第60話 メサイアの願い(3)
文字数 1,989文字
スピリチュアル的なものは全く興味はなく、自分より弱い人間に優しくする事に生きがいを感じていた瑠夏は、近所に神社がある事など全く知らなかった。そういえば前の職場に施設長は神社参拝が趣味だったが、実際は逮捕されていたので、効果はなさそう。あと、利用者もスピリチュアル好きやカルト信者、カルト二世も多かった。そう思うと、瑠夏は自分が「教祖」になる事も可能な気がしてきた。
家の近所にある神社は、あやかし神社といった。変な名前の神社だが、スピリチュアル的な事に興味がない瑠夏は、特に気にしなかった。木々に囲まれて、初夏の爽やかな風が吹き抜けていた。他に参拝客もいないようで、鳥居の燃えるような朱色が目立っていた。
鳥居のそばには、キツネの像があり、マスクをしていた。コロナ対策をしっかりしている神社のようで、現実的らしい。少なくともコロナは茶番という陰謀論者より賢い知能がありそうだった。
さっそく鳥居をくぐり、手水舎で手を洗う。なんで手を洗うかは謎だ。洗わないと怒る神なのだろうか。そう思うと人間的で、ありがたみは減る。
しかし、手を洗えば救われると言えば、人間は騙されそうな気がしていた。そんな瑠夏の思考に応えるように、小鳥がピーピー鳴いていた。
参道の中心は歩いてはいけないらしい。つくづくルールにうるさい神のようだが、そうすれば願いが叶うといえば、やっぱり人間は信じそうな気がした。神社にいる神は人間の妄想の産物のような気がしてきた。
他に参拝客はいないようで、社務所はしまっていた。自動販売機に絵馬やお札を販売されていて、周りにアルコール消毒のボトルが置いてあった。なかなか感染症対策がしっかりとしているようで、瑠夏は好感を持つ。まさにアルコール消毒液は清酒、聖水といったところではないか。
アルコール消毒で手を清めると、おみくじを引きいた。そこには、不思議な事が書かれていた。大吉とか、凶など結果は書いておらず、こう書いてあった。
「あなたはイエス・キリストです。世界を救う救世主ですって、どういう事?」
しかし、自分が救世主とは気分が良い。もしかしたら、ちゃんと参拝すれば、自分は神になれるのかも知れない。縁起が良いので、 おみくじは木に結ばず、カバンの中に入れてみた。
そして瑠夏はワクワクしながら、参拝をすませた。
『ねえ、瑠夏』
すっかり満足して帰ろうとした時だった。何処からか声が聞こえた。柔らかな光を感じる声だった。
「だ、だれ?」
不思議な事など信じない瑠夏だったが、実際に聞こえるのだから仕方ない。天を仰ぎながら、声の主に尋ねた。
『私は、天使ガブリエル。あなたに最高の祝福を授けましょう』
「祝福?」
声だけなく、目の前に天使の姿があった。光が強くて顔はよく見えないが、白い衣と白い羽が見えていた。瑠夏の目の前にも白い羽が落ち、これは信じる他ない。
『あなたは、イエス・キリストです』
「はー? どういう事?」
『あなたは、この世界の救い主。選ばれました!』
そして、再び光が強くなり、眩しさに目が眩みそうだった。
なぜか、この天使の言う事は本当の事だと思い始めた。自分が神になれれば、冴えない現実は全部ひっくり返せる。別にこの世界を救いたくは無いが、神になる事は興味が出てきた。神になれれば、他人を支配できるかもしれない。
『あなたは神になれます』
「本当?」
『私の言う事を聞けば、神になれます』
冷静に考えれば、こんなファンタジー展開は受け入れられないだろう。しかし、天使のいう「神になれる」という言葉は、とても甘美だった。禁断の果実のように甘やかだった。
実際、天使は何か果実のようなものを差し出してきた。
『神になれるよ?』
念を押され、瑠夏は天使から果実を受け取って食べた。
「美味しい!」
その後、天使の言うことに従い、瑠夏は神になる事に成功した。まず、陰謀論系のサイトをたちあげ、上手く信者を作った後、神のお告げの御言葉、音声などを有料販売していった。あっという間に信者もでき、瑠夏様と呼ばれるようになった。陰謀論ファンは「自分は絶対にカルトに騙されない」と思ってるものが多く、赤子の手を捻るように簡単だった。そう言ったプライドの高さ、慢心は思わぬ落とし穴に落ちやすいのだ。
山奥に土地を買い、小さな教会も建てた。そこで、信者と共同生活を送りながら、信者の全財産をむしり取ったりしていた。何より、信者達に救世主や神様と呼ばれるのが、心地良くてたまらない。自分より有能そうな信者が来たら、「波動が悪い」などと言って追い出した。こうして自分だけの王国を築いて行った。
もうコンプレックスもない。信者の誰もが自分を崇めてくれる。
「あぁ、私は神! 救い主よ!」
そう言いながら、瑠夏は信者の頭に手を置き、高次元の波動を注入していった。
「私は神……!」
めでたし、めでたし?
家の近所にある神社は、あやかし神社といった。変な名前の神社だが、スピリチュアル的な事に興味がない瑠夏は、特に気にしなかった。木々に囲まれて、初夏の爽やかな風が吹き抜けていた。他に参拝客もいないようで、鳥居の燃えるような朱色が目立っていた。
鳥居のそばには、キツネの像があり、マスクをしていた。コロナ対策をしっかりしている神社のようで、現実的らしい。少なくともコロナは茶番という陰謀論者より賢い知能がありそうだった。
さっそく鳥居をくぐり、手水舎で手を洗う。なんで手を洗うかは謎だ。洗わないと怒る神なのだろうか。そう思うと人間的で、ありがたみは減る。
しかし、手を洗えば救われると言えば、人間は騙されそうな気がしていた。そんな瑠夏の思考に応えるように、小鳥がピーピー鳴いていた。
参道の中心は歩いてはいけないらしい。つくづくルールにうるさい神のようだが、そうすれば願いが叶うといえば、やっぱり人間は信じそうな気がした。神社にいる神は人間の妄想の産物のような気がしてきた。
他に参拝客はいないようで、社務所はしまっていた。自動販売機に絵馬やお札を販売されていて、周りにアルコール消毒のボトルが置いてあった。なかなか感染症対策がしっかりとしているようで、瑠夏は好感を持つ。まさにアルコール消毒液は清酒、聖水といったところではないか。
アルコール消毒で手を清めると、おみくじを引きいた。そこには、不思議な事が書かれていた。大吉とか、凶など結果は書いておらず、こう書いてあった。
「あなたはイエス・キリストです。世界を救う救世主ですって、どういう事?」
しかし、自分が救世主とは気分が良い。もしかしたら、ちゃんと参拝すれば、自分は神になれるのかも知れない。縁起が良いので、 おみくじは木に結ばず、カバンの中に入れてみた。
そして瑠夏はワクワクしながら、参拝をすませた。
『ねえ、瑠夏』
すっかり満足して帰ろうとした時だった。何処からか声が聞こえた。柔らかな光を感じる声だった。
「だ、だれ?」
不思議な事など信じない瑠夏だったが、実際に聞こえるのだから仕方ない。天を仰ぎながら、声の主に尋ねた。
『私は、天使ガブリエル。あなたに最高の祝福を授けましょう』
「祝福?」
声だけなく、目の前に天使の姿があった。光が強くて顔はよく見えないが、白い衣と白い羽が見えていた。瑠夏の目の前にも白い羽が落ち、これは信じる他ない。
『あなたは、イエス・キリストです』
「はー? どういう事?」
『あなたは、この世界の救い主。選ばれました!』
そして、再び光が強くなり、眩しさに目が眩みそうだった。
なぜか、この天使の言う事は本当の事だと思い始めた。自分が神になれれば、冴えない現実は全部ひっくり返せる。別にこの世界を救いたくは無いが、神になる事は興味が出てきた。神になれれば、他人を支配できるかもしれない。
『あなたは神になれます』
「本当?」
『私の言う事を聞けば、神になれます』
冷静に考えれば、こんなファンタジー展開は受け入れられないだろう。しかし、天使のいう「神になれる」という言葉は、とても甘美だった。禁断の果実のように甘やかだった。
実際、天使は何か果実のようなものを差し出してきた。
『神になれるよ?』
念を押され、瑠夏は天使から果実を受け取って食べた。
「美味しい!」
その後、天使の言うことに従い、瑠夏は神になる事に成功した。まず、陰謀論系のサイトをたちあげ、上手く信者を作った後、神のお告げの御言葉、音声などを有料販売していった。あっという間に信者もでき、瑠夏様と呼ばれるようになった。陰謀論ファンは「自分は絶対にカルトに騙されない」と思ってるものが多く、赤子の手を捻るように簡単だった。そう言ったプライドの高さ、慢心は思わぬ落とし穴に落ちやすいのだ。
山奥に土地を買い、小さな教会も建てた。そこで、信者と共同生活を送りながら、信者の全財産をむしり取ったりしていた。何より、信者達に救世主や神様と呼ばれるのが、心地良くてたまらない。自分より有能そうな信者が来たら、「波動が悪い」などと言って追い出した。こうして自分だけの王国を築いて行った。
もうコンプレックスもない。信者の誰もが自分を崇めてくれる。
「あぁ、私は神! 救い主よ!」
そう言いながら、瑠夏は信者の頭に手を置き、高次元の波動を注入していった。
「私は神……!」
めでたし、めでたし?
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