第65話 芸能上達の願い(4)完
文字数 1,249文字
それから数ヶ月後、夢子は、桐谷の教会の礼拝堂でピアノを演奏していた。
あの桐谷の家は教会だった。あれから、桐谷とは町で偶然会う事もあり、交流を続け、たまに教会に遊びに事も多かったわ。教会にいるお姉さんやお兄さんは、勉強もできる人も多く、よく算数や理科を教えて貰ったりしていた。そういう事もあり、教会は宗教施設という感覚はあんまりなかった。礼拝堂も小さめな公民館といった雰囲気だった。
礼拝の時の奏楽者が不在らしく、ピアノを習っている夢子に演奏を頼まれた。その為に猛特訓して讃美歌のピアノを弾いているところだった。
「おー、夢子! ピアノ前より上手くなってるじゃん」
ピアノの練習を終えると、桐谷に褒められた。
「そーかなー?」
「前より上手いじゃん! 最高だった」
そう笑顔で褒められてしまうと、夢子の心もキュンと踊ってしまった。恋もメタバースな仮想空間じゃなくて、現実の自分の心で感じるから良いものなのかもしれない。
顔を真っ赤にしながら讃美歌演奏をする夢子の姿を、悪魔が眺めていた。せっかく、あやかし神社をつくり、夢子を騙そうとしたが、今回も上手く行かなかったようだ。
「花婿イエスよ、愛しています〜。麗しい主〜」
しかも賛美歌をピアノ演奏するようになったとか、悪魔の計画が必要以上に狂ってしまい、ギリギリと下唇を噛み締める。讃美歌を聴くだけで、悪魔は頭痛がしてきて苦しい。
「くそ! 讃美歌うっさいよ!」
悪魔は夢子の演奏に耳を塞ぐが、そのピアノの音は止まりそうになかった。
「またクリスチャンかよ! しかもこの教会、あの元ヒーラーの聖花がいた教会じゃねーか! くそ、また邪魔しやがって!」
しかし、実ところ、人間が書く絵馬の内容には、さすがの悪魔もドン引きする事も多かった。
「しかしアホだねー。こんな欲望まみれで大丈夫? 昔の仏教や神道だって欲望は否定的じゃなかったかい? いくら俺が人間の欲を刺激してやったとはいえ、よくここまで悪い方を選択できるもんだな。こんなヤツらに聖書なんて与えない方がいいわな。確かに神が言うように、豚に真珠ってやつだ。神が聞く耳があるヤツだけ聞けっていうのは、俺にも理解はできるよ。俺も人間がここまで愚かだとは知らんかったわー。神様ぁ、また洪水やって世界を滅ぼしちゃったら? クソ人間ばっかりだぜ」
悪魔は、絵馬に漂う人間のエネルギーを吸い取っていった。吸い取ったエネルギーを材料に、悪魔にとって利用価値のある金持ちや権力者の願いを叶えるつもりだ。夢子の件は失敗したが、まだまだ騙される人間は少なくない事に希望を持つ。欲深い願いが悪魔の養分にされ、巡り巡って社会が悪くなり、自分の首を締めている事など夢にも思っていないだろう。これは同時に神の裁きでもあるので、誰も止めやしない。神は自分に背いたものには、それなりの対処をする。本当の神は人間に都合良い優しい者ではなく、厳しい裁き主でもあった。
「さ、次も馬鹿で欲深い人間を騙すからな!」
悪魔の声があやかし神社に響いていた。
あの桐谷の家は教会だった。あれから、桐谷とは町で偶然会う事もあり、交流を続け、たまに教会に遊びに事も多かったわ。教会にいるお姉さんやお兄さんは、勉強もできる人も多く、よく算数や理科を教えて貰ったりしていた。そういう事もあり、教会は宗教施設という感覚はあんまりなかった。礼拝堂も小さめな公民館といった雰囲気だった。
礼拝の時の奏楽者が不在らしく、ピアノを習っている夢子に演奏を頼まれた。その為に猛特訓して讃美歌のピアノを弾いているところだった。
「おー、夢子! ピアノ前より上手くなってるじゃん」
ピアノの練習を終えると、桐谷に褒められた。
「そーかなー?」
「前より上手いじゃん! 最高だった」
そう笑顔で褒められてしまうと、夢子の心もキュンと踊ってしまった。恋もメタバースな仮想空間じゃなくて、現実の自分の心で感じるから良いものなのかもしれない。
顔を真っ赤にしながら讃美歌演奏をする夢子の姿を、悪魔が眺めていた。せっかく、あやかし神社をつくり、夢子を騙そうとしたが、今回も上手く行かなかったようだ。
「花婿イエスよ、愛しています〜。麗しい主〜」
しかも賛美歌をピアノ演奏するようになったとか、悪魔の計画が必要以上に狂ってしまい、ギリギリと下唇を噛み締める。讃美歌を聴くだけで、悪魔は頭痛がしてきて苦しい。
「くそ! 讃美歌うっさいよ!」
悪魔は夢子の演奏に耳を塞ぐが、そのピアノの音は止まりそうになかった。
「またクリスチャンかよ! しかもこの教会、あの元ヒーラーの聖花がいた教会じゃねーか! くそ、また邪魔しやがって!」
しかし、実ところ、人間が書く絵馬の内容には、さすがの悪魔もドン引きする事も多かった。
「しかしアホだねー。こんな欲望まみれで大丈夫? 昔の仏教や神道だって欲望は否定的じゃなかったかい? いくら俺が人間の欲を刺激してやったとはいえ、よくここまで悪い方を選択できるもんだな。こんなヤツらに聖書なんて与えない方がいいわな。確かに神が言うように、豚に真珠ってやつだ。神が聞く耳があるヤツだけ聞けっていうのは、俺にも理解はできるよ。俺も人間がここまで愚かだとは知らんかったわー。神様ぁ、また洪水やって世界を滅ぼしちゃったら? クソ人間ばっかりだぜ」
悪魔は、絵馬に漂う人間のエネルギーを吸い取っていった。吸い取ったエネルギーを材料に、悪魔にとって利用価値のある金持ちや権力者の願いを叶えるつもりだ。夢子の件は失敗したが、まだまだ騙される人間は少なくない事に希望を持つ。欲深い願いが悪魔の養分にされ、巡り巡って社会が悪くなり、自分の首を締めている事など夢にも思っていないだろう。これは同時に神の裁きでもあるので、誰も止めやしない。神は自分に背いたものには、それなりの対処をする。本当の神は人間に都合良い優しい者ではなく、厳しい裁き主でもあった。
「さ、次も馬鹿で欲深い人間を騙すからな!」
悪魔の声があやかし神社に響いていた。
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