第53話 厄祓いの願い(4)完

文字数 1,729文字

 仕事もプライベートも順調だった琴子だが、新しくできた彼氏がヒモ化していた。

 困った琴子は、あやかし神社に行き、眷属に厄祓いをして貰った。

 彼氏のヒモ化は終わったが、今度は胃の病気が見つかったので、再びあやかし神社に行く。不幸→神社で厄祓い→不幸→神社で厄祓い……。このループが止まらない。

「本当にあなた神の使いの眷属?」

 最初はイケメンで可愛らしかった眷属だったが、厄祓いを頼るたびに容姿が変わっていた。蛇や子牛、龍神になったと思ったが、ついに今は頭にツノが生えた鬼の姿に変わっていた。何かを養分にしてパワーアップしてうるようだった。

「へへ、琴子のエネルギーを貰うよ? しょうがないじゃん。『悪魔と異端な初恋』なんて描いて我々を賛美してくれたんだから。これを読んだ読者からもエネルギー吸い取れて、本当コスパいいわー」

 そんな事まで言っていて、もしかしたら聖書で言っている事も当たっているかもしれないと思う琴子だった。

「という事です」

 眷属、いや悪霊はこの一連の出来事を上司である悪魔に報告していた。

 全て悪霊の自作自演だった。最初に聖書を読ませないように病を送り、こちらに依存させるように持っていった。厄祓いしているようだったが、実は何も祓っていない。マッチポンプでやっている事だった。そもそも彼女に漫画のアイデアをインスピレーションとして与えたのも悪魔だ。

 とにかく聖書は読ませたくない。手をおかしくさせたのも、悪霊と悪魔達が引き起こした事で、別に神の裁きなどではない。琴子が自ら罪の扉を開けているだけだった。単なる自爆である。本当の神は、人間にはいつも良いものを与えようとしているが、人間の方が背き悪魔に同意してしまう。こうなると、神も祝福を与えたくても与えられない。人間に起きる不幸も、こういった自爆が多く、神を責めるのは的外れ。神が創った最初の人間は永遠に生きられ、死も無く、動物の共食いもなく、毒のある植物等も無かったが、そんな事はわざわざ人間に教えてやる必要は無いだろう。

「馬鹿だね、人間って。俺らの厄祓いって、マッチポンプだから。まず、こっちが不幸を引き起こしてるんだよね。で、適当に治し、また不幸を引き起こす。神社で厄祓いを頼めば頼むほど、依存症になっちゃうんだけどね? 根本的解決にならんのよ」

 悪魔は大笑いをしながら、琴子の様子を見る。再び聖書を購入しようとしていた。

「どうしましょう? 邪魔しますか?」

 悪霊が指示を仰ぐ。

「だよな。聖書なんて読まれたら困るぜ。徹底的に邪魔すっぞ!」

 さっそく二人で琴子に聖書を読ませないように動いた。琴子の手に病を送り続ける。元々、音楽、文学、漫画なども神が人間にインスピレーションを与えて創ったものだ。悪魔が創造出来るものは一つも無い。本来、神を賛美する為にそういったものもあるのだが、悪魔は神が創ったものは全て盗み滅ぼしてしまいたい。悪魔にとって琴子のような漫画家は、一番自分の支配下に置きたい。できるだけ悪魔を賛美した漫画を創らせ、世に広めて悪用したい。神ではなく悪魔が讃美されたい。その分、琴子への攻撃も激しい。

「うーん、ここまで邪魔すると、普通天使の方も動いたりするんだがな。ま、『悪魔と異端な初恋』なんてノリノリで描いてるから、向こうも救いようなしって放置してんのかね? 俺から見ても『悪魔と異端な初恋』は罪深過ぎてヤバい☆ 神様ぁ〜、人間がこんな罪深い漫画描いてますよ! イエスの悪口描いてまっせ! いけないんだ〜、こいつ、罪人ですよ! 神に訴えてやる!」

 悪魔はニヤニヤ笑いながら、聖書のページを開こうとする琴子の手に攻撃を続けた。しかし、琴子の方もしぶとく、ようやく聖書のページを開けた時、手がまともに動いていた。

「私は本当の事が知りたい。どうか、助けて欲しい!」

 その悲痛な琴子の言葉に、神が応えてしまったようだ。心から神を求めれば、神の名前を呼ばなくても、どんなに罪深くても関係がないらしい。

「くそ! 結局、人間は神に創られてるから、潜在的には神を求める気持ちが残ってるんだよな! く、悔しい〜!」

 悪魔はこれ以上琴子の手に攻撃が出来ない事を悟り、悔しさで下唇を噛み締めていた。
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登場人物紹介

悪魔

あやかし神社の主。人間の記憶を食い幽霊のフリ、天使、動物やイケメンのフリをして人間を騙している。ヤクザのように願いの代償を請求する。聖書の神様に敵対。

悪霊

悪魔の手先。人間の心に棲みつく実行部隊。あやかし神社では眷属のフリをしている。

聖書

悪魔と人間が結んだ契約を破棄する鍵…?

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