第8話 健康の願い(3)

文字数 1,678文字

 めちゃくちゃに走り、そっと後ろを見ると、妖狐は追ってこないようでホッとした。

 しかし、お腹が痛くて仕方ない。汗もダラダラ流れ、今にも身体が砕けそうな気分だった。

「あなた、大丈夫?」

 そこに30代前半ぐらいの女性に声をかけられた。

 このご時世でもマスクも何もしていない。しかも反ワクチン活動家のようで変なシャツも着ていたが、具合の悪い自分に親身になって話しかけてくれた。

 女性は黒島華菜という名前で、キリスト教会の牧師夫人だと言っていた。突然キリスト教とか言われた愛美が、ちょっと戸惑ってが、すぐ目の前に教会があり、少し休んでいけばいいという。

 近所に教会はあるのは知らなかった。見かけは公民館にしか見えず、つい華菜に言われて休む事にした。

 礼拝堂という場所に通されたが、椅子と教壇、それにピアノしかない地味な講堂だった。小さめな体育館ぐらいの大きさで椅子も並んでいる。雰囲気は公民館に近い。特に怪しいところはない。

 それに華菜がもってきたハーブ茶が妙においしく、椅子に座っていると具合が良くなってきた。

「それにしても、あなた顔が真っ青だったわよ。何があったの?」

 愛美はちょっと戸惑ったが、神社での出来事を説明した。

「うーん、そんなあやかし神社なんてこの近所にはないよ。おそらく夢でもみていたんじゃない?」

 華菜はネットで検索してくれたが、あやかし神社の情報はなかった。

「こんな事いったら、宗教差別になるかもしれないけど、神社で願掛けするのは偶像崇拝って言って危険なの。願いを叶えるのは、神様じゃなくて悪魔だからね」
「それってあなたの感想ですよね?」

 ついつい生意気な口答えをしてしまった。某ひろゆき氏の真似でもある。別にあの神社は信じていないが、キリスト教の人が言うとそんな感じがする。

「神社に行って生理痛を止めてくださいって祈った人が、子宮全摘出になってうちの教会に相談しにきたことがあるわ。あと、京都の縁切り神社に行ったら、元彼が死んだという相談も。確かに効果はあるみたい。でも所詮、悪魔がやってる事だから、叶い方が恐ろしいのよ」
「そんな、嘘だよ」

 反論したいが、そんなケースを言われると、何も言えない。

 そういえば妖狐も願いの代償を貰うとか言ってた……。

「健康管理は自分でするものよ。誰かに頼ったら、その人に主導権を握られてしまうもの。食生活はどう? 病気は生き方や考え方が間違ってるっていう神様からのメッセージだよ。寝る時間や運動はちゃんとしてる? 神社で祈る前に、まずは自分でできる事をしましょう。私達クリスチャンも祈ったらちゃんと行動してるよ。小学生レベルの学力の人が神様に祈ったら東大入れる? 無理だよね。本当の神様は厳しいから、その人の器にあったものしか与えないの。むしろ必要以上のものを与えたら不幸になるからね。小学生が東大行っても、授業について行けなくて時間の無駄でしょ」

 そう指摘されてしまうと、愛美は何も言えずに俯いてしまう。

「このお茶美味しい。もしかして健康にいいですか?」
「ええ。庭でとれたミントやカモミールなんかをブレンドしたオリジナルのもの。どう? あなたもハーブの調合してみる? 健康にいいわよ。花粉症や生理痛に効くハーブもあるよ」
「本当ですか!?」

 愛美はその言葉に食いついた。

 こうして華菜の元でハーブの勉強をし、生理痛にきくお茶を作った。それだけでなく、料理や運動の勉強も独学し、いつの間にか健康になっていた。何が原因かはわからが、自分の身体に関しては他人のせいにしないで責任を持つ事、健康になったら美保に会いたいという目標を立て前向きになった事が大きいようだった。病は気からというのは本当かもしれない。

 元気になった愛美は、東京に住む友達・美保に会う為、出掛けていた。

 あやかし神社の事はすっかり忘れていた。きっと夢だったと思うし、何かを犠牲にしてまで健康を手に入れたい感じでもない。

 それよりは、ハーブや食事、運動の勉強の方が面白かった。将来は、オーガニックカフェを開きたい夢もできた。

 めでたし、めでたし?
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登場人物紹介

悪魔

あやかし神社の主。人間の記憶を食い幽霊のフリ、天使、動物やイケメンのフリをして人間を騙している。ヤクザのように願いの代償を請求する。聖書の神様に敵対。

悪霊

悪魔の手先。人間の心に棲みつく実行部隊。あやかし神社では眷属のフリをしている。

聖書

悪魔と人間が結んだ契約を破棄する鍵…?

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