第52話 厄祓いの願い(3)
文字数 1,561文字
商売道具である手が使い物にならない琴子は、仕事はもちろん、ネットで検索するのもできなかった。何かネットでも答えがある気がするが、それもできない。
そんな折、同業者の松嶋アリスから電話がかかってきた。ホラー少女漫画を描いていて、都市伝説やオカルトにも詳しい女性だった。地震や災害などの予言漫画も描いており、オカルト界隈でも人気作家だった。
「えー、琴子先生、そんな事になってたんですか?」
「そうなんですよ。突然、聖書を開いたら、手がおかしくなって」
聖書は捨てようかとも思ったが、それも怖くなり、仕事部屋の本棚に入れっぱなしにしていた。
「それ、霊的な何かに攻撃されてる可能性があるよ。神様の裁きかどうかは、微妙なところだけど」
オカルトな芸風のアリスに言われると、怖くなってきた。
「似たような事例は聞いた事あるよ。聖書読み始めてから、手が爛れちゃった人がいる」
「えー、なにその呪いの書……」
本当に世界で一番売れた書物だろうか。琴子は全く信じられなくなっていた。
「聖書は霊的な書物でもあるらしい。魔術師は、旧約聖書の音声を逆再生して呪いをかけるらしい」
「なにそれ、めっちゃくちゃ怖いんですけど」
確かに聖書には、悪魔とか悪霊とかの話題も多かった。改めて「悪魔と異端な初恋」を描いてしまった事が怖くなってきた。
「アリス先生、どうすればいいの? 聖書を読んで手が爛れちゃった人はどうしたの?」
「うん、神社に行って拝んだらピタッと止まったらしい。厄祓いしに行ったら?」
「そ、そうかも……」
琴子は近所の神社に行くことにした。神社なんて初詣しか行った事ないので興味はなかったが、近所にあやかし神社という神社があった。妙にファンタジー風の名前に見えたが、藁をもつかむ思いだった。
神社は木々に囲まれて、鳥居のそばには狐の像も置いてあった。キツネの像は、マスクをしていて、どことなく息苦しそうだった。感染症対策の一環でやっているのだろうが、妙な空気がある。木々に囲まれて薄暗いし、他に参拝客もいないのが、不気味だった。
手水舎で手を洗い、参道を歩き、本堂の前にある鈴を鳴らして賽銭を投げた。
「厄を払ってください」
すると、目の前にイケメンが現れた。
「え?」
ファンタジー展開に、これって漫画世界だろうかと思うほどだった。イケメンはキツネのような耳と尻尾をつけていた。平安装束のような格好だった。確か水干という装束で、陰陽師などの平安ファンタジー漫画から抜けて出てきたようだった。
あり得ない状況だが、漫画を描いている琴子は、こういう事も全く無いとは言い切れない。
「あなた、もしかして陰陽師? 眷属?」
漫画のファンタジー知識を総動員して、イケメンに尋ねた。
「うん! 僕は眷属。キツネの眷属。神様の命令で、琴子を守りに来たよ?」
「ほ、本当?」
「うん!」
イケメン、いや眷属のキラキラした笑顔に琴子はすぐに信じてしまった。彼の顔は良い。漫画にしたくなる。
「じゃ、琴子の厄祓いをしてあげるね!」
眷属は何か呪文を唱えはじめた。おそらく、祝詞と言われているもので、聞いていると神聖な気持ちになってきた。
「はい、終わり!」
眷属がそう言うのと同時に、琴子の晴れて動かなかった手が普通に動き始めた。痛みもない。
「え、治った!」
「でしょ? 厄を祓ってあげたよ。なんか困った事があったら、また来てね!」
そう言い残し、眷属は消えてしまった。
その後、不思議な事がおきた。「悪魔と異端な初恋」のボイスドラマ化が決まったり、芸能人が推してくれたりした。手も治り、バリバリと連載を続けていた。実家の問題も全て解決し、引越しも終わった。
ついでに聖書も処分したが、特に問題が無いどころか、「悪魔と異端な初恋」の単行本が全巻重版がかかった。
めでたし、めでたし?
そんな折、同業者の松嶋アリスから電話がかかってきた。ホラー少女漫画を描いていて、都市伝説やオカルトにも詳しい女性だった。地震や災害などの予言漫画も描いており、オカルト界隈でも人気作家だった。
「えー、琴子先生、そんな事になってたんですか?」
「そうなんですよ。突然、聖書を開いたら、手がおかしくなって」
聖書は捨てようかとも思ったが、それも怖くなり、仕事部屋の本棚に入れっぱなしにしていた。
「それ、霊的な何かに攻撃されてる可能性があるよ。神様の裁きかどうかは、微妙なところだけど」
オカルトな芸風のアリスに言われると、怖くなってきた。
「似たような事例は聞いた事あるよ。聖書読み始めてから、手が爛れちゃった人がいる」
「えー、なにその呪いの書……」
本当に世界で一番売れた書物だろうか。琴子は全く信じられなくなっていた。
「聖書は霊的な書物でもあるらしい。魔術師は、旧約聖書の音声を逆再生して呪いをかけるらしい」
「なにそれ、めっちゃくちゃ怖いんですけど」
確かに聖書には、悪魔とか悪霊とかの話題も多かった。改めて「悪魔と異端な初恋」を描いてしまった事が怖くなってきた。
「アリス先生、どうすればいいの? 聖書を読んで手が爛れちゃった人はどうしたの?」
「うん、神社に行って拝んだらピタッと止まったらしい。厄祓いしに行ったら?」
「そ、そうかも……」
琴子は近所の神社に行くことにした。神社なんて初詣しか行った事ないので興味はなかったが、近所にあやかし神社という神社があった。妙にファンタジー風の名前に見えたが、藁をもつかむ思いだった。
神社は木々に囲まれて、鳥居のそばには狐の像も置いてあった。キツネの像は、マスクをしていて、どことなく息苦しそうだった。感染症対策の一環でやっているのだろうが、妙な空気がある。木々に囲まれて薄暗いし、他に参拝客もいないのが、不気味だった。
手水舎で手を洗い、参道を歩き、本堂の前にある鈴を鳴らして賽銭を投げた。
「厄を払ってください」
すると、目の前にイケメンが現れた。
「え?」
ファンタジー展開に、これって漫画世界だろうかと思うほどだった。イケメンはキツネのような耳と尻尾をつけていた。平安装束のような格好だった。確か水干という装束で、陰陽師などの平安ファンタジー漫画から抜けて出てきたようだった。
あり得ない状況だが、漫画を描いている琴子は、こういう事も全く無いとは言い切れない。
「あなた、もしかして陰陽師? 眷属?」
漫画のファンタジー知識を総動員して、イケメンに尋ねた。
「うん! 僕は眷属。キツネの眷属。神様の命令で、琴子を守りに来たよ?」
「ほ、本当?」
「うん!」
イケメン、いや眷属のキラキラした笑顔に琴子はすぐに信じてしまった。彼の顔は良い。漫画にしたくなる。
「じゃ、琴子の厄祓いをしてあげるね!」
眷属は何か呪文を唱えはじめた。おそらく、祝詞と言われているもので、聞いていると神聖な気持ちになってきた。
「はい、終わり!」
眷属がそう言うのと同時に、琴子の晴れて動かなかった手が普通に動き始めた。痛みもない。
「え、治った!」
「でしょ? 厄を祓ってあげたよ。なんか困った事があったら、また来てね!」
そう言い残し、眷属は消えてしまった。
その後、不思議な事がおきた。「悪魔と異端な初恋」のボイスドラマ化が決まったり、芸能人が推してくれたりした。手も治り、バリバリと連載を続けていた。実家の問題も全て解決し、引越しも終わった。
ついでに聖書も処分したが、特に問題が無いどころか、「悪魔と異端な初恋」の単行本が全巻重版がかかった。
めでたし、めでたし?
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