第41話 許しの願い(4)完

文字数 2,313文字

 何でも願いが叶い、この世の中春を謳歌している羽純だったが、ある日、請求書が家に届いているのに気づいた。

 差し出し人は、あやかし神社からだった。「これだけ願いを叶えてあげたのだから、家族や友達の命も差し出せ」と書いてあった。

 全く意味がわからない。あやかし神社というのも心当たりがなく、ネット検索したら、元占い師が運営しているブログや動画がヒットした。あやかし神社は悪魔がいるから絶対に行くなという。聖母マリアを演じた悪魔に騙された経緯がブログに書いてあったが、どういう事だろうか。羽純は全くわからない。

 そんな羽純の元に弟が交通事故に遭ったという知らせが届いた。

「どういう事?」

 羽純は必死にミニチュアの神社を前に祈ったが、何の効果もなかった。

「ふふふ、馬鹿だね、羽純は」

 そんな羽純の姿を、上空から碧子が見ていた。いや、本物の碧子ではなく、碧子のフリをした悪魔だった。

 悪魔はこうやって死人の記憶を奪い、幽霊のフリをして脅かし、崇めさせる事をよくやっていた。いわゆる祟り神というのも悪魔の自演だった。死んだ人間は神に管理され、地上には誰一人いない。幽霊と言われているものは、全て悪魔の自作自演だった。生霊と言われてるものも、人間のマイナスな感情も養分にして生きる悪魔の部下・悪霊だ。悪霊は日本の神社では眷属、西洋ではファミリアスピリッツ、使い魔と言われている。悪魔は最近はUFO、宇宙人に化ける事もあった。幽霊の事を「お化け」と表現する事もあるが、当たらずしも遠からず。

 いじめっ子だった祐香里や美嘉もターゲットにしようとしたが、あの二人はアメリカにいて、家の近所にある教会に通うようになってしまった。そのせいで悔い改め、クリスチャンになったらしい。まあ、かなり罪は重いので、毎日泣きながら暮らしていた。もちろん罪の刈り取りもあるので、二人の今後の人生は厳しいものになるだろうが。そもそも二人のいじめも同僚の悪魔が悪い思考を吹き込み、同意させた結果だった。二人とも家族に放置されている心の傷があり、同僚もイージーに誘惑できたようだった。いじめの背景にも悪魔がいるので、いじめっ子に無闇矢鱈と復讐しても、特に意味はないだろう。

 やはり、アメリカは日本と違って祈りや礼拝の場があるので、悪魔とてイージーには出来ない部分もある。セキュリティが硬く、天使がパトロールしている場所もあり、入れない場所も多い。しかし、いじめっ子の方が罪を自覚しやすくて救われてるとか、なかなか皮肉だ。現に元占い師や元ヤクザや元悪魔崇拝者の方が信仰を持ちやすいのは、逆説的でちょっと笑えてくる。神の基準は人間と異なるのだろう。神は罪深い売春婦が特に好きだったりする。

 悪魔にとって羽純のように中途半端な優等生タイプが一番騙しやすくてイージーという事もあるが。こういうタイプがもしクリスチャンになったら、「あなたは清い」と高ぶりの悪霊を送り、パリサイ風宗教人に誘惑していく。ちなみにパリサイ風宗教人は、使う言葉が綺麗だが回りくどく、フワフワしていてポエムっぽいという特徴があるので、覚えておくといい。悪口は京都人のようなイケズ風に言ってくるので実に嫌味っぽいね。

 悪魔は、偶像が多くセキュリティがガバガバな日本に戻った後、羽純をターゲットにする事にした。悪魔の思惑通りに踊ってくれて、実にラッキーだと頬を緩ませていた。

 羽純は泣きながら、「許してほしい、許してほしい」と言っているが、その声を悪魔が聞く事はないだろう。きっちりと願いが叶った代償を頂こうではないが。本人より家族から払って貰う方が、羽純を苦しめる事ができるので、より楽しい。説明のつかない不運は、家族がやらかしている場合が意外と多かったりする。

 願いの代償は、人間にとって都合が良い時には請求しない。若い頃に良い思いをさせて、老いぼれた時に突然請求するのも、なかなか面白い。あるいは子供に請求させるのも良い。その方がより人間を苦しめる事ができる。

 別に羽純は悪魔と契約したつもりは無いだろうが、人間が心から拝めば、その対象の背後にいる悪魔と契約成立する。あまり知られていないが、恐れる事も崇拝だ。悪魔にとってはそれが何より重要で、安っぽいミニチュア神社でも、歴史ある出雲大社でも大差なかった。神社でなくても推し活グッズは、悪魔が入りやすいツールで、人間を使ってわざと流行らせていた。

 神より何かを大事にし、拝む人間から悪魔がエネルギーを奪い、養分にしていた。そして力を得た悪魔は、国の支配者に戦争を起こすよう誘惑したり、庶民が経済苦になる政策をさせる。世の中が悪くなっている元凶は、神でも無いものを人間が拝んでいるからだ。陰謀論者がワクチンを反対したり、政治家相手にデモを起こし、選挙に行っても世の中は良くならない。まして国の支配者を恨み、殺したり復讐をしても無意味なのだ。

 聖書で自分で復讐するな、敵を祝福し、右の頬を殴られたら左の頬を出せというのは、道徳的な事を伝えているのではなく、悪魔との戦い方を教えている。いうなれば、この悪い世界の攻略本とも言える。だから悪魔は聖書を道徳や宗教の書、神話、ファンタジー扱いして隠したい。聖書を読み信仰持てば誰でも悪魔・悪霊祓いも出来てしまい、これは都合が悪い。病気、不倫、泥棒、いじめ、詐欺、疫病、殺人なども止められる権威も得てしまうから、何としても止めたい。聖書解釈も誤誘導させて邪魔したい。

「俺との契約破棄する方法? 知ってるけど、教えないよーん。永久に死んでからも契約破棄できないよーん♪」

 悪魔は、大笑いしながら羽純の泣き声を聞いていた。
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登場人物紹介

悪魔

あやかし神社の主。人間の記憶を食い幽霊のフリ、天使、動物やイケメンのフリをして人間を騙している。ヤクザのように願いの代償を請求する。聖書の神様に敵対。

悪霊

悪魔の手先。人間の心に棲みつく実行部隊。あやかし神社では眷属のフリをしている。

聖書

悪魔と人間が結んだ契約を破棄する鍵…?

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