわけもなく、悪魔は世界中どこにでもいた。その証拠に各国にある宗教は子供を生贄にする事、修行によって覚醒し人間が神になる事(人の教祖が神)、蛇や龍、金の子牛、太陽、女神を崇拝対象にする事に至っては驚くほど共通点がある。これは全て聖書では禁じられている事で、悪魔が存在する証拠ともいえるだろう。結局、本当の神以外を拝む事は、悪魔を拝む事になる。ちなみにカトリックは聖書を使ったキリスト教に見えるが、その内部は堕落し、生贄儀式のような幼児虐待が度々問題になっている。プロテスタントもリベラルが侵食し、自由に聖書を解釈するものが増え、終末のような時世になってきている。

 特に日本では神社の中で神のフリをしながら生息している。聖書ではこの世の神、偽りの父、人殺し、嘘つきと散々の言われようだが、本当の神を知らないとコロッと騙されてしまう。肝心の教会も「神は愛です」「聖書は神話で進化論が正しい」「LGBTを認めましょう♪」としか言わないところやカルト化しやすい所も多く悪魔にとってイージーな状況だった。

「馬鹿だな、久美のやつ。結局、親のようになってるんじゃないか。あはは! 俺の作戦通りじゃないか」

 悪魔はさらに視点を変え、久美の妹に幸子の家を覗いてみた。幸子はうっかりガラスのコップを割っていたが、「そんな事もあるねー。次は気をつければいい」と夫に許されていた。そんな生活でも何の問題はなく、日曜日には教会に行き、ボランティア活動などもしていた。

「同じ親から生まれたのに、どうしてこうなったんだろうねぇ? 久美は自分が全部正しくて親が悪いって思ってるからかね? 久美の中にあるそんな悪ーい気持ちがモラハラ夫を引き寄せたんじゃね? モラハラ夫も自分だけが絶対正しいって思ってるぜ? パリサイ派夫婦でウケるわ。ははーん、俺は悪くないね。誘惑しただけだよーん♪」

 悪魔は大笑いをしながら、久美の健康や財産、魂の一部を吸い取っていった。

「しょうがないよね? 久美は自由意思で俺と契約したんだから。俺は、盗み、殺し、滅ぼす仕事をする悪魔だぜ? 神が書いた聖書でも俺達の事を相当ネタバレしてるのに、騙されてるヤツ多いよなー。本当、馬鹿だよ、人間って。とくに日本人の愚かさはヤバいw スピリチュアルは教祖不在のカルト、神棚飾ったり神社行くのは霊と契約する宗教の一環なのにな?」

 そう言った悪魔は、あやかし神社再び戻った。本殿に籠り、騙される人間が来るのを待つとしようか。

 次はどんな愚か者が来るんだろう。

 悪魔は楽しみで仕方なかった。
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登場人物紹介

悪魔

あやかし神社の主。人間の記憶を食い幽霊のフリ、天使、動物やイケメンのフリをして人間を騙している。ヤクザのように願いの代償を請求する。聖書の神様に敵対。

悪霊

悪魔の手先。人間の心に棲みつく実行部隊。あやかし神社では眷属のフリをしている。

聖書

悪魔と人間が結んだ契約を破棄する鍵…?

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