将を射んとするならば(2)
文字数 1,630文字
僕はシラヌイちゃんのお兄さんたちに、白瀬夫妻と僕の関係を説明した。勿論、関係と言う程の繋がりは僕と白瀬夫妻の間にはないし、実際には、僕はこの人たちには会ったことすら、なかったのだが……。
「僕は学生時代、ミステリー愛好会と言うサークルに所属していました。そのサークルで、僕はオシラサマの調査をする為、岩手の遠野に行ったことがあるんです。そこで、フィールドワークに協力してくれたのが白瀬夫妻でした。彼らは土地の名士らしく、名字から『オシラサマ』って渾名もつけられていたくらいです。
僕は、シラヌイちゃんの義理の妹さんに案内して貰い、そこで、何件かの旧家でオシラサマを見せて貰ったり、話を聞かせて貰いました。白瀬夫妻のお口添えがあったので、どの家も何の疑いもなく僕を家 に入れて、フィールドワークの協力してくれるのです……。
余談ですけど、白瀬夫妻は『オシラサマ』と言う、2人セットのニックネームだけでなく、各々 、馬神様、姫神様と呼ばれて親しまれているそうです。また、シラヌイちゃんの義理の妹さんである風花ちゃんは、とても元気の良いお嬢さんでした。でも、実は彼女も、矢張り白瀬夫妻の実のお子さんではないとのことです……」
右に座った方の兄が、僕の話にクレームをつけてきた。
「細かい話はもういいです。それで、その白瀬夫妻のお宅を、橿原先生はご存知だと言うのですか?」
「いいえ。僕は、白瀬夫妻のご自宅までは伺いませんでした……。でも、耀子先輩なら、白瀬夫妻のお宅を知っている筈ですよ」
「耀公主は協力してくれませんよ……。さっきのを見たでしょう?」
2人の兄は落胆したらしく、がっくりと項垂れた。しかし、僕だって何の策も無いのに、こんな話をし始めた訳ではないのだ。
「僕は、白瀬夫妻の家は知らないですが、訪ねたお宅をまだ覚えています。彼らは白瀬夫妻の口添えで僕を迎えてくれました。つまり、その人たちは、土地の名士である白瀬夫妻を良く知ってるんですよ。ですから、彼らなら白瀬夫妻の連絡先か、あるいは白瀬夫妻がどこに住んでいるか位は、絶対知っている筈なんです!」
「成程……」
「まず、耀子先輩に、白瀬夫妻の連絡先を教えてくれる様に頼んでみます。土曜日にチャットをしてきてください。耀子先輩から連絡先が教えて貰えたら、その時、あなた方にそれをお教えします。もし、教えて貰えなかった場合は、日曜日、3人で遠野に行きましょう。そして、そこで、必ず白瀬夫妻に会って話をしてみましょう!!」
その後、僕はコーヒーを飲んだだけで、シラヌイちゃんのお兄さんたちと別れ、真っ直ぐに帰宅した。
耀子先輩のことは、当然気になっていたので、夜、僕は何度も彼女の携帯にコールしたり、メールやチャットもしてみたのであるが、幾ら連絡してみても、彼女からのレスポンスは何も無かった。
翌日の金曜日は藤沢さんが出勤しない日であり、僕の方も大学の会議に出席せねばならず耀子先輩への連絡は夜になった。しかし、その夜も彼女からの折り返しは全く無く、土曜日も朝から連絡し続けたのだが、耀子先輩とは会うことどころか、メールで話をすることすら叶わなかった。
そして、結局、僕はその由を伝えた上で、明日の電車で白瀬夫妻が住むであろう遠野に向かうことを彼らに告げたのである。
遠野へは、東京駅から東北新幹線で新花巻まで行き、その後、釜石線で遠野に向かう。
はやぶさを使っても良いのだが、僕たちはやまびこを使うことにした。ただ、乗り換えが面倒だったと云う僕の気紛れだ。
勿論、どの時刻の新幹線を使うかなど、誰にも言っていない。と言うか、彼らと東京駅で待ち合わせてから、窓口で電車を決めたのだ。僕たちが乗る新幹線を知る術などあろう筈がない。だから、僕は乗り込んだ電車の隣の席に、彼女が座っている理由が、今になっても分からない……。
「橿原先生、遅いですよ……」
そう、それは藤沢さん、いや、耀公主、藤沢耀子先輩、その人だったのである。
「僕は学生時代、ミステリー愛好会と言うサークルに所属していました。そのサークルで、僕はオシラサマの調査をする為、岩手の遠野に行ったことがあるんです。そこで、フィールドワークに協力してくれたのが白瀬夫妻でした。彼らは土地の名士らしく、名字から『オシラサマ』って渾名もつけられていたくらいです。
僕は、シラヌイちゃんの義理の妹さんに案内して貰い、そこで、何件かの旧家でオシラサマを見せて貰ったり、話を聞かせて貰いました。白瀬夫妻のお口添えがあったので、どの家も何の疑いもなく僕を
余談ですけど、白瀬夫妻は『オシラサマ』と言う、2人セットのニックネームだけでなく、
右に座った方の兄が、僕の話にクレームをつけてきた。
「細かい話はもういいです。それで、その白瀬夫妻のお宅を、橿原先生はご存知だと言うのですか?」
「いいえ。僕は、白瀬夫妻のご自宅までは伺いませんでした……。でも、耀子先輩なら、白瀬夫妻のお宅を知っている筈ですよ」
「耀公主は協力してくれませんよ……。さっきのを見たでしょう?」
2人の兄は落胆したらしく、がっくりと項垂れた。しかし、僕だって何の策も無いのに、こんな話をし始めた訳ではないのだ。
「僕は、白瀬夫妻の家は知らないですが、訪ねたお宅をまだ覚えています。彼らは白瀬夫妻の口添えで僕を迎えてくれました。つまり、その人たちは、土地の名士である白瀬夫妻を良く知ってるんですよ。ですから、彼らなら白瀬夫妻の連絡先か、あるいは白瀬夫妻がどこに住んでいるか位は、絶対知っている筈なんです!」
「成程……」
「まず、耀子先輩に、白瀬夫妻の連絡先を教えてくれる様に頼んでみます。土曜日にチャットをしてきてください。耀子先輩から連絡先が教えて貰えたら、その時、あなた方にそれをお教えします。もし、教えて貰えなかった場合は、日曜日、3人で遠野に行きましょう。そして、そこで、必ず白瀬夫妻に会って話をしてみましょう!!」
その後、僕はコーヒーを飲んだだけで、シラヌイちゃんのお兄さんたちと別れ、真っ直ぐに帰宅した。
耀子先輩のことは、当然気になっていたので、夜、僕は何度も彼女の携帯にコールしたり、メールやチャットもしてみたのであるが、幾ら連絡してみても、彼女からのレスポンスは何も無かった。
翌日の金曜日は藤沢さんが出勤しない日であり、僕の方も大学の会議に出席せねばならず耀子先輩への連絡は夜になった。しかし、その夜も彼女からの折り返しは全く無く、土曜日も朝から連絡し続けたのだが、耀子先輩とは会うことどころか、メールで話をすることすら叶わなかった。
そして、結局、僕はその由を伝えた上で、明日の電車で白瀬夫妻が住むであろう遠野に向かうことを彼らに告げたのである。
遠野へは、東京駅から東北新幹線で新花巻まで行き、その後、釜石線で遠野に向かう。
はやぶさを使っても良いのだが、僕たちはやまびこを使うことにした。ただ、乗り換えが面倒だったと云う僕の気紛れだ。
勿論、どの時刻の新幹線を使うかなど、誰にも言っていない。と言うか、彼らと東京駅で待ち合わせてから、窓口で電車を決めたのだ。僕たちが乗る新幹線を知る術などあろう筈がない。だから、僕は乗り込んだ電車の隣の席に、彼女が座っている理由が、今になっても分からない……。
「橿原先生、遅いですよ……」
そう、それは藤沢さん、いや、耀公主、藤沢耀子先輩、その人だったのである。