第61話 メサイアの願い(4)完

文字数 1,282文字

 瑠夏は、逮捕され塀の中にいた。

 罪状は、信者の一人への殺人容疑だった。信者を衰弱死させたあと、三日目に生き返ると宣言していたが、死体のままだった。そのうち、死体が腐敗しはじめ、匂いが広がり近所から通報が入りった。

 不思議なのは、逮捕されても誰も信者は失望していなかった事だ。むしろ、信者が一人だけ死ぬぐらいで良かった、これも瑠夏様のお陰だと泣いて感謝しているとの事だった。こういった現象はカルトは珍しくなく、教祖の予言が失敗しても、信者が過剰に擁護するらしい。担当の刑事は、「人間ってのは、自分が間違っている事を認めるのは、難しいんだなぁ。みんな自分勝手で言い訳好きだな」と呆れていた。また、こう言ったカルト教祖と信者も「魂の連結」が出来、抜け出すのが難しいという現実もあった。一度カルトを抜け出した信者も、再び舞い戻ったり、別のカルト信者になる事はよくある。

 逮捕された瑠夏の様子を、空中から見ながら、悪魔は腹を抱えて大笑いしていた。

「ガブリエルのフリも結構騙されるよなー。あとイエスが実はガブリエルだったとか、ミカエルだったとかカルトの連中って珍説も好きだよなー」

 瑠夏は、叫んだり、暴れたりして無理矢理ベッドに拘束されていた。

「うーん、これだと、瑠夏がバカにしていた利用者と同じようなもんっていうか、さらに酷いじゃん? ミイラ取りがミイラになった?」

 悲痛な瑠夏の表情を見ると、もう気が狂う寸前に思えた。

 人間は、大昔から「人間が神になりたい」という願望を持っている。そこを悪魔がちょっと刺激してやっただけだ。これは聖書の時代からやっている悪魔の典型的な手口だった。「新世界の神になる」というセリフがある漫画や、異世界で人間が救世主になるライトノベルが人気になったりするのも、こういった人間の欲望を刺激するからだった。ただ「お客様は神様」と思い込んだ客がクレーマー化するように、この欲望を刺激するだけの商売は長期的に見て良い事なのかは、断言出来ない。聖書の中でも、「自分は神」なんて思っている人間は、必ず本当の神に報いを受けていた。

「俺は悪くないよーん♪ これは、心の傷が原因だねぇ。自分の心の傷は、自分で治せよ。あ、治すのは無理だったわ。神がやる事だったわ。いくら人間の力で頑張っても、心の傷は治せないんだよ。でも、人間は別のもんで埋めようとするんだわなー」

 悪魔はさらに瑠夏に攻撃を加えようとしたところ、一人の牧師が訪問してきた。

「ちょ、なんで牧師が来るんだよ!」

 訪問してきた牧師を止めようとしたが、一歩遅かったようだった。

「ふざけんなよ、またクリスチャンかよ!あいつら、犯罪者に接するのやたら好きだな! 聖書の罪人と犯罪者って意味違いますからー」

 悪魔は必死に抵抗するが、瑠夏は牧師から聞かされた福音に涙をポロポロ溢していた。

「クソ! 次こそは負けないからな!」

 そう宣言するが、最近は負けっぱなしで、悪魔も余裕がなかった。

「もう手段は選んでられない。もうすぐ終末だし、火の池に行く前に……!」

 悪魔は慌ててながら、次のターゲットを探し始めていた。
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登場人物紹介

悪魔

あやかし神社の主。人間の記憶を食い幽霊のフリ、天使、動物やイケメンのフリをして人間を騙している。ヤクザのように願いの代償を請求する。聖書の神様に敵対。

悪霊

悪魔の手先。人間の心に棲みつく実行部隊。あやかし神社では眷属のフリをしている。

聖書

悪魔と人間が結んだ契約を破棄する鍵…?

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