第45話 理想の彼氏の願い(4)完

文字数 1,259文字

 数ヶ月後、彩はバイトの店長に褒められていた。最近、接客の態度もよくなり、客からお礼の手紙が来たらしい。

 だんだんと店長や先輩との関係も悪くなくなっていた。実は店長はクリスチャンで、彩の事も陰ながら祈っていた事なども知る。昔、引き寄せの法則の本などに興味があったと言ったら、鼻で笑われてしまった。

「人間の願う物なんてちっぽけだよ。神様が用意してくれている祝福の方が、良かったりするよ」

 店長の言っている事は難しくて良くわからなかったが、彼が進める古典やクラシック、聖書も読んでみてもいい気がしていた。確かに少女漫画やライトノベルだけ読んでいただけでは、理想の彼氏とは出会えない気がしてきた。まして引き寄せとかスピリチュアルにハマってる女なんて「地雷女です」と自己紹介しているみたいだ。コツコツとした努力が嫌いそう、ギャンブルとかも好きそう、自分軸とか言って自己中心そうな女に見られていたとも思う。聖書を読むと、引き寄せ系の本は聖書をパクって神様を抜いて薄めている事にも気づき、興醒めもしてしまった。

 そんな彩の姿を空中から見ていた金髪碧眼のイケメンは、小さなキツネの姿に変えていた。

 このキツネは、あやかし神社にいる悪魔の手下・悪霊だった。いわゆる神社の眷属と言われているものだが、これは悪霊だ。

 悪魔は人を騙し神の事を隠すのが仕事だが、その本質は怠惰で、神社の中で寝ている事も多い。鈴も寝ている悪魔を起こす役割がある。そんな悪魔は手下の悪霊を使役し、仕事をさせ、怠けている事も多かった。今回は、寝ていたいので悪霊に任せたわけだが、思うように上手くいかなかった。

「おい、あんた、失敗したのかよ!」

 悪魔は仕事を失敗した悪霊に八つ当たりをし、怒鳴っていた。まさにパワハラ上司そのもので、キツネの姿の悪霊はプルプルと震えていた。悪霊の姿は多種多様にあり、姿形は女神や猫などの場合もある。人間の欲、心の傷、復讐心、許せない心、不安、怠惰、罪への扉などがあれば、そこに棲みつく。実行部隊が悪霊で、悪魔より働き者だったりする。占いの背後にも悪霊がいる。占い師が言った事をその通りになるよう悪霊が動いていた。

「あんな怠惰そうな彩は、簡単に騙せそうと思ったんだがな。俺らと周波数が合いそうなのに」
「さすがにイケメンの姿だけ見せるのは、どうかと思いますよ。手抜きすぎるというか。しかもあの彩の近くには、クリスチャンもいたようで、陰で祝福を祈られちゃってたようです。上手く心に棲みつけませんでした」

 悪霊は残念そうに報告した。

「クソ、またクリスチャンかよ! 心底ウザいな! あー、そいつも祈りと福音でバリアが出来ていて全く思考も読めんし、神に命令された天使にウロチョロされると手出しができねぇんだよ!」

 怠けていた悪魔だったが、その言葉を聞いて目が覚めてきた。

「おい、行くぞ。次のターゲットを探しにいこう!」

 悪魔は悪霊を引き連れて、ターゲットを探し始めた。

「次こそは、負けない。次こそは……」

 呪いの言葉のように、繰り返し呟いていた。
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登場人物紹介

悪魔

あやかし神社の主。人間の記憶を食い幽霊のフリ、天使、動物やイケメンのフリをして人間を騙している。ヤクザのように願いの代償を請求する。聖書の神様に敵対。

悪霊

悪魔の手先。人間の心に棲みつく実行部隊。あやかし神社では眷属のフリをしている。

聖書

悪魔と人間が結んだ契約を破棄する鍵…?

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