第57話 使命の願い(4)完

文字数 1,748文字

 聖花は視力を失っていた。原因不明だった。母も病気で亡くなり、再び不幸に襲われるようになっていた。金も何故か借金だけが膨らんでいき、ヒーラーの仕事もできない。

 そんな折、桐谷章一という男性から手紙が届いているようだった。手紙は読めないので、ヘルパーに代わりに読んでもらった。

 桐谷は牧師だった。あの幼い頃の命の恩人で、聖花の事も気にかけているとの事だった。すっかり忘れていたが、今まで送られてきた手紙は母に捨てられていたようだった。なぜか連絡をとっても良いと思い、電話をかけてみた。

「え、ヒーリング仕事をしてたのか……。死んだ父親のような声も聞こえると……。チャネリングか……」

 今までの事を話すと、桐谷は号泣していた。心を痛めているようで、聖花も泣き声を聞いているだけで、胸が締め付けられていた。何故かわからないが、不幸は自分が招いたもので、誰か大事な人を傷つけている気がした。

「聖花ちゃん、その声に『イエス・キリストに従う霊ですか?』って聞いてみたらいいよ。きっと逆ギレしてくると思うから」
「牧師さん、どういう事ですか?」

 牧師は泣きながらも、悪霊や悪魔の事を教えてくれた。信じられない話ばかりだったが、嘘とも言い切れない。

「あなたは、イエス・キリストに従う霊ですか?」

 電話を切った後、その声に尋ねてみた。

『はあぁ? その名前出すなよ! 死んだ人間のフリしてオレオレ詐欺やってただけだから。幽霊なんて嘘ぴょーん♪ きっちり代償を請求するからな? あ、しまった。素がでちまった。あなたは、イエス・キリストです。救世主です。いや、コイツは自称救世主の高橋じゃなかったわ。ヒーラーの聖花だったわ。間違えたわー。寝てたら間違えたわー』

 そんな声が聞こえていた。

 聖花は再び牧師に電話をかけ、もっと詳しく「霊」の事の事情を聞く事にした。

「ふざけんなよ!」

 空中で、牧師から福音を聞く聖花を見ながら、悪魔はブチギレていた。聖花の神の計画を潰す為に、さまざまな工作を悪霊と行い、ついにヒーラーにもさせたが、結局、真理に気づいてしまったらしい。ちなみにこういったスピリチュアル系ヒーリング行為は悪霊の力を使う。痛みや病をヒーラー側に移動させているので、長期的に見ると自爆行為とも言える。

 福音を聞いた聖花の目は、何も見えていないのに、本当の光を取り戻しているようだった。

 悪魔が内密に結んでいた聖花との契約書も、神の霊・聖霊の炎で燃え、あっという間に消えてしまった。

「くそ! 結局、当初の神の計画通りになってるじゃねーか!」

 その後、聖花の視力はさほど回復はしなかったが、教会で伝道師やエクソシストの仕事をはじめてしまった。目も見えないから余計に「霊」を感じ取れるようになったらしい。ヒーラーとして働いていたので、「霊」の法則もよくわかるようだった。こうして本来の使命を取り戻した聖花は、まるで水を得た魚のようだった。

「ふざけんなよ! 聖花は長年ストーキングして来たのに、このザマかよ!」

 悪魔は悔しそうに叫び、あやかし神社に逃げ帰る。悪魔がターゲットにしている人間も、聖花が悪霊追い出しをし、上手く手出しが出来ない事も多くなった。悪魔と契約し手先として動いていた加藤真帆も、聖花の元で追い出しされ、契約破棄となった。他にも悪魔の奴隷となっていた赤星紗枝や栗木佳代の契約も続々と破棄されていく。

「まあ、子持ちのお母さん、お宮参りや七五三は慎重にね? 俺らにストーキングされたくなければね。お宮参りはカルトの親がやってる事と同じだからね? お宮参り行ってる癖にカルト二世が可哀想って言うのは、矛盾してるからな? 神社行ってる癖にカルトの勧誘に論破してドヤ顔すんなよ。そもそもお前らが熱心に通ってる神社ってどういう場所だっけ? カルトと同じ『霊』と人間が契約する場所だぜ。子供を生贄に捧げるとよく成功するんのよ。これが霊的法則。俺らからしたらカルトでもお宮参りでも悪魔崇拝生贄儀式でも、やってる事は同じ契約よ」

 今日もあやかし神社に安産祈願の為に女が来ていた。まるで美術館や動物園に来たかのような表情で神社参拝を楽しんでいる。

 どうやら偶像を拝むと、神社が宗教施設である事も理解出来ないぐらい愚かになるらしい。
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登場人物紹介

悪魔

あやかし神社の主。人間の記憶を食い幽霊のフリ、天使、動物やイケメンのフリをして人間を騙している。ヤクザのように願いの代償を請求する。聖書の神様に敵対。

悪霊

悪魔の手先。人間の心に棲みつく実行部隊。あやかし神社では眷属のフリをしている。

聖書

悪魔と人間が結んだ契約を破棄する鍵…?

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