第31話 成功の願い(2)

文字数 1,526文字

「人間の努力だけでは、成功できません。『霊』というものの世界を知らないと、無理なんですよ」

 ここは都内某所のある貸し会議室だった。学校の教室ぐらいの大きさの部屋に、客がたくさんいた。どの客も前を向き、スピリチュアルリーダーの花梨先生のセミナーを聞いていた。璃子もその一人で、真剣に聞いている。

 占い師としてプチ成功していた璃子だが、最近なぜか不運だった。突然の体調不良があったり、寝ている時に金縛りにあったりしていた。何か見えなものに攻撃を受けているような感じもしたが、今は花梨先生のセミナーに集中していた。花梨先生は、書籍も多く発売している人気スピリチュアルカウンセラーで、セミナーのチケットをとるのも大変だった。今日は、しっかり学んで元をとりたい。しかし、彼女も言っている事は、書籍で語られている事の焼き直しで、だんだんと退屈してきた。セミナーが終わったら、ちょっとホッとしているぐらいだった。

「ふふ、退屈そうだね」

 隣の席に座っている女性に声をかけられた。30歳ぐらいの地味な感じの女性だったが、同業者だという。ネットで客の霊を見ながら鑑定しているらしい。名前は加藤真帆という。

「あなた、変な霊を送られているけど大丈夫?」

 真帆とは、セミナーの後一緒にお茶をする事になった。同業者で同じ女性という事もあり、すっかり油断していた。

「私、霊が見えるのよ。璃子先生、最近ランキングの上位にいるでしょ? 気に食わない人もいるみたい。呪われてるかも」

 そう言われると、心当たりがある。そもそもインチキ占いをしている今の状況は、褒められたものではない。オシャレなカフェでお茶していたわけだが、璃子の表情はだんだんと暗くなっていった。

「真帆さん、私はどうすればいいんですか?」
「そうね。今、私の守護霊様に聞いてみます」

 真帆は視線を一瞬上を見た。天井には何もないが、こうして見ると何かパワーがありそうな気がした。

「璃子先生、今すぐ神社に行った方がいいわ」
「神社?」

 予想してもいない言葉だった。インチキとはいえ占い師をやっているので、神社にはまったく興味がないとは言えないが。璃子の家の近所にある神社は、大きな男性器のオブジェが置いてあり、何となく印象が悪い。確かに繁栄のシンボルだとは理解できるが、下ネタ神社に見えてしまった。

「ええ。あやかし神社って知ってる?」

 璃子は首を振る。あやかしというとファンタジー小説でよく見たことがある。狐、鬼、天狗など主人公に寄り添っている優しい存在だったりする。そういえばファンタジー小説では、神社が出てくるものも多い。「神様の御手伝い」というファンタジー小説では、読んでいると神社について印象が良くなるようなストーリーだった。神社の神様と大学が人間の願いを叶える話だ。神様は実は心に傷を負った堕天使で、涙なしには読めない物語だったりもする。それを思い出しと、下ネタ神社は特殊なケースだけで、本当の神社はそうでも無い気もしてきた。

「何でも願いを叶えてくれるらしいよ。行ってみない?」

 真帆から聞いた神社の住所は、山奥にあった。写真も見せてもらうが、側に湖もあり、「神様の御手伝い」に出てくる神社にも似ていた。確かにパワースポットらしい神々しさは見え隠れしていた。

「本当? でもちょっと遠くない?」
「だから良いんじゃないですか。俗世間から切り話された神社ってよくないですか?」

 真帆に色々と言いくるめられ、璃子は次の休みの日にあやかし神社に行く事にした。片道2時間もかかり、人里離れた場所にあったが、だからこそ良い気もした。効果のあるパワースポットなのかもしれない。

 璃子はワクワクしながら、あやかし神社の鳥居を見上げていた。
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登場人物紹介

悪魔

あやかし神社の主。人間の記憶を食い幽霊のフリ、天使、動物やイケメンのフリをして人間を騙している。ヤクザのように願いの代償を請求する。聖書の神様に敵対。

悪霊

悪魔の手先。人間の心に棲みつく実行部隊。あやかし神社では眷属のフリをしている。

聖書

悪魔と人間が結んだ契約を破棄する鍵…?

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