カウンセリング(3)
文字数 1,702文字
僕も青年も唖然とするしかない。そんな僕たちを尻目に、耀子先輩は薄笑いを浮かべている。
「私も座って宜しいかしら?」
青年は夢でも見ているかの様な表情で頷いた。そんな青年に、耀子先輩はこの手品の種明かしをする。
「貴方は本当に騙され易い人ですね。上の円盤の端を、指で軽く押して御覧なさい!」
青年が言われた通りにすると、円盤はくるりと裏返り、パチッという音をたてて下の金属にくっ付いた。
「こ、これは……。磁石……」
「そうですよ。貴方は超電導を知っていたので、私が空中浮遊をさせてみせると聞いて直ぐにそれをイメージしたでしょう?
でも、実はそうでは無かった。貴方は間違っていたことを自覚した。
それで、自分に自信が持てなくなった貴方は、私が超能力者だと言うのを、今度は疑いもせず鵜呑みに信じてしまった……。ペテン師が良くやる手です。
私なんかを信じちゃいけませんよ。私は特別な能力など全然持っていません。でも、だからこそ、私は貴方が不思議に思っていることの真実を、惑わされずに見つけることが出来るかも知れないのです。
どうです……? 私にも貴方の話を聞かせて頂けません?」
青年は再び、黙って頷いた。
「それにしても、考えれば分かりそうなものですけどね。液体窒素なんて、そう簡単に手に入らないでしょう? それも看護師が勝手に持ち出すなんて、絶対あり得ないわ」
青年に替わって僕が反論する。
「でも、シャーレから白い冷気の湯気が出ていたじゃないですか……」
「お昼にアイスクリームを食べたでしょう? あれはアイスクリームを買った時に貰ったドライアイスの欠片よ。それを少しシャーレに落したんですわ」
僕はぐうの音も出なかった。もう反論する気にもなれない。恐らく青年も同じ気分だろう。彼女に席を外して貰うなど、とても言い出せる雰囲気ではない。
それにしても、耀子先輩は相変わらず他人を自分のペースに引き込むのが上手い。青年はもう、僕に相談すると言うより、耀子先輩に話を聞いて貰おうとしているじゃないか。
だけど、あんな磁石の仕掛け、いつの間に用意していたんだろう? それに、磁力の同極同士が反発するってのは誰だって知っているけど、実際、それを浮遊させる状態に置くのは、相当練習を積んでも出来るかどうか分からない至難の業じゃないのか?
本当、耀子先輩は不思議な人だ。
不思議と言えば、耀子先輩は今回、いつになく乗り気だ。
僕が不思議探偵を開設した時も、「橿原先生、いつまでも学生じゃないんですから、いい加減そんなことは、お止めになった方が宜しいんじゃないですかぁ?」などと言って、僕の趣味を馬鹿にすらしていたのに、何故か今回は、態々自分から依頼主の話を聞こうとしているではないか? 一体、これは、どう云う風の吹き回しなのだろう……?
まぁ、耀子先輩の気紛れは、昨日今日始まったことではないのだが……。
青年は、耀子先輩が椅子を持ってきて、テーブルの近くに腰を降ろすのを待ってから話を始めた。
「こんな話、恐らく、信じては頂けないと思うのですが……」
「それが真実かどうか? 信じられるかどうかは、私と先生が判断します。勿論、嘘を話しても構いませんよ。それを見破れないのであれば、単に橿原先生が間抜けだって言うだけの事ですから……」
耀子先輩が直ぐに応える。それにしても、酷い話だ。見抜けなかった時は、僕が間抜けだって事になるのか……。まぁ仕方がないだろう。それを見抜くのが不思議探偵の大切な仕事なのだから……。
不思議な話と言うのは、殆ど偽情報だと考えて差支えないのだ。そして、これは大きく三種類に分類できる。一つ目は依頼主が見間違いなどをして、怪奇現象だと思い込んでしまっている場合。次に第三者が何らかの意図を持って、依頼者に怪奇現象と思わせている場合。これには遺産相続などが絡んでいることも多い。そして最後に、僕を揶揄う為に依頼主が嘘を吐いて来る場合。こんな仕事をしていると、この割合が決して少なくはないのだ。そして、それを暴くのも、僕の大切な仕事だ……。
で、青年は耀子先輩の言葉に促され、その不思議な出来事を語りだした。
「私も座って宜しいかしら?」
青年は夢でも見ているかの様な表情で頷いた。そんな青年に、耀子先輩はこの手品の種明かしをする。
「貴方は本当に騙され易い人ですね。上の円盤の端を、指で軽く押して御覧なさい!」
青年が言われた通りにすると、円盤はくるりと裏返り、パチッという音をたてて下の金属にくっ付いた。
「こ、これは……。磁石……」
「そうですよ。貴方は超電導を知っていたので、私が空中浮遊をさせてみせると聞いて直ぐにそれをイメージしたでしょう?
でも、実はそうでは無かった。貴方は間違っていたことを自覚した。
それで、自分に自信が持てなくなった貴方は、私が超能力者だと言うのを、今度は疑いもせず鵜呑みに信じてしまった……。ペテン師が良くやる手です。
私なんかを信じちゃいけませんよ。私は特別な能力など全然持っていません。でも、だからこそ、私は貴方が不思議に思っていることの真実を、惑わされずに見つけることが出来るかも知れないのです。
どうです……? 私にも貴方の話を聞かせて頂けません?」
青年は再び、黙って頷いた。
「それにしても、考えれば分かりそうなものですけどね。液体窒素なんて、そう簡単に手に入らないでしょう? それも看護師が勝手に持ち出すなんて、絶対あり得ないわ」
青年に替わって僕が反論する。
「でも、シャーレから白い冷気の湯気が出ていたじゃないですか……」
「お昼にアイスクリームを食べたでしょう? あれはアイスクリームを買った時に貰ったドライアイスの欠片よ。それを少しシャーレに落したんですわ」
僕はぐうの音も出なかった。もう反論する気にもなれない。恐らく青年も同じ気分だろう。彼女に席を外して貰うなど、とても言い出せる雰囲気ではない。
それにしても、耀子先輩は相変わらず他人を自分のペースに引き込むのが上手い。青年はもう、僕に相談すると言うより、耀子先輩に話を聞いて貰おうとしているじゃないか。
だけど、あんな磁石の仕掛け、いつの間に用意していたんだろう? それに、磁力の同極同士が反発するってのは誰だって知っているけど、実際、それを浮遊させる状態に置くのは、相当練習を積んでも出来るかどうか分からない至難の業じゃないのか?
本当、耀子先輩は不思議な人だ。
不思議と言えば、耀子先輩は今回、いつになく乗り気だ。
僕が不思議探偵を開設した時も、「橿原先生、いつまでも学生じゃないんですから、いい加減そんなことは、お止めになった方が宜しいんじゃないですかぁ?」などと言って、僕の趣味を馬鹿にすらしていたのに、何故か今回は、態々自分から依頼主の話を聞こうとしているではないか? 一体、これは、どう云う風の吹き回しなのだろう……?
まぁ、耀子先輩の気紛れは、昨日今日始まったことではないのだが……。
青年は、耀子先輩が椅子を持ってきて、テーブルの近くに腰を降ろすのを待ってから話を始めた。
「こんな話、恐らく、信じては頂けないと思うのですが……」
「それが真実かどうか? 信じられるかどうかは、私と先生が判断します。勿論、嘘を話しても構いませんよ。それを見破れないのであれば、単に橿原先生が間抜けだって言うだけの事ですから……」
耀子先輩が直ぐに応える。それにしても、酷い話だ。見抜けなかった時は、僕が間抜けだって事になるのか……。まぁ仕方がないだろう。それを見抜くのが不思議探偵の大切な仕事なのだから……。
不思議な話と言うのは、殆ど偽情報だと考えて差支えないのだ。そして、これは大きく三種類に分類できる。一つ目は依頼主が見間違いなどをして、怪奇現象だと思い込んでしまっている場合。次に第三者が何らかの意図を持って、依頼者に怪奇現象と思わせている場合。これには遺産相続などが絡んでいることも多い。そして最後に、僕を揶揄う為に依頼主が嘘を吐いて来る場合。こんな仕事をしていると、この割合が決して少なくはないのだ。そして、それを暴くのも、僕の大切な仕事だ……。
で、青年は耀子先輩の言葉に促され、その不思議な出来事を語りだした。