第47話 平安への願い(2)
文字数 1,903文字
「あなた、行ってきます。今日は品川で客とセッションがあるから」
星羅は、玄関先で夫と挨拶をかわし、仕事に向かった。星羅はきっちりとメイクやヘアセットをし、パンツスーツが似合ういかにもキャリアウーマンのようなルックスだった。
「行ってらっしゃい、星羅」
「うん。今日は早くかえってくるね」
星羅は、現在は年上の夫と二人暮らしだった。星羅はアラフォーになるが子供はいない。金をかけ妊活をやっているが、なかなか難しい状況だった。夫は在宅でライターやデザインの仕事をし、今は星羅の方が稼いでいたりするが、金があるのに越した事はない。
今の星羅の仕事は、婚活や恋愛のカウンセラーをしていた。アパレル会社にいた時、婚活女性の為にコーディネートやメイクの相談に乗っていたら、それがいつの間にか仕事になってしまった。依頼者は耐えず、今日も品川でクライアントとあい、ファッションや立ち振る舞いの指導をしていた。
「星羅先生、旦那さんと仲良しで羨ましいです」
狭い貸し会議室で、クライアントに笑顔や言葉遣いの指導をしたあと、話の流れで、夫の話になった。
「そう? 別に普通だよ」
そうは言っても、クライアントに言われると少し誇り高くなってくる。
仕事柄、SNSでは夫との私生活も発信していた。そこだけ見ればラブラブなおしどり夫婦だが、現実はそうでもない。冷え切ったもいないが、夫といるのは普通の日常になり、別に心はときめかない。SNSでは仕事に繋がるので、過剰に盛っていたが、現実はもっとあっさりしていた。
おかげで、夫とはやすやすと離婚できない状況にもなっていた。そこそこ経歴がある婚活恋愛カウンセラーが離婚するというのは、仕事に響くだろう。そこからブランディングをしてシングルマザー向けの婚活恋愛カウンセラーになるものもいたが、正直、「よくやるな」と思ってしまう。
「 じゃあ、私は次の仕事があるから」
「星羅先生、ありがとうございます」
クライアントに褒められても、誇り高くなってきたのは、一瞬だった。なぜか、なんとも言えない不安も感じ、次の仕事に向かった。
次は渋谷で、化粧品会社の社長に会う予定だった。名前は立原紗央里という。年齢は星羅と同じ年だった。
化粧品会社といっても自然派の無添加コスメで、アラサーからアラフォー女性の敏感肌専門のニッチな化粧品を売っていた。それでも、ファンが相次ぎ、その界隈では有名な社長だった。星羅ともコラボイベントをする事になり、その打ち合わせで、彼女のオフィスに向かった。
紗央里の会社のビルにある会議室は、妙な雰囲気だった。中央には神棚が飾られ、お札がベタベタと貼ってある。会議室はさほど広くはないが、隅には盛り塩が盛られ、スピリチュアルっぽい妙な空気もする。紗央里自身も、一見仕事ができそうなキャリアウーマンだが、腕にはジャラジャラシとパワーストーンがつけられていた。
「いつも思うんだけど、紗央里さん。何で盛り塩や神棚やってるの? 効果あるわけ?」
打ち合わせが終わると、星羅はやんわりと聞いてみた。正直、こういったものは興味がない。クライアントも、スピリチュアルをしているものは全くモテなくなっていた。特に引き寄せの法則とホットヨガにハマっている女性は、男運も悪いようで、自己中心的な発言も目立つ。
「それがあるのよ」
「嘘ー?」
紗央里によると、神棚を飾ってから大きな仕事が決まったり、御利益があるらしい。
「意外と経営者や起業家は、なんらかの宗教をやっているのよ」
「ま、何故かそんな傾向はあるよね」
星羅も仕事柄、ハイスペ男子や経営者と会う事があったが、なぜか宗教をやっている人が多かった。世間で評判の悪いカルトに入っているものもいたが、金回りも良さそうで成功している。確かに何かご利益はありそう。ある経営者は「反聖書的な事をすれば成功する」とまで言っていて、企業のロゴに666や悪魔のサインなどをわざと入れていた。
「星羅もどっかの宗教に入った方がいいよ。それだけ、ご利益があるから」
「と言っても、宗教は」
子供の頃での神社の思い出もあり、信用できない部分もある。いくら成功すると言っても、クライアントのスピリチュアル好きの顔も浮かび、効果があるとは思えないのだが。
「こういう宗教信者は、搾取する側と奴隷側にわかれるのよ。搾取する側に入ればいいのよ」
「紗央里は搾取する側なの?」
「ええ。成功したいもの」
そう語る紗央里の表情は、どことなく邪悪で、星羅は違和感を持ってしまう。
ふと、神棚に目をやる。本当にこんな棚に効果があるのか、星羅にはわからない。それどころか、見ていると不安になってきた。
星羅は、玄関先で夫と挨拶をかわし、仕事に向かった。星羅はきっちりとメイクやヘアセットをし、パンツスーツが似合ういかにもキャリアウーマンのようなルックスだった。
「行ってらっしゃい、星羅」
「うん。今日は早くかえってくるね」
星羅は、現在は年上の夫と二人暮らしだった。星羅はアラフォーになるが子供はいない。金をかけ妊活をやっているが、なかなか難しい状況だった。夫は在宅でライターやデザインの仕事をし、今は星羅の方が稼いでいたりするが、金があるのに越した事はない。
今の星羅の仕事は、婚活や恋愛のカウンセラーをしていた。アパレル会社にいた時、婚活女性の為にコーディネートやメイクの相談に乗っていたら、それがいつの間にか仕事になってしまった。依頼者は耐えず、今日も品川でクライアントとあい、ファッションや立ち振る舞いの指導をしていた。
「星羅先生、旦那さんと仲良しで羨ましいです」
狭い貸し会議室で、クライアントに笑顔や言葉遣いの指導をしたあと、話の流れで、夫の話になった。
「そう? 別に普通だよ」
そうは言っても、クライアントに言われると少し誇り高くなってくる。
仕事柄、SNSでは夫との私生活も発信していた。そこだけ見ればラブラブなおしどり夫婦だが、現実はそうでもない。冷え切ったもいないが、夫といるのは普通の日常になり、別に心はときめかない。SNSでは仕事に繋がるので、過剰に盛っていたが、現実はもっとあっさりしていた。
おかげで、夫とはやすやすと離婚できない状況にもなっていた。そこそこ経歴がある婚活恋愛カウンセラーが離婚するというのは、仕事に響くだろう。そこからブランディングをしてシングルマザー向けの婚活恋愛カウンセラーになるものもいたが、正直、「よくやるな」と思ってしまう。
「 じゃあ、私は次の仕事があるから」
「星羅先生、ありがとうございます」
クライアントに褒められても、誇り高くなってきたのは、一瞬だった。なぜか、なんとも言えない不安も感じ、次の仕事に向かった。
次は渋谷で、化粧品会社の社長に会う予定だった。名前は立原紗央里という。年齢は星羅と同じ年だった。
化粧品会社といっても自然派の無添加コスメで、アラサーからアラフォー女性の敏感肌専門のニッチな化粧品を売っていた。それでも、ファンが相次ぎ、その界隈では有名な社長だった。星羅ともコラボイベントをする事になり、その打ち合わせで、彼女のオフィスに向かった。
紗央里の会社のビルにある会議室は、妙な雰囲気だった。中央には神棚が飾られ、お札がベタベタと貼ってある。会議室はさほど広くはないが、隅には盛り塩が盛られ、スピリチュアルっぽい妙な空気もする。紗央里自身も、一見仕事ができそうなキャリアウーマンだが、腕にはジャラジャラシとパワーストーンがつけられていた。
「いつも思うんだけど、紗央里さん。何で盛り塩や神棚やってるの? 効果あるわけ?」
打ち合わせが終わると、星羅はやんわりと聞いてみた。正直、こういったものは興味がない。クライアントも、スピリチュアルをしているものは全くモテなくなっていた。特に引き寄せの法則とホットヨガにハマっている女性は、男運も悪いようで、自己中心的な発言も目立つ。
「それがあるのよ」
「嘘ー?」
紗央里によると、神棚を飾ってから大きな仕事が決まったり、御利益があるらしい。
「意外と経営者や起業家は、なんらかの宗教をやっているのよ」
「ま、何故かそんな傾向はあるよね」
星羅も仕事柄、ハイスペ男子や経営者と会う事があったが、なぜか宗教をやっている人が多かった。世間で評判の悪いカルトに入っているものもいたが、金回りも良さそうで成功している。確かに何かご利益はありそう。ある経営者は「反聖書的な事をすれば成功する」とまで言っていて、企業のロゴに666や悪魔のサインなどをわざと入れていた。
「星羅もどっかの宗教に入った方がいいよ。それだけ、ご利益があるから」
「と言っても、宗教は」
子供の頃での神社の思い出もあり、信用できない部分もある。いくら成功すると言っても、クライアントのスピリチュアル好きの顔も浮かび、効果があるとは思えないのだが。
「こういう宗教信者は、搾取する側と奴隷側にわかれるのよ。搾取する側に入ればいいのよ」
「紗央里は搾取する側なの?」
「ええ。成功したいもの」
そう語る紗央里の表情は、どことなく邪悪で、星羅は違和感を持ってしまう。
ふと、神棚に目をやる。本当にこんな棚に効果があるのか、星羅にはわからない。それどころか、見ていると不安になってきた。
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