第29話 厄年(4)完

文字数 1,484文字

「すみません! 友達をこっち側に持ってくる事に失敗しました」

 真帆は、あやかし神社の手水舎で神主に謝罪していた。

 過去に真帆は、不倫相手からストーカーされ、この神社で縁切りの願いを聞いて貰った。最初の3ヶ月ぐらいはハッピーで怖いぐらい順調だった。ネットにある口コミに効果絶大だと書き込んだほど。

 しかし、神主からは願いの代償を払えと脅されるようになった。子供や夫の命も奪うと脅され、神主の言う通りに行動せざるおえない。占いも興味がないが、彼の言う通りに言うと、何故か当たっていた。

 また、友達も神社に連れて来いなどと脅されるようになり、絹子を言葉たくみに騙そうとしたが、うまくいかなかった。

 元々真帆は霊的に敏感で、昔から不思議なものもみえたりした。だからこの男にターゲットにされていると思うが、その正体はよくわからない。外見はイケメンだが、騙されている気もする。真帆の目からは、もうヤクザにしか見えなかった。一度こういう場所に頼ったら、終わりなのかもしれない。ある意味、絹子は命拾いをしたのだろう。

「は? 失敗しただと?」
「なんか、神社は下ネタばっかりだと呆れていましたよ。何でこんな風俗街に神社があるんですか? 戦略的に間違ってる気がするんですけど」
「しかたないよ。神がそんな風に設定したからな」
「神? あなたが神ではないの?」
「クソ、うっさい!」

 神主は吐き捨てるように言うと、あやかし神社から空中に戻り、絹子の姿を見る事にした。神主からツノの生えた悪魔の姿に戻り、イライラしながら絹子を見下ろす。

 絹子は、子供と一緒に住宅街を歩いていた。

「ママー、この十字架の建物なに?」

 子供は教会の十字架を指差した。

「これは、キリスト教の教会だね。なんか綺麗な音楽も聞こえるね。讃美歌かな。プロテスタントの福音派か。何かこっちの方が雰囲気が清らかだし、パワースポット感があるな……」
「ママ、ここ行ってみようよ! なんか気になるよ! ゴスペルの練習会やってるんだって!」
「そうだね。ちょっと入ってみようか」

 絹子と子供は、教会の門を叩いていた。

「ふ・ざ・け・る・な!」

 悪魔は、そんな親子の姿にブチギレし、地団駄を踏んでいた。確かに心の底からの讃美歌は、人間に霊的な力を与えるので、絹子が「パワースポット感がある」と言うのは間違いではない。教会から聞こえる賛美歌と絹子の勘の良さに腑が煮えくりかえる。神への賛美は人を生かすが、悪魔は人に崇められ、賛美されないとパワーアップ出来ない。そうする事で人のエネルギーを奪って存在していくのだが、絹子から何も奪えない事を悟り、悪魔はギリギリと下唇を噛む。

「くそ! 他の神社も下ネタやり過ぎだぜ。確かに男性器とかは、女性に受けないわな。もっと戦略を練らねーと! あー、でも俺も下ネタが大好きなんだよな! 珍宝窟は俺も神社におきたいぜ」

 人間を利用し、神社のイメージアップをさせるスピリチュアルやエンタメなども創らせていたが、悪魔は下ネタは辞められなかった。

「まあ、仕方がない。今回は、俺が下品過ぎたぜ。へへっ。昼間からキャバ嬢とヤるのは、さすがに不味かったわな。次こそは、清らかな光の天使のフリして騙すからな? 久々にミカエルかガブリエルのフリでもやってみよーかね? 聖母マリアは、カトリック担当の悪魔が自演してるが、何故か日本人ってミカエルやガブリエルが大好きだよなー。本物の天使がスピってるノンクリなんかに話しかけてる暇なんて無いっての」

 悪魔は色々と戦略を巡らすが、あやかし神社に男性器を祀ってみるのも良いかもなぁ等と考えていた。
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登場人物紹介

悪魔

あやかし神社の主。人間の記憶を食い幽霊のフリ、天使、動物やイケメンのフリをして人間を騙している。ヤクザのように願いの代償を請求する。聖書の神様に敵対。

悪霊

悪魔の手先。人間の心に棲みつく実行部隊。あやかし神社では眷属のフリをしている。

聖書

悪魔と人間が結んだ契約を破棄する鍵…?

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