第59話 メサイアの願い(2)

文字数 1,084文字

 職場を失った瑠夏は、転職活動を行なっていた。精神保健福祉士の資格を持つ瑠夏だったが、あっさりと次の職場は決まらず、少々イライラとしていた。

 面接の帰り、駅ビルの中にあるトイレでメイクを直す。鏡の中には、冴えないアラサー女性がいる。顔が良ければ、面接なんてすぐ終わるのに。全く理不尽である。トンデモ陰謀論者は、顔認証が当たり前の監視社会になり、社会的信用度が低いものを予測逮捕出来るとも言っていた。それが本当なら、顔の悪いものも信用度が低くなりそうな気がする。

 隣の洗面台では、おそらく女子大生ぐらいの若い女がメイクを直していた。思わず自分の肌と比べてしまい、瑠夏はどんどん憂鬱になっていく。

 何か社会的に成功できればいいのに。そうすれば、自分の自尊心も回復できそうなのに。

 なぜか、そんな思考が頭の中に浮かぶ。しかし、現状、そんな成功とは遠く、余計に虚しくなってきた。

 トイレから出ると、駅ビルの中にある書店に向かった。漫画やライトノベルコーナーに行くが、転職活動中に華やかな娯楽を見る気分にもなれない。

 女性向けエッセイコーナーへ行き、うつ病の人、発達障害の人や繊細な人が書いた本などもペラペラとめくってみるが、現実と比べると美化されている所も混じっていて、興醒めしてきた。「そもそも繊細な人が本を書けるのってあり得ないよな。本とはいえ、こんな目立つ事出が来るのか?」などと可愛くない事も考え、鬱々としてしまう。

 ふと、女性向けのスピリチュアル本コーナーが気になってきた。可愛らしいピンクの表紙で、見ていると気になってくる。引き寄せの法則やパワースポット、神社参拝など、見た目だけはポップで可愛い本だった。普通の女性だったら、こういった本を楽しめるのだろうが、瑠夏は違った。むしろ、こう言った本を書いて、人々を上手い感じに騙せたり出来ないだろうかと考える。

 本の文体からすると、偏差値45〜50ぐらいの女性が喜びそうな感じがする。それぐらいだったら、自分でも上手く「教祖」になれないかと妄想が膨らんだ時、神社参拝の本が気になってきた。このコーナーの中では、一番賢そうな雰囲気で、ペラペラとめくる。神社の神を味方にする方法などが、細々と書かれていた。そんな文字を追っていると、神社に行っても良いような気がしてきた。瑠夏は、本を元の場所に戻すと、さっそく家の近所にある神社に行ってみる事にした。

 願いは転職活動の成功ではない。

 こういったスピリチュアルの「教祖」になる為には、どうしたら良いか知りたかった。そうすれば、自分のコンプレックスが解消されそうな気がしていた。
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登場人物紹介

悪魔

あやかし神社の主。人間の記憶を食い幽霊のフリ、天使、動物やイケメンのフリをして人間を騙している。ヤクザのように願いの代償を請求する。聖書の神様に敵対。

悪霊

悪魔の手先。人間の心に棲みつく実行部隊。あやかし神社では眷属のフリをしている。

聖書

悪魔と人間が結んだ契約を破棄する鍵…?

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