第46話 平安への願い(1)

文字数 1,305文字

 田中星羅は、常に不安を感じる性格だった。

 元々家が貧乏で、親は常にお金の心配をしていた。外食に行った記憶もなく、食卓はもやしや卵、豆苗が主役。クリスマスは母がケーキを手作りし、服は姉のお下がりだった。習い事にも行った記憶はなく、本当にお金が無い時は、ペンケースがお菓子の空き箱だった記憶もある。

 そんな星羅が一番不安に感じている事は、人の死だった。

「お母さん、人は死んだらどうなるの?」

 10歳ぐらいの時、親戚の叔母が亡くなり、聞いてみた事があった。叔母だけでなく、近所のお年寄りや野良猫の死を思うたび、不安になっていた。夢にまで出てくるような不安で、どうしようもない感じだった。

「お星様になるのよ。星羅の名前だって、死んだお爺ちゃんをイメージしてつけたの」
「へぇ」

 いつも家計簿を見ながら冷や汗を垂らしている母が、突然お花畑な事を言い出して戸惑うばかりだった。

「大丈夫よ。どうせ、みんな死ぬんだから」
「それって赤信号、みんなで渡れば怖くないって事?」
「屁理屈いうんじゃないよ。そうだ、一緒に近所の神社にお参りに行きましょう。おばさんさんは交通安全で死んだからさ。交通安全のお守りを買えば安心よ」

 こうして母と一緒に、近所の神社に向かった。鬱蒼とした木々に囲まれ、星羅は反射的に怖くなってきた。七五三や初詣で行ったはずだが、本殿も古い木像建築だし、社務所にいる神主も鬼のような顔で怖かった。

「交通安全のお守りください」

 母は二つそれを書い、星羅のカバンに括りつけた。

「神社さん、神様は車やバイク、自転車とか理解できるの? こんな古い神社にいる神様は、最近の情報にも詳しいんだね」

 ふと思いついた疑問を口にすると、神主には睨まれ、母に口を塞がれた。

 その後、母は長々と神社で金について願っておたそうだが、あいからず貧乏だった。星羅は、交通安全のお守りをしていたのに、自転車に接触し、軽く怪我をした。母は「この程度で済んでよかった。お守りに効果があった」と言っていたが、星羅は結果論のように思ってしまった。

 一方、近所の神社では事件があった。神主が、妻を暴行して殺してしまったらしい。息子も似たような事件をおこし、警察やマスコミがしばらく騒いでいた。

 こんな事もあり、星羅は全く神社が好きになれなかった。むしろ、不幸を呼んでいるのではないか。

 受験の時も神社など行かなくても、星羅は国立大学に進学できた。

 神社に神はいない。効果もない。信じられるのは自分だけという無神論者になっていく。家は貧乏だったが、大卒後、アパレルメーカーに就職すると、そこそこ稼げるようにもなり、ますます神なんていないと思う無神論者になっていった。

 疑問は一つ残る。

 死んだら自分はどうなるのだろうか。

 無神論者だったが、その件については、わからない。死んで「無」になる割には、各種宗教が存在し、しっかりと供養する。なんとなく死んだ人の幽霊は存在していそうな気はする。無神論者の自分も死んだ人の悪口は何となく言えない。

 学歴もある星羅だったが、その件については答えはなく、考えれば考えるほどわからない。親も大学も先生も教えてくれなかった。
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登場人物紹介

悪魔

あやかし神社の主。人間の記憶を食い幽霊のフリ、天使、動物やイケメンのフリをして人間を騙している。ヤクザのように願いの代償を請求する。聖書の神様に敵対。

悪霊

悪魔の手先。人間の心に棲みつく実行部隊。あやかし神社では眷属のフリをしている。

聖書

悪魔と人間が結んだ契約を破棄する鍵…?

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