第55話 使命の願い(2)

文字数 1,162文字

 福沢聖花は、生まれた時から不運だった。いや、生まれる前から、おかしな事が多かった。

 母は妊娠中に神社にお参りに行ったらしいが、帰り道で交通事故に遭ったらしい。何とか一命をとりとめ、聖花は無事に産まれたわけだが、その後もろくな事がない。

 生まれつき金属アレルギーと小麦粉と牛乳アレルギーもあり、身体も弱かった。

 変質者からストーカーされる事も多く、誘拐されそうになった事もある。偶然通りかかった若い夫婦に助けられ、何事もなかったが。その若い夫婦は、キリスト教の教会を運営しているらしく、遊びに来るように誘われたりもしたが、母が「カルトだよ、やめときなよ」と言われ、命の恩人に会う事は二度と無かった。

 母は昔からスピリチュアルにハマり、連日セミナーやDVD、パワーストーン、ヒーラーに貢いでいた。おかげで家計は火の車になり、父は家を出て行った。

 最初は母がハマっているスピリチュアルでも恩恵があったようで、ちょっとは裕福だったが、借金が膨れ上がり、結局聖花も親戚の家に引き取られる事になった。

 その家でも聖花は受け入れられず、親戚の女性にはいじめらるし、その息子にはレイプ未遂された事もあった。何故か大きな地震がおき、最後まで汚される事は無かったが。

 学校でもいじめに遭い、父も病気で亡くなり、ふんだり蹴ったりだった。

「神様、何で私は不幸なんですか?」

 聖花は、十三歳の時、神社に祈りに向かった。数々の不幸に疲弊しきっていた。神がいるなら、何故こんな事があるのかわからない。

 藁を掴む思いだった。

 この神社は、あやかし神社といい、別居中の母がよく通っていたらしい。聖花を妊娠中にもこに神社に行くようになり、帰りに交通事故にあった事もあるらしいが、「本当は死ぬところを神様が助けてくれた」とキラキラした目で語っていた。

 その言葉だけが妙に頭に残り、気づくとあやかし神社に足を運んでいた。

 森に囲まれた薄暗い神社だったが、星花は熱心に祈っていた。

 すると、不思議な事がおきた。

『聖花、ごめんよ』

 目の前に死んだ父がいた。

「パパ!」

 幽霊かと思ったが、抱きしめると肉の感触がしていた。

『ごめんよ、家から出て行って』

 しかも、父しか知らない情報も知っていた。親戚の家族は、父の遺産を不当に奪っていたらしい。

「そんな、どうすれば……」
『いいかい? 聖花。俺の言う通りにしてくれ』

 だんだんと父の姿は消えてくるが、声だけはハッキリと聞こえた。

 そして声の通りに動くと、不幸がぴたりと止まった。

 父の遺産を取り戻し、母も戻ってきた。裕福では無かったが、二人で生活する分は、困らない。いじめも止まり、学校で友達もできた。

 やはり、神社の祈りの効果はあったのかも知れない。

 こうして、不幸は止まったが、あの父の声は時々聞こえるようになっていた。
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登場人物紹介

悪魔

あやかし神社の主。人間の記憶を食い幽霊のフリ、天使、動物やイケメンのフリをして人間を騙している。ヤクザのように願いの代償を請求する。聖書の神様に敵対。

悪霊

悪魔の手先。人間の心に棲みつく実行部隊。あやかし神社では眷属のフリをしている。

聖書

悪魔と人間が結んだ契約を破棄する鍵…?

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