白砂の戦い(3)
文字数 1,842文字
本来、武器を持った自衛隊員数十名に、僕と染ノ助君、一つ目鴉だけで敵う訳がない。
だが、あいつらは見た目は自衛隊員だが、動かしているのは只の植物だ。それに筋肉で動かしているのではなく、植物繊維が彼らを操り人形の様に動かしているに過ぎない。この為、動きは著しく遅い。
耀子先輩を襲った砂に引きずり込む方法は、行動に高いコストを必要とするからなのか、僕たち相手には使って来ない。
随分と舐められたものだ……。
だが、それなら僕らにだって勝機はある!
僕は、海から来る武器を持った自衛隊員へと向かい、彼らが銃を構える前に1人の銃を奪い取り、それを使って次々と相手を殴り倒していった。
恐らく、死体に弾を撃っても大したダメージは与えられないだろう。奴らを倒すには関節を破壊し動かなくするか、そこに絡まっている植物体を引きちぎるしかないのだ。
「鴉ちゃん、貴方は巡視船に飛んでロープを咥えて戻って来て!」
「耀子先輩!!」
耀子先輩の方を見ると、もう腰の辺りまで砂に埋もれている。僕は彼女を助け出そうと一歩踏み出したが、耀子先輩はそれを両手を前に出して拒んだ。
「幸四郎、蓬莱島とは話し合いは無理だわ。価値観が人間……、いいえ、動物とは全く違うんだもん。可哀想だけど、この島には海に沈んで貰うわ!! だから、幸四郎と松野さんは、直ぐに島から撤収して!!
「耀子先輩は?」
「私は、この島の主を倒してから脱出する」
「そんな無茶ですって!!」
「先生は何年私と付き合っているの? そんなに私のことが信用できないのかしら?」
確かに、耀子先輩はどんな時でも負けはしなかった。でも、絶対なんて言葉は無いんだ。何時か、耀子先輩だって負ける日が来るかも知れない。もし、僕が逃げて、耀子先輩だけが逃げ遅れたら、僕は一生それを後悔してしまう……。
「分かったわ。じゃ少し待っていてね。直ぐ戻るから。多分、その間に鴉ちゃんがロープを咥えて戻ってくる。そうしたら、ロープをゴムボートに結んで巡視船に曳いて貰うのよ。その準備が出来る頃には、私も戻って一緒にボートに乗るから……。安心して……」
「もし、戻って来なかったら?」
「その時は、松野さんだけをボートに乗せれば良いわ。悪いけど、幸四郎は、私と一緒に、ここで死んでくれるかしら?」
「勿論ですよ!!」
そうだ! 僕は耀子先輩の言葉を信じることにした。
耀子先輩は、砂に引き摺り込まれても死んだりしない。万が一、先輩が死んだとしても、僕も一緒に死ねば良いだけの話だ。
僕が今、しなければならないことは、このゾンビたちを蹴散らして、染ノ助君を脱出させることじゃないか!
僕は砂に沈んでいく耀子先輩に背を向けると、残ったゾンビと、武器を失ってはいるものの、まだ起き上がることが出来そうな自衛官の死骸……、これらを倒しに走り出した。
染ノ助君は奮戦していた。
奮戦してはいたが、武器を持たぬゾンビ相手では、敵の武器を奪うことが出来ず、寧ろ難しい戦いになっている。僕は彼に近づき持っていたライフルを手渡した。
「染ノ助君、これを使って関節を殴るんだ。それで植物で出来た腱が切れれば、相手は動けなくなる」
「はい!」
僕は再び自衛官に向かい、落ちている武器を拾い上げた。銃としての意味は無いが、棍棒だと考えると、重さといい、固さといい、中々良い武器になる。
奴らも学習したらしく、不器用な指先で銃を撃とうとするより、ライフルは棍棒として振り回した方が効率が良いと云うことに気付いた様だ。僕もそれで後ろから何回か背中を打たれた。
それにしても……、この島には何人分の死体があるんだ……?
僕がこう文句を言いたくなる程、腐りかけのゾンビや崩れかけた骸骨などが、森や湾内から続々と湧いて出てくる。
正直、相手は強くはない。だが、これだけの数となると、僕たちも疲れてくるし、何回か殴られると、身体のあちらこちらが痛くなってくる。そして、遂に僕は頭を強か打たれて砂地に突っ伏した。
「うわっ!!」
身体を起して周囲を見渡すと、じわりじわりとゾンビどもが僕を取り囲むように近付いている。そして、その少し向うでは、ゆっくりと銃を構え、引き金に指が掛かる様に試行錯誤している自衛官の死体もいた。
僕は染ノ助君を探した。だが、彼の姿は見つからない。見つかったとしても、染ノ助君は自分で自分を守るのが精一杯で、僕を助ける余裕などないであろう。もしかすると、僕より先に殴り倒されていたのかも知れない。
「もう、だめだ……」
だが、あいつらは見た目は自衛隊員だが、動かしているのは只の植物だ。それに筋肉で動かしているのではなく、植物繊維が彼らを操り人形の様に動かしているに過ぎない。この為、動きは著しく遅い。
耀子先輩を襲った砂に引きずり込む方法は、行動に高いコストを必要とするからなのか、僕たち相手には使って来ない。
随分と舐められたものだ……。
だが、それなら僕らにだって勝機はある!
僕は、海から来る武器を持った自衛隊員へと向かい、彼らが銃を構える前に1人の銃を奪い取り、それを使って次々と相手を殴り倒していった。
恐らく、死体に弾を撃っても大したダメージは与えられないだろう。奴らを倒すには関節を破壊し動かなくするか、そこに絡まっている植物体を引きちぎるしかないのだ。
「鴉ちゃん、貴方は巡視船に飛んでロープを咥えて戻って来て!」
「耀子先輩!!」
耀子先輩の方を見ると、もう腰の辺りまで砂に埋もれている。僕は彼女を助け出そうと一歩踏み出したが、耀子先輩はそれを両手を前に出して拒んだ。
「幸四郎、蓬莱島とは話し合いは無理だわ。価値観が人間……、いいえ、動物とは全く違うんだもん。可哀想だけど、この島には海に沈んで貰うわ!! だから、幸四郎と松野さんは、直ぐに島から撤収して!!
「耀子先輩は?」
「私は、この島の主を倒してから脱出する」
「そんな無茶ですって!!」
「先生は何年私と付き合っているの? そんなに私のことが信用できないのかしら?」
確かに、耀子先輩はどんな時でも負けはしなかった。でも、絶対なんて言葉は無いんだ。何時か、耀子先輩だって負ける日が来るかも知れない。もし、僕が逃げて、耀子先輩だけが逃げ遅れたら、僕は一生それを後悔してしまう……。
「分かったわ。じゃ少し待っていてね。直ぐ戻るから。多分、その間に鴉ちゃんがロープを咥えて戻ってくる。そうしたら、ロープをゴムボートに結んで巡視船に曳いて貰うのよ。その準備が出来る頃には、私も戻って一緒にボートに乗るから……。安心して……」
「もし、戻って来なかったら?」
「その時は、松野さんだけをボートに乗せれば良いわ。悪いけど、幸四郎は、私と一緒に、ここで死んでくれるかしら?」
「勿論ですよ!!」
そうだ! 僕は耀子先輩の言葉を信じることにした。
耀子先輩は、砂に引き摺り込まれても死んだりしない。万が一、先輩が死んだとしても、僕も一緒に死ねば良いだけの話だ。
僕が今、しなければならないことは、このゾンビたちを蹴散らして、染ノ助君を脱出させることじゃないか!
僕は砂に沈んでいく耀子先輩に背を向けると、残ったゾンビと、武器を失ってはいるものの、まだ起き上がることが出来そうな自衛官の死骸……、これらを倒しに走り出した。
染ノ助君は奮戦していた。
奮戦してはいたが、武器を持たぬゾンビ相手では、敵の武器を奪うことが出来ず、寧ろ難しい戦いになっている。僕は彼に近づき持っていたライフルを手渡した。
「染ノ助君、これを使って関節を殴るんだ。それで植物で出来た腱が切れれば、相手は動けなくなる」
「はい!」
僕は再び自衛官に向かい、落ちている武器を拾い上げた。銃としての意味は無いが、棍棒だと考えると、重さといい、固さといい、中々良い武器になる。
奴らも学習したらしく、不器用な指先で銃を撃とうとするより、ライフルは棍棒として振り回した方が効率が良いと云うことに気付いた様だ。僕もそれで後ろから何回か背中を打たれた。
それにしても……、この島には何人分の死体があるんだ……?
僕がこう文句を言いたくなる程、腐りかけのゾンビや崩れかけた骸骨などが、森や湾内から続々と湧いて出てくる。
正直、相手は強くはない。だが、これだけの数となると、僕たちも疲れてくるし、何回か殴られると、身体のあちらこちらが痛くなってくる。そして、遂に僕は頭を強か打たれて砂地に突っ伏した。
「うわっ!!」
身体を起して周囲を見渡すと、じわりじわりとゾンビどもが僕を取り囲むように近付いている。そして、その少し向うでは、ゆっくりと銃を構え、引き金に指が掛かる様に試行錯誤している自衛官の死体もいた。
僕は染ノ助君を探した。だが、彼の姿は見つからない。見つかったとしても、染ノ助君は自分で自分を守るのが精一杯で、僕を助ける余裕などないであろう。もしかすると、僕より先に殴り倒されていたのかも知れない。
「もう、だめだ……」