第34話 世界平和の願い(1)

文字数 1,324文字

 栗木佳代は、子供の頃から世界が腐っていると感じていた。

「ねえ、ママ。何でいじめがあるの? 何で戦争があるの? 何で政治家は、国会で寝てるの? 何で障害者の人がテレビで見せ物になっているの?」

 なぜ世の中には悪があるのか。その理由はわからなかった。そう思う自分も、嘘をついたり、嫉妬したり、母にワガママを言ったりしていた。なぜ、こんな悪い気持ちがあるのだろうか。その理由はいくら考えてもわからない。

 母と一緒にチャリティー番組を見ていたが、見せ物にして楽しんでいるようにしか見えない。愛は地球を救うって本当?

「そうね。障害者の人に優しくしたいって気持ちが、上手く伝わらないで、こうやってテレビで取り上げられているのかも?」
「そうかな。ほら、あの芸能人みてよ。クスクス嫌な笑い方してる」

 母は佳代の質問攻めにウンザリし、チャリティー番組をかえた。別のチャンネルでは、戦争のニュースが流れている。

「だったら戦争は何であるの? 何が楽しくて、こんな事やってるの? 世界平和は願っていないの?」
「そうね。戦争はどちらの国も正しいと思ってるでしょうね」
「そうなの? でもいっぱい人が死んでるよ。この人達には、人を殺しちゃいけないっていう正しさとかは無いの?」
「さあね。でも善悪なんて人それぞれだから。ずっと平行線で解決しないんでしょうね」

 母はしみじみと語っていたが、佳代は全く納得いかない。善悪が人それぞれであれば、やりたい放題ではないか。法律だって意味がなくなるかもしれない。そんな事を言っていたら、世の中はカオスになり、何も解決しないと思う。

「もう、佳代はさ。世界平和とか戦争とか、難しい事を考えるのやめよう。佳代が一人で考えても仕方ないでしょ?」

 母は呆れて、テレビのチャンネルを変えた。不倫ドラマがテレビから流れていた。不倫している女性がヒロインだったが、被害者ぶって泣いていた。美人女優が演じていたので、まだ画面は綺麗だが、これがパッとしない容姿の女でやっていたら、怖いというか不気味だった。まさにメンヘラ女にしか見えない。

 佳代はこんな風に不倫がある事も、全く理解は出来なかった。やはり、人間の心はもともと悪いものと考えた方が、全部辻褄が合ってしまう。だから、悪いことがいっぱいあり、世界も平和にならないのだ。

 そんな佳代は、学校でもいじめられっ子を助けたりして、すっかりと浮いていた。

 担任の教師には、「発達障害の疑惑があります」と言われた事もあった。佳代はあまりにも空気が読めなかったせいだ。何でも文字通り受け取り、日本の本音と建前文化に馴染めないところがある。人の気持ちを察するのが、苦手だった。逆に言えば嘘は全くつかず、はっきりと言葉にするので、裏表はなくわかりやすいが。

 そんな佳代の願いは、世界が平和である事だった。流れ星を見ると、「世界が平和になりますように」と願っていたが、それが叶う事はなかった。それどころか、世の中はもっと悪くなって行くように感じていた。

 善悪の基準は本当に人それぞれだろうか。誰か公平な、神様みたいな人が善悪を決めて貰えれば、世界はカオスから平和に変わると思っていたが、神様が本当にいるのか分からなかった。
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登場人物紹介

悪魔

あやかし神社の主。人間の記憶を食い幽霊のフリ、天使、動物やイケメンのフリをして人間を騙している。ヤクザのように願いの代償を請求する。聖書の神様に敵対。

悪霊

悪魔の手先。人間の心に棲みつく実行部隊。あやかし神社では眷属のフリをしている。

聖書

悪魔と人間が結んだ契約を破棄する鍵…?

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