第51話 厄祓いの願い(2)

文字数 899文字

 赤星紗枝の作品のパクリ疑惑が出てから、琴子は不運続きだった。

 実家が家事になったり、弟がコロナに罹ったり、妹が詐欺に合ったりしていた。その後片付けに巻き込まれて、毎日琴子はクタクタだった。仕事も、パクリ疑惑はだんだんと落ち着いてきたが、思ったより単行本の売り上げが伸びず、一旦「悪魔と異端な初恋」の連載も終了になった。仕切り直しとして第2部が始まる予定だが、家族のゴタゴタに巻き込まれて、イタリアへの取材も行けなくなってしまった。両親の世話のため、引っ越す事にもなったが、その準備も何故か上手くいかない。詐欺に巻き込まれた妹からは、連日「金よこせ」と言われるようになったり、面倒くさい状況になっていた。

 心当たりはある。「悪魔と異端な初恋」では、イエス・キリストや聖書、神父、クリスチャンをかなりdisっていた。もしかしたら、その神が怒って裁きを下している可能性も考えられた

 琴子は、誰もいない仕事部屋で、聖書を開いていた。もし、その神が怒ってこんな事になっているのなら、困った事になる。冷や汗を垂らしながら、聖書をめくっていた。

 分厚い書物で紙が薄くてめくりにくい。指サックをはめ、細かい文字を追う。確かに悪魔への裁きも書かれ、洪水を起こして世界を滅ぼしているとか、琴子にとって笑えない描写も出てきた。

「ファンタジー神話かと思ったら、全く甘いところもないし、ハードだな。ここに書いてある事って本当?」

 ふと、本棚に目をやる。自分が描いた「悪魔の異端な初恋」がある。ツノの生えたイケメン悪魔がヒロインを抱きしめていた。

「いやいや、裁きなんて」

 そう呟いた瞬間だった。なぜか聖書を持っていた手がピリピリと痺れ始めた。ページをめくろうとすればするほど、手に強い痛みが走り、動かなくなってしまった。

 すぐに病院に行くが、腱鞘炎だと診断され、仕事もドクターストップがかかった。

「神の裁き?」

 再び聖書を開こうとすると、手が真っ赤に腫れたり、血が出る事もあった。明らかに科学では証明できない事ばかりで、医者も首を傾げていた。

「神様が怒ってるんじゃない?」

 ついに医者までそんな事を言うようになってしまった。
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登場人物紹介

悪魔

あやかし神社の主。人間の記憶を食い幽霊のフリ、天使、動物やイケメンのフリをして人間を騙している。ヤクザのように願いの代償を請求する。聖書の神様に敵対。

悪霊

悪魔の手先。人間の心に棲みつく実行部隊。あやかし神社では眷属のフリをしている。

聖書

悪魔と人間が結んだ契約を破棄する鍵…?

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