第10話 宝くじの願い(1)

文字数 1,168文字

 潮田芳子は、つくづく自分は運がいいと思う。バブル時代に若い頃を過ごし、腰掛けで就職。上司の紹介してくれた男と結婚し、その後は寿退社して専業主婦。パートにでる事もあったが、単純作業や簡単な接客ばかり。それでも困る事はない。

 今だったら考えられない話だろう。共働きも当たり前だし、非正規雇用も全体の半分ぐらいあるのだと聞く。腰掛けや寿退社という言葉は死語になってしまった。

 芳子には娘がいるが、現在就職活動中。芳子よりもかなり良い大学に行っているが、コロナの影響もあり、なかなか就活活動はうまくいかないらしい。海外で働く事も考えているらしい。向こうでは、現地の高卒の方が給料が没落気味の日本よりも良いのだという。生まれた世代でこんなに差がある事は、本当に人間は平等なのか芳子にはわからなかった。

「聞いてよ、芳子さん。私、最近海外旅行に行ってきたのよ」

 そんな中でも人間の欲というのは、尽きないのだろう。

 今日は午後から主婦友達と優雅にお茶していたが、さっそくマウントをとられた。

 由紀恵という主婦で、芳子とそんなにスペックは変わりない。ただ、夫は銀行員で最近出世した事も自慢してきた。

「どこ行ってきたの?」

 優雅なカフェの席であったが、見えない戦いのようなものが始まっていると芳子は思う。

「韓国よ」

 それを聞いて芳子はちょっとホッとした。韓国は悪くないが、大学生でも気軽に行けるような旅行先だ。ハワイとかオーストラリアとか言われたら、心は平安ではなかっただろう。

「まあ、トッポギは美味しいよね」

 そんな嫌な気持ちを隠すかのように、芳子は韓国料理を褒めた。

「あら、そうなの。私の息子は最近弁護士の資格をとったのよ。ほら、このご時世だったら、資格持ってた方がいいじゃない」

 そう言ったのは、もう一人の主婦友達の真子だ。子供がいかにエリートである事を、ペラペラと語っていた。

「あら、真子さんの息子さんってすごいのね」

 口では誉めるが、内心はザワザワしてくる。それに引き換えうちの娘は……。

 今、この場所で主婦友達に勝てる要素は何一つない。娘は就活に苦戦中だし、夫は別に出世していない。家も車もだんだんボロくなってきた。

 せめてお金があればいいが。

 宝くじでも当たらないかな?

 芳子は主婦友達とヘラヘラと笑いながら、頭の中では欲深い思考でいっぱいになっていた。

 比較的恵まれた世代に生まれた。少しズレていたら氷河期世代だった。もっと生まれるのが遅れていたら、コロナで就活も大変だったかもしれない。

 芳子は確実に恵まれている。

 それなのに、欲望はつきなかった。友達と比較すればするほど、自分は足りていないと思ってしまう。

 宝くじ当たらないかな。自分は運がいいし、ふってわくように簡単にお金をもらえないかな。

 芳子の思考は、欲でいっぱいになっていた。
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登場人物紹介

悪魔

あやかし神社の主。人間の記憶を食い幽霊のフリ、天使、動物やイケメンのフリをして人間を騙している。ヤクザのように願いの代償を請求する。聖書の神様に敵対。

悪霊

悪魔の手先。人間の心に棲みつく実行部隊。あやかし神社では眷属のフリをしている。

聖書

悪魔と人間が結んだ契約を破棄する鍵…?

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