第58話 メサイアの願い(1)
文字数 878文字
高橋瑠夏は、夜、ベッドに潜り込んだが、全く寝付けなかった。
寝る前に睡眠薬を飲んだはずだが、目が冴えていく。10年以上、睡眠薬を飲んでいるが、あまり寝付けない。それどころか、副作用だけがしんどい。
それでも薬のおかげか仕事はできていた。瑠夏の仕事は、精神保健福祉士だった。NPO法人の施設で精神の障害がある人達の就職や生活支援をやっていた。自分が当事者である事は施設長にも同僚にも言っていない。もちろん利用者にも言っていない。
自分も似たような当事者なのに、こんな事をしているのは、色々と理由がある。正直、金は稼げない割に、大力仕事だが、自分より病状が重い利用者を見ると、だいぶホッとする。見下せる。そういった人に優しくする事で、瑠夏の自尊心は、どうにか保っている所があった。学歴も容姿も収入もパッとしない。学生時代はいじめにあっていた。その上、歳もアラサー、未婚、実家暮らしの子供部屋おばさん。誰かを、例えば自分より低い者を救うと、コンプレックスは解消されるような感覚もあった。
はっきり言って瑠夏の心は歪んでいる。主治医からは、メサイアコンプレックがあるかもしれないと言われたことがあったが、実際は瑠夏の仕事ぶりに利用者は感謝しているし、誰も文句を言われる事もなかった。
「しかし、眠れない」
瑠夏はスマートフォンで、陰謀論のサイトを適当に見てみた。別に陰謀論など好きではないが、トンデモな話で盛り上がる人を見ていると、小馬鹿にしたくなる。科学的エビデンスなどを持ち出し、陰謀論者を揶揄うコメントを送ると、スッと気分は良くなった。論破しまくって、まさに自分は神?
こうしてようやく眠れるようになったが、翌日、職場が大変な事になっていた。施設長が利用者に暴行事件をおこし、警察が来ていた。
施設長は常々利用者の悪口を言っていたので、驚かなかったが、この事で職場も無くなり、瑠夏の仕事もなくなった。
「困ったねぇ」
仕事を失う事より、自分より低いものに優しくできる環境に無いのが悲しかった。陰謀論者を揶揄ってみたが、虚しい。心が飢え乾いているのを感じていた。
寝る前に睡眠薬を飲んだはずだが、目が冴えていく。10年以上、睡眠薬を飲んでいるが、あまり寝付けない。それどころか、副作用だけがしんどい。
それでも薬のおかげか仕事はできていた。瑠夏の仕事は、精神保健福祉士だった。NPO法人の施設で精神の障害がある人達の就職や生活支援をやっていた。自分が当事者である事は施設長にも同僚にも言っていない。もちろん利用者にも言っていない。
自分も似たような当事者なのに、こんな事をしているのは、色々と理由がある。正直、金は稼げない割に、大力仕事だが、自分より病状が重い利用者を見ると、だいぶホッとする。見下せる。そういった人に優しくする事で、瑠夏の自尊心は、どうにか保っている所があった。学歴も容姿も収入もパッとしない。学生時代はいじめにあっていた。その上、歳もアラサー、未婚、実家暮らしの子供部屋おばさん。誰かを、例えば自分より低い者を救うと、コンプレックスは解消されるような感覚もあった。
はっきり言って瑠夏の心は歪んでいる。主治医からは、メサイアコンプレックがあるかもしれないと言われたことがあったが、実際は瑠夏の仕事ぶりに利用者は感謝しているし、誰も文句を言われる事もなかった。
「しかし、眠れない」
瑠夏はスマートフォンで、陰謀論のサイトを適当に見てみた。別に陰謀論など好きではないが、トンデモな話で盛り上がる人を見ていると、小馬鹿にしたくなる。科学的エビデンスなどを持ち出し、陰謀論者を揶揄うコメントを送ると、スッと気分は良くなった。論破しまくって、まさに自分は神?
こうしてようやく眠れるようになったが、翌日、職場が大変な事になっていた。施設長が利用者に暴行事件をおこし、警察が来ていた。
施設長は常々利用者の悪口を言っていたので、驚かなかったが、この事で職場も無くなり、瑠夏の仕事もなくなった。
「困ったねぇ」
仕事を失う事より、自分より低いものに優しくできる環境に無いのが悲しかった。陰謀論者を揶揄ってみたが、虚しい。心が飢え乾いているのを感じていた。
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