彼女以上の怪物(4)
文字数 1,627文字
僕たちを乗せた車は、30分も掛からないうちにファミレスに到着した。その間、車の中では耀子先輩はずっと難しい顔をしていたし、僕も耀子先輩の最後の指摘に頭を悩ませていた。そんなこともあり、2人きりのドライブと云う雰囲気は全くない。
それにしても、ヌイの兄と名乗る男は、どうやってシラヌイちゃんの本名を知ったのだろうか……?
出産直後、虐待などが原因で里親特別養子縁組となった場合、実親は里子に出した子供の名前など付けておらず、里親が名付け親となる場合もあるだろう。そして、戸籍上も里親の実子として記録され、実親からの親子関係は完全に切れ、自分の戸籍から確認できず、実親からは里子の名前を知らないと云う場合もあるのかも知れない。もし、シラヌイちゃんがそうだとしたら、彼女の兄は妹の名前を知り得なかった筈だ。
シラヌイちゃんは、今は大金持ちのお嬢さんだから、彼は何かの弾みで彼女の名前を目にしたのかも知れない……。
でも、そうだとすると、シラヌイちゃんの兄でなくとも、彼女の名前を知ることは誰にだって出来たってことだ……。だとすると、妹の名前を知っていると云うだけでは、必ずしも実の兄だと云う証明にはならないのじゃないのか?
ああ……。そうなってくると……、大金持ちのお嬢さんであるシラヌイちゃんの兄を騙った依頼者が、誘拐などの犯罪を企んでいるって可能性も考慮に入れて置かなければならないじゃないか……。これは思った以上に厄介な案件だ……。
そんな考えが、グルグルと僕の頭の中を過っては消えていく。それでも僕は、ファミレスの順番待ち名簿を眺め、その男が名乗っていた名字があることを確認し、店員に待ち合わせであると告げた。
「橿原様ですね? はい、承っています。お待ちのお客様がたは、こちらにお出でです」
相手は、確かに僕たちを待っていた。騙され、すっぽかされたら、耀子先輩と2人で食事して帰ろうと思っていたのに、そうはならなかった。勿論、僕はそれを危惧していたのではなく、寧ろ期待していたのだが……。
だが、
テーブルに近付くと、その理由は直ぐに理解できた。相手は1人ではなく、2人で僕たちを待っていたのだ。
彼らは双子の様に似ている、共に5~60代の白髪交じりの労働者風の男で、どことなく野犬、いや、狼や狐を思わせる、少しずる賢そうに見える男たちだ。
僕たちがテーブルに近付くと、2人は愛想良く笑って立ち上がり、僕たちを迎え入れた。
「態々ご足労ありがとうございました。どうぞ、お席に……」
だが、彼らがそれを言った相手は僕ではなかった。彼らが迎えたのは耀子先輩の方だったのだ。しかし、そんな歓迎にも、耀子先輩は愛想笑いすら返すことはなかった。
そんな先輩に、彼らは食事を勧める。
「何をお食べになりますか? 勿論、私たちの方で代金はお支払い致します。お好きな物をご注文ください」
「結構です! これだけ言ったら帰ります。食事はこの後、橿原先生にフレンチのフルコースでも奢って貰いますから!」
おいおい。そんな約束はしてないぞ。せめて、焼き肉食べ放題くらいにしてくれ……。
「帰ってください! 沼藺は、貴方がたに会うことはないでしょう。橿原先生にも、もう、これ以上付き纏わないでください!」
「耀公主様! 母が危篤で『最後に一目でも会って、沼藺に謝りたい』って」
「そんなこと、私は知りません!」
「政木屋敷に訴えても、なんの返事もありませんでした。もう、私たちには、あなたしか頼る人がいないのです……」
「それが沼藺の応えですよ……。貴方がたが政木屋敷に訴え出たので、私の方にも来るだろうと、沼藺が前もって私に連絡をしてくれていたんです。諦めてください」
彼らは、どうやら本物のシラヌイちゃんのお兄さんたちらしい。耀子さんも、彼女からそんな話を聞いていたのか……? ん? とすると、車の中の「名前は養父母が付けた」ってあの台詞は、一体なんだったんだ?!
それにしても、ヌイの兄と名乗る男は、どうやってシラヌイちゃんの本名を知ったのだろうか……?
出産直後、虐待などが原因で里親特別養子縁組となった場合、実親は里子に出した子供の名前など付けておらず、里親が名付け親となる場合もあるだろう。そして、戸籍上も里親の実子として記録され、実親からの親子関係は完全に切れ、自分の戸籍から確認できず、実親からは里子の名前を知らないと云う場合もあるのかも知れない。もし、シラヌイちゃんがそうだとしたら、彼女の兄は妹の名前を知り得なかった筈だ。
シラヌイちゃんは、今は大金持ちのお嬢さんだから、彼は何かの弾みで彼女の名前を目にしたのかも知れない……。
でも、そうだとすると、シラヌイちゃんの兄でなくとも、彼女の名前を知ることは誰にだって出来たってことだ……。だとすると、妹の名前を知っていると云うだけでは、必ずしも実の兄だと云う証明にはならないのじゃないのか?
ああ……。そうなってくると……、大金持ちのお嬢さんであるシラヌイちゃんの兄を騙った依頼者が、誘拐などの犯罪を企んでいるって可能性も考慮に入れて置かなければならないじゃないか……。これは思った以上に厄介な案件だ……。
そんな考えが、グルグルと僕の頭の中を過っては消えていく。それでも僕は、ファミレスの順番待ち名簿を眺め、その男が名乗っていた名字があることを確認し、店員に待ち合わせであると告げた。
「橿原様ですね? はい、承っています。お待ちのお客様がたは、こちらにお出でです」
相手は、確かに僕たちを待っていた。騙され、すっぽかされたら、耀子先輩と2人で食事して帰ろうと思っていたのに、そうはならなかった。勿論、僕はそれを危惧していたのではなく、寧ろ期待していたのだが……。
だが、
お客様がた
とは、一体?テーブルに近付くと、その理由は直ぐに理解できた。相手は1人ではなく、2人で僕たちを待っていたのだ。
彼らは双子の様に似ている、共に5~60代の白髪交じりの労働者風の男で、どことなく野犬、いや、狼や狐を思わせる、少しずる賢そうに見える男たちだ。
僕たちがテーブルに近付くと、2人は愛想良く笑って立ち上がり、僕たちを迎え入れた。
「態々ご足労ありがとうございました。どうぞ、お席に……」
だが、彼らがそれを言った相手は僕ではなかった。彼らが迎えたのは耀子先輩の方だったのだ。しかし、そんな歓迎にも、耀子先輩は愛想笑いすら返すことはなかった。
そんな先輩に、彼らは食事を勧める。
「何をお食べになりますか? 勿論、私たちの方で代金はお支払い致します。お好きな物をご注文ください」
「結構です! これだけ言ったら帰ります。食事はこの後、橿原先生にフレンチのフルコースでも奢って貰いますから!」
おいおい。そんな約束はしてないぞ。せめて、焼き肉食べ放題くらいにしてくれ……。
「帰ってください! 沼藺は、貴方がたに会うことはないでしょう。橿原先生にも、もう、これ以上付き纏わないでください!」
「耀公主様! 母が危篤で『最後に一目でも会って、沼藺に謝りたい』って」
「そんなこと、私は知りません!」
「政木屋敷に訴えても、なんの返事もありませんでした。もう、私たちには、あなたしか頼る人がいないのです……」
「それが沼藺の応えですよ……。貴方がたが政木屋敷に訴え出たので、私の方にも来るだろうと、沼藺が前もって私に連絡をしてくれていたんです。諦めてください」
彼らは、どうやら本物のシラヌイちゃんのお兄さんたちらしい。耀子さんも、彼女からそんな話を聞いていたのか……? ん? とすると、車の中の「名前は養父母が付けた」ってあの台詞は、一体なんだったんだ?!