第３７話　世界平和の願い（４）完

「日曜礼拝教会は欺瞞！　みんな教会には行くな。本当は土曜日礼拝が正しいんです！　安息日は土曜日です！　ローマ法皇が十戒を変える。みんな、目覚めて！」

　最近、佳代はYouTube動画を作るようになった。ミカエルに教わった事をそのまま伝えていた。

　陰謀論から聖書に辿り着いた人にとっては、佳代の動画が面白いらしく、同じように日曜礼拝をやっている教会から離れるものも増えているらしい。

　佳代は間違っている事をしているつもりはない。マスクも外せないコロナ脳の牧師を馬鹿にし、古参のクリスチャンに神学論争も吹っかけていたりしていた。その表情は、子供の頃とは全く違っていた。

「馬鹿だなー！　俺の言う事なんて、全部嘘だよ！　全部聖書に嘘を混ぜて誤誘導してるんだけど！　聖書の裁いてはいけませんって言葉もこっちは誤誘導しやすいよなー。善悪は人それぞれなんて、悪魔の教理よ？」

　空中にいるミカエルは、腹を抱えて笑っていた。そして美しい天使の姿から、ツノの生えた悪魔の姿に変わっていく。

「そもそも牧師って神からの裁きが重いのに、ずっと日曜礼拝が容認されてるのは何故ですかねー？　佳代は、この件をずっと放置している神が無能って言っているみたいだよねー？　安息日にこだわるのって十字架まるッと否定してね？　俺らと同じじゃん♪ まあ、法皇や神父も裁きが重いから、最近は幼児虐待の件もバレてきてるよな……。あいつらが十戒変えるのなんて無理だろう……。カトリック担当の同僚もなかなか頑張ってはいるが、聖書も上手く改竄できて無いんだわ。俺らも神の裁きが怖いんだよ」

　悪魔といえども、聖書改竄は隠密にやってるが露骨には出来ないので、聖書解釈を誤誘導するのは大得意だった。聖書の知識に限っては、人間より悪魔の方が詳しかったりする。そうしないと人間、特にクリスチャンを騙せないからだ。

　聖書を無闇に広めたのも、実は悪魔側だったりする。そうして、上手く聖書の内容を誤誘導するのが、悪魔の真骨頂ともいえる。聖書の言葉を捻じ曲げるのは、大昔からの悪魔の戦略の一つだった。

「それにしても野良クリスチャンって俺らからすると一番攻撃しやすいよな。ほら、群れから離れた獣だって仕留めるの簡単だろ？　俺らは人を孤立させたいね。だから、コロナもソーシャルディスタンスやってるのだよ。コロナ茶番やってるのもクリスチャンへの攻撃も目的って上司の悪魔が言ってたぜ」

　悪魔は、一生懸命動画を撮影している佳代を見ながら、笑いが止まらない。悪魔にとって、「目覚めた陰謀論者」など痛くも痒くもない。

「まあ、最初にリベラルな教会行ってしまったのが、佳代は運が悪かったね。LGBTの旗つき教会なんて、どう見ても地雷案件w 俺らは、何よりも教会で人が集まって祈られるのが嫌なんだわ。野良クリをいっぱい作らないと。アメリカでもこの作戦は案外上手くいってるぜ。おかげで献金も減って教会がたくさん潰れてラッキー♫ 教会はキリストの身体だから何としても潰したいわ。その為に陰謀論でも何でも利用するぜ。佳代は牧師に喧嘩売ったり、古参のクリスチャンにマウントとるのが実に楽しそうで、イイね〜！」

　まあ、こっちの手先になってくれている佳代にわざわざ本当の事を教えてあげる必要もない。ずっと「目覚めた」と誤解したまま、眠っていて貰いたいものだ。

　佳代が望む世界平和？

　そんなものは無いだろう。例え、今の支配者層が滅びても、同じように悪魔を賛美する心を持った支配者が必ず出てくる。それぐらい人間の心は腐っている。悪魔でさえ神が超怖い存在である事を知っているが、人間はそれすらも理解できないらしい。

　結局、人間の心など陰謀論に目覚めたぐらいでは変わりやしない。神抜きで、人の心がまともになる事などは絶対に無い。道徳も法律も同調圧力も、大きな災害や戦争があった時には全崩壊する。

　日本語の「お天道様が見ている」は悪魔にとって嫌な言葉だ。神の名前は知らなくても、神の存在を感じていた日本人の先祖は少なからずいた。そんな彼らが地獄へ行ったのかは、実は悪魔もよく知らない。神はあえて福音伝道をクリスチャンにやらせているので、物理的にどうしても聴くチャンスがなかった者や言葉もわからない子供なども地獄へ行ったどうか知らない。まあ、福音を伝えた宣教師に「先祖は救わなかったっぺか。偏狭な神様じゃ」なんて屁理屈捏ね、ドヤ顔していた昔の日本人は確実に地獄行きだが。

「やっぱりミカエルのフリはオールマイティで騙せて楽だよな。さて、次は誰を騙そうか」

　悪魔の楽しそうな声が響いていた。