第39話 許しの願い(2)
文字数 1,575文字
同級生の黒木碧子が自殺したらしい。いじめを苦に自殺したらしい。
いじめの主犯は、祐香里と美嘉だった。二人とも特にお咎めはなかった。祐香里は大企業の令嬢、美嘉は学園長の孫だ。このいじめ問題は揉み消されて二人は海外に逃げてしまった。
クラスの中の空気も「黒木ってキモかったもんなー」という生温い感じで、誰も泣いていなかった。担任も全くショックを受けてない。ホームルームで、人は生まれ変わり、輪廻転生するから良いと言っていた。担任は某カルトの信者で、これをいい事にお経を唱え、お札を教室に貼っていた。
「ま、委員長。そんな気を落とさないでよ。黒木は、異世界転生して今頃貴族に身染められてるって」
そう言ったのは、同じクラスの市井風子だが、河野純香は、微妙な表情を浮かべていた。純香は委員長だったので、黒木は気にかけていた。まさか自殺しちゃうなんて想像もしていなかった。こうして友達の風子と昼ごはんを食べているが、あまり美味しく無い。
「異世界転生? そんなものはあるの?」
風子はヲタクだが、純香は全くゲームもアニメもやらず、勉強漬けの毎日だった。異世界転生と言われてもピンとこない。
「あるって。異世界ラノベでは、何回死んでも転生するらしいよ。黒木もあっちの世界で楽しくやってるって」
そうか?
羽純はイマイチ納得できない。むしろ、いじめ主犯格の美嘉や祐香里を末代まで呪っていそうだが。
少し暗い雰囲気で、黒木碧子の重たい前髪を思い出すと、異世界でハッピーに暮らしている想像はできなかった。そもそも異世界ラノベやアニメは娯楽であり、現実と関係ない。
最近は、アニメや漫画のセリフを引用して語る人も多いように感じる。メタバースなども仮想空間も推し進められ、今の世の中は、夢と現実の境界戦が曖昧だと思ったりもする。
そんな疑問で胸が一杯になった時、担任に呼び出された。
「は? 黒木さんのお母さんは入院したんですか。それで、見舞いに行けと…」
担任は、そんな命令を羽純にしてきた。
「いや、それに最近夢に黒木が出てきてな……」
「夢?」
「ああ、黒木が絶対許さないって脅してくるんだよ!」
もう50過ぎの担任だったが、カルトの護符を握り締め、カタカタと震えていた。
「やっぱり、ちゃんと供養しないと怖いよ。やっぱり、人の死は……」
担任は、震えながらGODIVAのチョコレートの箱を差し出す。これを碧子の母親に見舞いとして持って行けという事らしい。
なんでこんな事しないといけないのかとも思ったが、委員長なので仕方ない。
羽純は放課後、町にある総合病院に向かっていた。
「帰れ!」
母親には罵倒され、GODIVAのチョコレートの箱を投げつけられた。
「お前もいじめの共犯だ! 見て見ぬフリして、碧子を見捨てた。お前が碧子を殺したんだ!」
そう言われると、羽純は何の反論もできなかった。罪悪感でぐっと心が重くなってくる。
その日から、羽純は夢を見るようになった。碧子の夢だった。
彼女がいじめられている日常の教室の風景がリアルに再現されていた。夢だったが、かなりリアルな光景で、羽純は足がすくむ思いがした。
『何で見て見ぬフリをしたの!? 許せない! 絶対許せない!!!』
碧子の声が耳に残り、目覚めても身体はどっと重くなってきた。
「ごめん、なさい」
自分の部屋で泣きながら謝ったが、全く意味がなかった。
夢だけだったら良かったが、それから羽純は不運に見舞われるようになった。家が家事になったり、両親の病気が発覚したり。極め付けは、弟が学校で虐められるようになった。
『許さない! 見て見ぬフリして助けてくれなかった! 本当は昆虫食なんて食べたくなかった!』
学校や部屋に一人でいると、幽霊の碧子を見るようにもなり、気が狂いそうだった。
許してほしい。
羽純の願いはそれだけだった。
いじめの主犯は、祐香里と美嘉だった。二人とも特にお咎めはなかった。祐香里は大企業の令嬢、美嘉は学園長の孫だ。このいじめ問題は揉み消されて二人は海外に逃げてしまった。
クラスの中の空気も「黒木ってキモかったもんなー」という生温い感じで、誰も泣いていなかった。担任も全くショックを受けてない。ホームルームで、人は生まれ変わり、輪廻転生するから良いと言っていた。担任は某カルトの信者で、これをいい事にお経を唱え、お札を教室に貼っていた。
「ま、委員長。そんな気を落とさないでよ。黒木は、異世界転生して今頃貴族に身染められてるって」
そう言ったのは、同じクラスの市井風子だが、河野純香は、微妙な表情を浮かべていた。純香は委員長だったので、黒木は気にかけていた。まさか自殺しちゃうなんて想像もしていなかった。こうして友達の風子と昼ごはんを食べているが、あまり美味しく無い。
「異世界転生? そんなものはあるの?」
風子はヲタクだが、純香は全くゲームもアニメもやらず、勉強漬けの毎日だった。異世界転生と言われてもピンとこない。
「あるって。異世界ラノベでは、何回死んでも転生するらしいよ。黒木もあっちの世界で楽しくやってるって」
そうか?
羽純はイマイチ納得できない。むしろ、いじめ主犯格の美嘉や祐香里を末代まで呪っていそうだが。
少し暗い雰囲気で、黒木碧子の重たい前髪を思い出すと、異世界でハッピーに暮らしている想像はできなかった。そもそも異世界ラノベやアニメは娯楽であり、現実と関係ない。
最近は、アニメや漫画のセリフを引用して語る人も多いように感じる。メタバースなども仮想空間も推し進められ、今の世の中は、夢と現実の境界戦が曖昧だと思ったりもする。
そんな疑問で胸が一杯になった時、担任に呼び出された。
「は? 黒木さんのお母さんは入院したんですか。それで、見舞いに行けと…」
担任は、そんな命令を羽純にしてきた。
「いや、それに最近夢に黒木が出てきてな……」
「夢?」
「ああ、黒木が絶対許さないって脅してくるんだよ!」
もう50過ぎの担任だったが、カルトの護符を握り締め、カタカタと震えていた。
「やっぱり、ちゃんと供養しないと怖いよ。やっぱり、人の死は……」
担任は、震えながらGODIVAのチョコレートの箱を差し出す。これを碧子の母親に見舞いとして持って行けという事らしい。
なんでこんな事しないといけないのかとも思ったが、委員長なので仕方ない。
羽純は放課後、町にある総合病院に向かっていた。
「帰れ!」
母親には罵倒され、GODIVAのチョコレートの箱を投げつけられた。
「お前もいじめの共犯だ! 見て見ぬフリして、碧子を見捨てた。お前が碧子を殺したんだ!」
そう言われると、羽純は何の反論もできなかった。罪悪感でぐっと心が重くなってくる。
その日から、羽純は夢を見るようになった。碧子の夢だった。
彼女がいじめられている日常の教室の風景がリアルに再現されていた。夢だったが、かなりリアルな光景で、羽純は足がすくむ思いがした。
『何で見て見ぬフリをしたの!? 許せない! 絶対許せない!!!』
碧子の声が耳に残り、目覚めても身体はどっと重くなってきた。
「ごめん、なさい」
自分の部屋で泣きながら謝ったが、全く意味がなかった。
夢だけだったら良かったが、それから羽純は不運に見舞われるようになった。家が家事になったり、両親の病気が発覚したり。極め付けは、弟が学校で虐められるようになった。
『許さない! 見て見ぬフリして助けてくれなかった! 本当は昆虫食なんて食べたくなかった!』
学校や部屋に一人でいると、幽霊の碧子を見るようにもなり、気が狂いそうだった。
許してほしい。
羽純の願いはそれだけだった。
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