第62話 芸能上達の願い(1)
文字数 1,099文字
ぽろり、ぽろりと力ないピアノの音が響いていた。
ピアノを弾いているのは、藍沢夢子。小学5年生で、ピアノの習い事をしていた。こうして自宅で練習していたが、その表情は冴えない。
来週、ピアノの発表会があるのだが、思った通りに弾けない。バイエルの中にある曲だが、ピアノの先生は意外と厳しく、褒められた事も一度もない。中学生になる姉はピアノが上手で、学校でも弾いているらしいが、夢子はそんな事を頼まれる事もない。
それに近所からピアノの音がうるさいとクレームが入る事もあり、あまり練習もできない。姉のピアノの演奏には、そんなクレームは全くつかないので、夢子は密かに傷ついていた。
もうピアノの練習には集中できず、リビングに行って一人でテレビを見る事にした。
「人間拡張技術? 何これ…?」
テレビでは人気女優がピアノをスラスラと演奏していた。その腕には何か機材がつけられ、「勝手に指が動く!」と大興奮している。
どうやら女優の腕についている器具に秘密があるらしい。そこに一流にピアニストの技術が搭載され、素人の女優でもピアノが弾ける最新技術のようだった。
この技術者がインタビューで答えていた。「将来的には、スキルをアプリをダウンロードするようにしたい」と語っていた。ピアノだけでなく、語学や絵画や芸術家の技術などもダウンロードできるようにしたいらしい。
夢子は思わず、自分の手を見つめてみた。小さく子供らしい手だった。もしこの小さな手に魔法のようにスキルをダウンロードできたら、素晴らしいではないか。
しばらく、何の努力もしないでピアノが上達する光景を妄想していた。
「それって最高じゃん……」
こうした妄想に浸ると、実際ピアノの練習をするのがバカバカしくなってきた。一流ピアニストになった気分にもなり、早くそんな技術が生まれてば良いとも思い始めていた。
学校の授業ではAIのことも習った。将来的には、AIにさまざまな仕事がとってかわり、人間はメタバースのような仮想空間に住む可能性があると、先生が言っていた。
そんな事を聞かされると、将来の夢も何も思い浮かばない。親は仕事や家事に追われ、何も楽しそうではない。勉強もピアノもなかなか上達しない。勉強は暗記だけでも乗り越えられるが、ピアノは練習しなければ上達しない事は、よくわかっていた。
「私のスキルをダウンロードしたいなぁー。何の努力もしたくない」
怠惰な夢子の声が響いていた。
『ターゲットみっけた! 全く馬鹿な人間だよ!』
どこかから、そんな声が聞こえた。
「だれ?」
しかし、辺りはいつもと同じリビングで、変化はなかった。気のせいだったのかもしれない。
ピアノを弾いているのは、藍沢夢子。小学5年生で、ピアノの習い事をしていた。こうして自宅で練習していたが、その表情は冴えない。
来週、ピアノの発表会があるのだが、思った通りに弾けない。バイエルの中にある曲だが、ピアノの先生は意外と厳しく、褒められた事も一度もない。中学生になる姉はピアノが上手で、学校でも弾いているらしいが、夢子はそんな事を頼まれる事もない。
それに近所からピアノの音がうるさいとクレームが入る事もあり、あまり練習もできない。姉のピアノの演奏には、そんなクレームは全くつかないので、夢子は密かに傷ついていた。
もうピアノの練習には集中できず、リビングに行って一人でテレビを見る事にした。
「人間拡張技術? 何これ…?」
テレビでは人気女優がピアノをスラスラと演奏していた。その腕には何か機材がつけられ、「勝手に指が動く!」と大興奮している。
どうやら女優の腕についている器具に秘密があるらしい。そこに一流にピアニストの技術が搭載され、素人の女優でもピアノが弾ける最新技術のようだった。
この技術者がインタビューで答えていた。「将来的には、スキルをアプリをダウンロードするようにしたい」と語っていた。ピアノだけでなく、語学や絵画や芸術家の技術などもダウンロードできるようにしたいらしい。
夢子は思わず、自分の手を見つめてみた。小さく子供らしい手だった。もしこの小さな手に魔法のようにスキルをダウンロードできたら、素晴らしいではないか。
しばらく、何の努力もしないでピアノが上達する光景を妄想していた。
「それって最高じゃん……」
こうした妄想に浸ると、実際ピアノの練習をするのがバカバカしくなってきた。一流ピアニストになった気分にもなり、早くそんな技術が生まれてば良いとも思い始めていた。
学校の授業ではAIのことも習った。将来的には、AIにさまざまな仕事がとってかわり、人間はメタバースのような仮想空間に住む可能性があると、先生が言っていた。
そんな事を聞かされると、将来の夢も何も思い浮かばない。親は仕事や家事に追われ、何も楽しそうではない。勉強もピアノもなかなか上達しない。勉強は暗記だけでも乗り越えられるが、ピアノは練習しなければ上達しない事は、よくわかっていた。
「私のスキルをダウンロードしたいなぁー。何の努力もしたくない」
怠惰な夢子の声が響いていた。
『ターゲットみっけた! 全く馬鹿な人間だよ!』
どこかから、そんな声が聞こえた。
「だれ?」
しかし、辺りはいつもと同じリビングで、変化はなかった。気のせいだったのかもしれない。
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