第43話 理想の彼氏の願い(2)

文字数 1,364文字

 飲食店でのバイトの帰り、彩は心底イライラとしていた。

 同じバイトの先輩から「悲しいぐらい芋臭いね? もっと努力したら? だからモテないんだよw」と嫌味を言われてしまい、イライラしていた。

 確かの先輩が言っている事は当たっている。少女漫画のヒロインのように鈍臭く、厨房で皿を割ってしまうが、かえって来るものは先輩の嘲笑と嫌味、店長の怒号。

「はぁー。私って虐げられ系なの? まじ、つら〜」

 すっかり疲れきっていた彩は、駅ビルに入っている大型書店に向かった。

 すぐに少女漫画やライトノベルコーナーに直行した。 今はシンデレラストーリーも人気のようで、虐げられていたヒロインにイケメンが現れ、なぜか溺愛されるというストーリーが流行っていた。自分も虐げられ系なので、思わずそういった本を抱え込んでしまう。彩のバイト代はこういった娯楽に溶けていた。もはや何故バイトをしているのか疑問な状況だが、彩はこういった娯楽に囲まれていれば幸せだ。漫画やライトノベルの絵はキラキラしていて美しく、すぐに現実逃避できて楽しい。

 そんな娯楽本を抱えてホクホク顔の彩だったが、女性向けエッセイやスピリチュアル本コーナーも気になる。「繊細なあなたは、虐げられて当然なのです」というタイトルの本も気になる。今は繊細なタイプの人がメディアで取り上げられているようで、彩も自分ってそうなのかも知れないと気分が高揚してきた。

 そんな本も腕に抱えると、スピリチュアル系の本が気になった。タイトルはシンプルで「理想の彼氏」だったが、表紙はピンクで可愛らしい。帯には「理想の彼氏を簡単に誰でも引き寄せる秘密を教えてあげる」と書いてあった。

 バイト先の先輩の嫌味っぽい声や表情などを思い出し、そんな本も腕に抱えてレジに行く。運の悪い事にレジには、バイト先の先輩のような派手な女性定員がいた。買った本のタイトルを見て、ちょっと呆れたような視線を向けてきたが、気にしない事にした。「理想の彼氏」を読めば、何か変われそうだと感じていた。

 家の自分の部屋に帰ったら彩は、さっそく「理想の彼氏」を読んでみる事にした。文字も大きく、口語調で読みやすい本だった。

 一言でいえば、自分の理想に集中し、ポジティブな気持ちでいれば、理想の彼氏が引き寄せられるという話だった。理想の彼氏を詳細にイメージし、リスト化すると、現実が変わっていくらしい。紙にリストを書くと、よりイメージが強固になり、良いらしい。

 さっそく大学ノートとペンを取り出して、子供の頃から使っている机に向かって書いてみた。しかし、ろくに男性に相手にされなかった彩は、イメージなど上手くできない。結局、彩も好きな少女漫画「私の幸せな初恋」のヒーローである金髪碧眼の王子様をイメージしてみる事にした。

 気分は高揚し、願いは叶ったような気がしてきた。

「理想の彼氏」によると、ワクワクした気持ちでいると、楽しい夢のような未来が引き寄せられるらしい。

 ニュースをみると、戦争や貧困がある。最近は、ワクチンの薬害も問題になっているようだった。そんな酷い現実を考えるよりは、ワクワクした気分になっている方が良いと思った。

「はぁー、理想の彼氏が欲しいな」

 いつの間にか、彩はうとうとと居眠りをしていた。そのだらしない口元から寝言が漏れていた。
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登場人物紹介

悪魔

あやかし神社の主。人間の記憶を食い幽霊のフリ、天使、動物やイケメンのフリをして人間を騙している。ヤクザのように願いの代償を請求する。聖書の神様に敵対。

悪霊

悪魔の手先。人間の心に棲みつく実行部隊。あやかし神社では眷属のフリをしている。

聖書

悪魔と人間が結んだ契約を破棄する鍵…?

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