第50話 厄祓いの願い(1)

文字数 1,535文字

 佐良琴子は、仕事部屋で祈っていた。仕事部屋は、パソコンとペンタブレットはもちろん、つけペンやインク、ミニサイズの人体模型が置いてある。本棚には、ポーズ集、制服図鑑、動植物や古代中華などの本がたくさん詰め込まれていた。他にも「蛇原琴子」という名前の作者の漫画本が大量に詰め込まれていた。

 そう、琴子は漫画家だった。16歳の高校生の時にデビューし、漫画家歴は20年にもなる。少女漫画やホラー、中華後宮のライトノベルのコミカライズも手掛けていた。メディア化された作品はないが、そこそこ人気だった。少なくとも同年代のOLよりは稼いでいた。これでも漫画家の中では低い方なので、褒められたものでがないが。外見は普通のアラフォーOLにしか見えないので、こんな仕事をしていると言うと驚かれる。生活リズムは、OLとは全く違うので、友達は同業者しかいなくなってしまった。彼氏はいたが、琴子の金目当てで働かなくなっていたので最近別れた。

 3ヶ月前に連載が終わり、今は新しいネタを練っていた。

 琴子は新しいネタを寝る前は、いつも祈っていた。不思議な事に祈るとネタが降ってくるような気がした。どこに祈っているかはわからないが、とりあえず漫画の神様に祈っていた。

 不思議な事に、漫画の神様に祈った話は、読者や編集部に評判が良い事が多かった。自分の考えというのは、ほんの少しで、神様が与えている考えを受信しているような感覚がある。こんな事をしている自分は時々、神託を受ける巫女や聖女になった気分になる事もあった。

「漫画の神様。どうか次はヒット作を作りたいです。何かアイデアをください」

 すると、ふと頭に閃くものがきた。まさにラジオで漫画の神様のチャンネルを聞いているような感覚を覚えた。

 それは、バアルという悪魔と孤独な女子高生のラブストーリーだった。さっそく企画書を書き上げ、担当編集者に持っていくと、GOサインが出た。赤星紗枝という少女小説作家が書いている作品には似たような設定の話もあったそうだが、病気休養中で、長らく活動中止中だった。そういう事もあり、特に問題にもならず、新連載が決まった。おそらく赤星紗枝も漫画の神様チャンネルを聞いたのかもしれない。意外とこういう被りはあるらしく、業界内ではアイデアが被るのは問題になりにくかった。そもそもパクリを証明するのは、とても難しいらしい。絵がトレースしているのは問題だが、アイデアレベルとなると、立証は難しい。偶然と言われたら、それまでだ。誰が見ても一目瞭然の盗作ではないと、パクリは証明できないようだ。

 こうして決まった新連載のタイトルは「悪魔と異端な初恋中」だった。少女漫画専門のアプリで連載が決まったが、琴子の作品は浮いていた。他の作品は、学園ものが多いが、「悪魔と異端な初恋中」は、西洋風のファンタジーでもあった。取材の為にイタリアにも行っているので、コストパフォーマンスも非常に悪い作品だ。

 最初は全く人気がなかったが、単行本化されると、瞬く間に重版され、書店に大きく並べられた。

 悪魔を取材する為に西洋美術書はもちろん、聖書も読んだ。正直、ファンタジー小説に見えたものだったが、悪魔への裁きなども書いてあり「こんな先品書いちゃって大丈夫かなー」と心のどこかで思っていた。もっともキリスト教関連からは全くクレームもつかず、しばらくは何もなかったが。

 突然、ネット上で赤星紗枝の作品とのパクリ疑惑が出ていた。編集部は、問題ないと行っていた。なにしろ、今の業界は似たような作品を大量に作っていた。むしろ設定などは人気作品に寄せていくように指導される。

「うーん、困ったね」

 琴子は、ネットの炎上を見ながら、悩む。

 さて、これからどうしよう。
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登場人物紹介

悪魔

あやかし神社の主。人間の記憶を食い幽霊のフリ、天使、動物やイケメンのフリをして人間を騙している。ヤクザのように願いの代償を請求する。聖書の神様に敵対。

悪霊

悪魔の手先。人間の心に棲みつく実行部隊。あやかし神社では眷属のフリをしている。

聖書

悪魔と人間が結んだ契約を破棄する鍵…?

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