第44話 理想の彼氏の願い(3)
文字数 2,219文字
「理想の彼氏」を読んでみたが、全く現実は変わらない。相変わらずバイト先の飲食店では、先輩に嫌味を言われ、店長から怒号が飛んできた。
大学の勉強も進まず、単位を落とすものも出てきそうだった。書店に行き、何か資格の勉強を取ろうとしたが、三日坊主で終わってしまう。ストレスでお菓子やチョコを食べ、顔はニキビだらけだった。
そんな折、「理想の彼氏」の著者のブログで、神社参りが効果的だと案内されていた。縁結びの効果が高いあやかし神社というところに行くと、効果大らしい。可愛い恋みくじやお守りなども紹介されていた。特にお守りには、可愛いキツネがデザインされ、効果がなくてもグッズとして持っていたい可愛いらしさがある。
住所を調べると、あやかし神社は家の近所にあった。こんな近所に神社があった記憶はないが、そういえば初詣でぐらしか神社に興味がなかった。知らなくても当然だろう。
さっそく、彩はあやかし神社に行ってみた。木々に囲まれていたが、公園のような爽やかば空気が流れている。鳥居はイメージより大きくはないが、小さな目なのがかえって可愛いらしい。鳥居の両端には、キツネのオブジェもある。可愛らしいキャラクターのようなキツネで、彩の胸は踊っていた。
他に参拝客はいないようだったが、可愛らしい神社で気にならなくなっていた。そういえば神社はエンタメ性は高い。少女漫画やライトノベルでもよく舞台になっていた。寛容で優しいイメージもあり、宗教というより博物館や美術館などの文化施設にしか思えない。
さっそく手水舎で手を洗い、恋みくじを引いてみた。可愛いハート形のチャームつきのおみくじで、結果は「大凶」と出ていたが気にしない。かえって運が良いのかもしれない。おみくじを適当に木に括り付けると、本堂の方に向かい鈴をならす。
ガラガラと思ったより、耳障りの音が響いた。賽銭箱に小銭を投げ、理想の彼氏が出来るよう祈る。
長々と祈っていた。バイト先での不遇を思うと、自分はシンデレラにように報われても良いと思っていた。
祈っているとすっかり気分は高揚し、ルンルン気分で帰ろうとした時だった。
目の前に金髪碧眼の王子様のようなイケメンがいた。「私の幸せな初恋」から、抜けだしてきたようだ。服装は現代日本でも違和感のない白シャツとジーパンだったが、シンプルな服装が映えるイケメンでもあった。
「彩。君の理想の彼氏だよ」
イケメンは優しく微笑んでいた。
「え、本当に?」
「うん、そうだよ。神社の神さまに命令されて、彩の前にやってきたよ」
信じられず、思わず大声を出しそうだった。
「嘘だ。夢じゃないの?」
イケメンは、彩の手をそっと握る。確かに温くもりはあり、夢では無いようだった。
「名前は?」
「うーん、名前はないね。僕は神さまに命令されているだけだからさ」
なぜかイケメンの姿がキツネに見えたような気がした。金髪のせいかもしれない。
「えー、名前がないってどういう事?」
「無いもんは、無いんだよ」
「かわいそう」
ここまで会話をしてみて、このイケメンって中身が無いような気がしてきた。失礼だが、知恵が足りない印象も受けた。バイト先の店長は意外と学があり、古典やクラシック、聖書の話なんかをしていた事を思い出す。
彩は店長から聞き齧った古典のタイトルを何作が挙げてみたが、イケメンは何も知らないようだった。
理想の彼氏に教養がある事を詳しく願っていない事も悪かったと気づいたが、目の前にいる男が急にハリボテのように見えてきた。かくいう自分自身もそんな気がしてきた。理想の彼氏と言いながら、自分を棚に上げて相手に要求ばかりしていた。それって、上辺だけで中身が無いって事ではないか。なぜ彼氏が欲しいのか。根本的な理由も間違っていた気もする。中身がないルックスだけの男が目の前にいるのも、意外と違和感がない。まさに自分が引き寄せた。
「いや、いいから」
彩は、イケメンから手を振りはらい、走って逃げた。
同時に自分は馬鹿だったと気づき始めてもいた。何の努力もしないで、理想ばかり追いかけていたら、目の前に中身の無い男が現れるのかもしれない。
とりあえず、家にある本は娯楽は捨てようかと思い始めていた。今、自分が努力できそうな事は、大学の勉強とバイトだ。バイトの先輩や店長にも、歩み寄ってもいいのかもしれない。
自分はシンデレラでもなく、相手も完璧に意地悪な悪役とは言い切れない。自分が悪いところも多かったかもしれない。そういえばバイトの仕事も手抜きしている。文句を言われても仕方ない状況だったと気づいた。自分は健気なシンデレラでも無い事にも気づき、かえって気持ちはスッキリと晴れていた。そう、自分はどこも正しくない。健気で正しくて、悲劇のヒロインと思う事は心を苦しませるだけのようだった。もうシンデレラストーリーを見るのはやめよう。
娯楽は、一時の気休めで、心は全く変わっていないどころか、悪くなっていたのかもしれない。ネットもそうかもしれない。「論破」しているインフルエンサーを見ていると、ついつい自分は正しいと思ったりもするが、実はそんな事は全く無い。娯楽、ネットなど、今の生活の身の回りにあるものは、毒も多いようだ。いつの間にかそんな毒に浸り、目の前の事を疎かにしていたようだ。
こうして彩は、理想の彼氏について忘れる事にした。その前にやるべき事が見つかった。
めでたし、めでたし?
大学の勉強も進まず、単位を落とすものも出てきそうだった。書店に行き、何か資格の勉強を取ろうとしたが、三日坊主で終わってしまう。ストレスでお菓子やチョコを食べ、顔はニキビだらけだった。
そんな折、「理想の彼氏」の著者のブログで、神社参りが効果的だと案内されていた。縁結びの効果が高いあやかし神社というところに行くと、効果大らしい。可愛い恋みくじやお守りなども紹介されていた。特にお守りには、可愛いキツネがデザインされ、効果がなくてもグッズとして持っていたい可愛いらしさがある。
住所を調べると、あやかし神社は家の近所にあった。こんな近所に神社があった記憶はないが、そういえば初詣でぐらしか神社に興味がなかった。知らなくても当然だろう。
さっそく、彩はあやかし神社に行ってみた。木々に囲まれていたが、公園のような爽やかば空気が流れている。鳥居はイメージより大きくはないが、小さな目なのがかえって可愛いらしい。鳥居の両端には、キツネのオブジェもある。可愛らしいキャラクターのようなキツネで、彩の胸は踊っていた。
他に参拝客はいないようだったが、可愛らしい神社で気にならなくなっていた。そういえば神社はエンタメ性は高い。少女漫画やライトノベルでもよく舞台になっていた。寛容で優しいイメージもあり、宗教というより博物館や美術館などの文化施設にしか思えない。
さっそく手水舎で手を洗い、恋みくじを引いてみた。可愛いハート形のチャームつきのおみくじで、結果は「大凶」と出ていたが気にしない。かえって運が良いのかもしれない。おみくじを適当に木に括り付けると、本堂の方に向かい鈴をならす。
ガラガラと思ったより、耳障りの音が響いた。賽銭箱に小銭を投げ、理想の彼氏が出来るよう祈る。
長々と祈っていた。バイト先での不遇を思うと、自分はシンデレラにように報われても良いと思っていた。
祈っているとすっかり気分は高揚し、ルンルン気分で帰ろうとした時だった。
目の前に金髪碧眼の王子様のようなイケメンがいた。「私の幸せな初恋」から、抜けだしてきたようだ。服装は現代日本でも違和感のない白シャツとジーパンだったが、シンプルな服装が映えるイケメンでもあった。
「彩。君の理想の彼氏だよ」
イケメンは優しく微笑んでいた。
「え、本当に?」
「うん、そうだよ。神社の神さまに命令されて、彩の前にやってきたよ」
信じられず、思わず大声を出しそうだった。
「嘘だ。夢じゃないの?」
イケメンは、彩の手をそっと握る。確かに温くもりはあり、夢では無いようだった。
「名前は?」
「うーん、名前はないね。僕は神さまに命令されているだけだからさ」
なぜかイケメンの姿がキツネに見えたような気がした。金髪のせいかもしれない。
「えー、名前がないってどういう事?」
「無いもんは、無いんだよ」
「かわいそう」
ここまで会話をしてみて、このイケメンって中身が無いような気がしてきた。失礼だが、知恵が足りない印象も受けた。バイト先の店長は意外と学があり、古典やクラシック、聖書の話なんかをしていた事を思い出す。
彩は店長から聞き齧った古典のタイトルを何作が挙げてみたが、イケメンは何も知らないようだった。
理想の彼氏に教養がある事を詳しく願っていない事も悪かったと気づいたが、目の前にいる男が急にハリボテのように見えてきた。かくいう自分自身もそんな気がしてきた。理想の彼氏と言いながら、自分を棚に上げて相手に要求ばかりしていた。それって、上辺だけで中身が無いって事ではないか。なぜ彼氏が欲しいのか。根本的な理由も間違っていた気もする。中身がないルックスだけの男が目の前にいるのも、意外と違和感がない。まさに自分が引き寄せた。
「いや、いいから」
彩は、イケメンから手を振りはらい、走って逃げた。
同時に自分は馬鹿だったと気づき始めてもいた。何の努力もしないで、理想ばかり追いかけていたら、目の前に中身の無い男が現れるのかもしれない。
とりあえず、家にある本は娯楽は捨てようかと思い始めていた。今、自分が努力できそうな事は、大学の勉強とバイトだ。バイトの先輩や店長にも、歩み寄ってもいいのかもしれない。
自分はシンデレラでもなく、相手も完璧に意地悪な悪役とは言い切れない。自分が悪いところも多かったかもしれない。そういえばバイトの仕事も手抜きしている。文句を言われても仕方ない状況だったと気づいた。自分は健気なシンデレラでも無い事にも気づき、かえって気持ちはスッキリと晴れていた。そう、自分はどこも正しくない。健気で正しくて、悲劇のヒロインと思う事は心を苦しませるだけのようだった。もうシンデレラストーリーを見るのはやめよう。
娯楽は、一時の気休めで、心は全く変わっていないどころか、悪くなっていたのかもしれない。ネットもそうかもしれない。「論破」しているインフルエンサーを見ていると、ついつい自分は正しいと思ったりもするが、実はそんな事は全く無い。娯楽、ネットなど、今の生活の身の回りにあるものは、毒も多いようだ。いつの間にかそんな毒に浸り、目の前の事を疎かにしていたようだ。
こうして彩は、理想の彼氏について忘れる事にした。その前にやるべき事が見つかった。
めでたし、めでたし?
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)
(ログインが必要です)