第30話 成功の願い(1)

文字数 1,228文字

 人の願望は、だいた三つぐらいの種類しかない。成功、金、恋愛。

 真田璃子は、占い師をしているので、人間の欲望というものを嫌というほど、実感していた。

 実際、客で世界平和や他人の幸せを望む相談は見た事がない。いかに自分が幸せになれるのか。自分、自分、自分だった。中には他人の不幸も願う相談もあり、璃子は悩んでしまう。やんわりと注意しても、口コミなどで悪く書かれて、収入に響く。

 今の占い師は、ネットで主に活動している。道端に出店し、手相を見ているものは、少数派となっている。電話やメール、テレビ通話などを活用しながら、璃子も活動していた。

 コロナの影響で仕事を失った璃子は、副業の本などを読み漁った。その中で占い師がオススメされていて、模様見真似ではじめた仕事だった。もうアラフォーで体力もすりへってきたし、新しい商売をおこす元手もない。そんな状況では、占い師が一番始めやすい仕事ではあった。現実は、人の欲望ばかり見せられ、メンタルは疲れる仕事だが。

 ちなみに璃子には、霊感などもまったくない。メールの文面から色々と察しながら、適当な事を言って占っていた。結局客は、良い言葉を聞きたいから占い師に相談している面も強い。当たってるかどうかは、そこまで重要ではないようだった。単に話を聞いてもらいたい客も多く、その手のタイプは適当な事を言っても疑われる事はない。

 問題なのは、欲深いタイプの客だった。

「私は彼と結婚したいんです! どうすればいいんですか」

 その彼とは、不倫相手の上司だった。何としても、奥さんから略奪したいらしい。電話越しからもヒステリックな雰囲気が伝わってくる。

「でも、お客様。今のこの状況は、あなたの波動が引き寄せたものですよ」

 璃子は数日前に読んだ引き寄せの法則の本から、適当に引用しながら言う。引き寄せの法則は、スピリチュアル界隈で人気のメゾットらしいが、結局は心の持ちよう、自己責任で片付けていた。こういった占いをしている璃子は、なかなか上手いやり方だとも思った。

「そうなんですか?」
「ええ。波動を調整してあげましょう」

 適当な事を言っているだけだが、客は納得していた。

 詐欺同等のくだらない仕事だ。人の欲望ばかり見せられる。

 しかし、一般的な派遣やOLの仕事と比べて稼げる。元手もいらない。いつしか璃子は、この仕事をやめられない状況に陥っていた。

「先生、ありがとう!」
「いいえ。ポジティブな思考を持って波動を高く保ちましょう!」

 こうして口先だけで上手いことを言い、占い師のサイトでもランキング上位に入るようになった。

 客の欲望にウンザリしていた癖に、自分がいざランキング上位になると、欲が出てきた。もっと上にいき、稼ぎたい。

 その為にはどうすれば、良いのだろうか。もしかしたら、引き寄せの法則の一部も当たっているのかもしれない。

 璃子は、この法則について研究をし始めていた。より知る事ができれば、もっと客を騙せて稼げるかもしれない。
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登場人物紹介

悪魔

あやかし神社の主。人間の記憶を食い幽霊のフリ、天使、動物やイケメンのフリをして人間を騙している。ヤクザのように願いの代償を請求する。聖書の神様に敵対。

悪霊

悪魔の手先。人間の心に棲みつく実行部隊。あやかし神社では眷属のフリをしている。

聖書

悪魔と人間が結んだ契約を破棄する鍵…?

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