第63話 芸能上達の願い(2)
文字数 1,302文字
「宝くじ当たらないかなぁー」
夢子は、ランドセルを背負い、通学路を歩いていた。放課後、まだ夕方にはならない中途半端な時間だった。
今日、学校の友達の親が宝くじを当てたというニュースを聞いた。金額は教えてくれなかったが、神社にお参りに行ったら当たったと話していた。そんな話を聞くと、夢子も宝くじを当てたくなってしまった。かくいう夢子の母の口癖も「宝くじ当たらないかなー」なので、親の真似をしただけだったが。
友達にどこの神社にお参りに行ったのかを詳しく聞き、夢子もお参りに行くことにした。絵馬に願いを書くと叶ったらしい。
「ふふーん、宝くじ当てたいな!」
鼻歌まじりに歌い、神社に向かう。
友達から聞いた神社の名前は、あやかし神社という場所だった。学校の側にあるらしかったが、一度も来た事はない。神社参拝といっても親に連れられて初詣に行った事しかない。実のところ、神社はどういう所かよく知らないが、願い事を叶えてくれる場所という事はわかる。
その割には、木々に囲まれ、人気も無いのが気になったが、神聖な空気はあると感じる。鳥居も炎のような色で、森の中にあると目立っていた。
鳥居の側には、金色に輝く子牛の像と灰色の蛇の像も飾ってあった。どちらも邪悪な目をしていたが、「この像を触ると合わせるとご利益があります」という看板も出ていた。人々に触られているせいか、金の子牛の像はお腹の辺りが禿げかけていた。蛇は禿げている様子はなかったが、心を見られているような気がして足がすくんできた。
残念ながら、小学生の夢子は身長が届かず、金の子牛の像や蛇の像に触る事はできなかった。
そして鳥居をくぐり、手水舎で手を洗って口をゆすいだ。今は初夏だったので、冷たい水が心地いい。他に参拝客はいないようで、神社の中は木々のざわめきと小鳥の鳴き声だけが響いていた。
詳しい作法はわからないので、とりあえず絵馬を買って飾ろうかと考えた。社務所は閉まっていたが、その前に台座が出ていて絵馬が販売されていた。お金を箱の中に入れれば、絵馬を買えるようだった。
「とりあえず書いてみよー」
絵馬を購入したら、願い事を書いてみた。宝くじの高額当選はもちろん、ピアノを練習しないで上達したいと書いた。
あのスキルをダウンロードできるような技術が欲しい。まるで、夢のような技術ではないか。
絵馬をワクワクした気分で描き終えると、飾る場所に括りつけた。
「え、何これ……」
夢子は他人の絵馬を眺めながら、少し引いていた。
クソ嫁が死んで欲しい、元彼が事故にあって欲しい、会社の局が左遷して欲しい、弁護士か医者の彼氏が欲しい、仕事で成功したい、受験に合格したい……。人々の欲望が黒い渦のように見え、夢子はだんだんと気分が悪くなってきた。
「うぇ……」
手水舎の方に行き、少し吐いてしまった。欲望まみれの絵馬も気持ち悪いものだが、自分も似たような願いをかけていた事を自覚すると、もっと気持ち悪くなってきた。同族嫌悪というやつだ。しばらく手水舎の方でうずくまり、気分が落ち着くのを待っていた。
もしかしたら、欲を持ちすぎるのは、良くない事のようにも感じていた。
夢子は、ランドセルを背負い、通学路を歩いていた。放課後、まだ夕方にはならない中途半端な時間だった。
今日、学校の友達の親が宝くじを当てたというニュースを聞いた。金額は教えてくれなかったが、神社にお参りに行ったら当たったと話していた。そんな話を聞くと、夢子も宝くじを当てたくなってしまった。かくいう夢子の母の口癖も「宝くじ当たらないかなー」なので、親の真似をしただけだったが。
友達にどこの神社にお参りに行ったのかを詳しく聞き、夢子もお参りに行くことにした。絵馬に願いを書くと叶ったらしい。
「ふふーん、宝くじ当てたいな!」
鼻歌まじりに歌い、神社に向かう。
友達から聞いた神社の名前は、あやかし神社という場所だった。学校の側にあるらしかったが、一度も来た事はない。神社参拝といっても親に連れられて初詣に行った事しかない。実のところ、神社はどういう所かよく知らないが、願い事を叶えてくれる場所という事はわかる。
その割には、木々に囲まれ、人気も無いのが気になったが、神聖な空気はあると感じる。鳥居も炎のような色で、森の中にあると目立っていた。
鳥居の側には、金色に輝く子牛の像と灰色の蛇の像も飾ってあった。どちらも邪悪な目をしていたが、「この像を触ると合わせるとご利益があります」という看板も出ていた。人々に触られているせいか、金の子牛の像はお腹の辺りが禿げかけていた。蛇は禿げている様子はなかったが、心を見られているような気がして足がすくんできた。
残念ながら、小学生の夢子は身長が届かず、金の子牛の像や蛇の像に触る事はできなかった。
そして鳥居をくぐり、手水舎で手を洗って口をゆすいだ。今は初夏だったので、冷たい水が心地いい。他に参拝客はいないようで、神社の中は木々のざわめきと小鳥の鳴き声だけが響いていた。
詳しい作法はわからないので、とりあえず絵馬を買って飾ろうかと考えた。社務所は閉まっていたが、その前に台座が出ていて絵馬が販売されていた。お金を箱の中に入れれば、絵馬を買えるようだった。
「とりあえず書いてみよー」
絵馬を購入したら、願い事を書いてみた。宝くじの高額当選はもちろん、ピアノを練習しないで上達したいと書いた。
あのスキルをダウンロードできるような技術が欲しい。まるで、夢のような技術ではないか。
絵馬をワクワクした気分で描き終えると、飾る場所に括りつけた。
「え、何これ……」
夢子は他人の絵馬を眺めながら、少し引いていた。
クソ嫁が死んで欲しい、元彼が事故にあって欲しい、会社の局が左遷して欲しい、弁護士か医者の彼氏が欲しい、仕事で成功したい、受験に合格したい……。人々の欲望が黒い渦のように見え、夢子はだんだんと気分が悪くなってきた。
「うぇ……」
手水舎の方に行き、少し吐いてしまった。欲望まみれの絵馬も気持ち悪いものだが、自分も似たような願いをかけていた事を自覚すると、もっと気持ち悪くなってきた。同族嫌悪というやつだ。しばらく手水舎の方でうずくまり、気分が落ち着くのを待っていた。
もしかしたら、欲を持ちすぎるのは、良くない事のようにも感じていた。
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