第16話 縁切りの願い(3)

文字数 1,506文字

 あやかし神社は、立派な赤い鳥居があった。鳥居は満月に照らされ、藍色のような色合いを帯びている。

 鳥居をくぐると、少し冷静になってきた。

「あやかし神社って何?」

 あやかしと言えば、ファンタジー漫画や小説の妖怪だ。鬼や蛇、天狗や妖狐などがいた記憶がある。あやかしは人と友達のように寄り添うファンタジー漫画や小説も多い。特に気疑問は持っていなかったが、普通の神社はアマテラスの神などを祀っている記憶がある。

 鳥尾をくぐり、誰もいない本堂の方に進む。遠くにコンビニや街頭の光も見え、意外と暗くはない。本当は手を洗った方がいい気がするが、桐花は作法はよく知らない。初詣に行くだけで、特に信仰心はない。無神論者であるし、配信している時は「自分って神」状態だが、困った時だけはこういったものに頼りたい。典型的な困った時の神頼みだった。この神社も初めて知った。

 本堂の賽銭箱に小銭を全部いれた。たぶん、三百円ぐらいはあっただろう。財布には一万円札も入っていたが、それは出したくはなかった。

「智樹と縁を切ってください!」

 そう言葉にし、賽銭箱の前で祈る。特に何も変わらない。

「あれ? 何これ?」

 しかし、本堂のすぐ横にある広場は奇妙だった。木にいっぱいおみくじが括りつけられ、不気味だった。絵馬も木に飾ってあったが、それが妙なのだ。

「何、この絵馬は」

 絵馬は、契約書のような文言が書かれていた。

「この絵馬に名前を書くと、あやかし神社の神と契約できます。契約すると、願いを叶えてあげます。ただし、あなたから一つ奪います。願いの内容によっては、全部奪います。効果がなければ、またこの土地に契約しにきてね。あなたの願いを叶えてあげましょう。この世の神よりって。何これ」

 他に細かい文字で色々書いてあったが、薄暗くてよく見えない。

 とりあえず桐花は、この神社の口コミをネットで検索して見た。

『効果絶大!』
『演技切りできた!』

 絶賛コメントばかりだった。見上げると大きな満月があった。綺麗なレモンクリームの満月で、不安は減っていた。

「そこまで口コミが良いなら、効果あるんじゃない?」

 桐花は、幼い頃からネットをしていた。ネットの口コミは何より信頼できる。それに沢山の絵馬が飾ってある。効果がある証拠ではないか。

『元彼が死にますように』
『クソ嫁が死にますように』
『子供がいなくなりますように』

 絵馬に書かれた願いを見てみると、だんだんと気分が悪くなってきたが、自分はもう後がない。警察は聞いてくれないし、敬哉に心配もかけたく無い。

 桐花は、新品の絵馬を取った。なぜか絵馬は無料で代金は取らないらしい。

 契約内容が書いてある面をひっくり返し、願いを書き込んだ。手元がよく見えないので、スマホのライト機能を利用してみた。

『智樹が死にますように。この世の神様、どうかお願いします』

 書いた絵馬を木にくくりつけると、何処かから笑い声が響いていた。

「うん? 誰?」

 後ろを振り返ったが、誰もいなかった。おそらく桐花の気のせいなのだろう。

 あやかし神社の絵馬の効果は絶大だったみたいだった。

 その翌日、智樹は地元でトラックに轢かれて死亡した。

「ザマァ!」

 その知らせを聞くと、思いっきり叫んでいた。ガッツポーズもする。やっぱり、あやかし神社の効果大だった。

 再びあやかし神社に行こうとしたが、なぜか何処にもなかった。ネットでの口コミも全部消えていた。

 幻だったのだろうか。

 しかし、実際に憎い智樹が死んだにだから、どうでも良い。

 今日も配信をしながら視聴者にチヤホヤされ、敬哉にも褒めてもらう。こうしてストーカー問題は解決した。

 めでたし、めでたし?
 
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登場人物紹介

悪魔

あやかし神社の主。人間の記憶を食い幽霊のフリ、天使、動物やイケメンのフリをして人間を騙している。ヤクザのように願いの代償を請求する。聖書の神様に敵対。

悪霊

悪魔の手先。人間の心に棲みつく実行部隊。あやかし神社では眷属のフリをしている。

聖書

悪魔と人間が結んだ契約を破棄する鍵…?

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