美肌の湯(1)
文字数 1,925文字
耀子先輩は、まんまとこの屋敷に泊まることで話を纏めてしまった。勿論、克哉さんの父親がこの話に乗り気だったことが、何よりの追い風となったのは間違いない。
その後、妹さんには父親の方からの説得があったようで、不服そうな表情は隠さないが、彼女もあからさまに文句を言うことは無くなった。
泊まると決まったこともあり、父親は愉しげに僕たちに話し掛けてくる。
「折角だから、今夜はご馳走にしよう。確か猪肉が余っていた筈だ。だが、冷凍してしまってるので、鍋で煮込むにしても少し時間が掛かるなぁ。そうだ! 肉を保温鍋に入れたら温泉に案内しよう……」
耀子先輩は、温泉と聞いて一気にテンションを上げる。
「あら、温泉があるのですか?! 嬉しいわ。私、温泉が大好きなんです」
「ああ、美肌の湯じゃよ。肌が剥きたて茹で玉子みたいに、ツルッツルッになるぞ! ただし、アルカリ性が強いんで、髪の毛は浸けんようにな。尼さんになるんじゃなけりゃな!」
こんな村……、と言っては失礼だが、観光に全く縁の無さそうなこの村に、温泉、それも人気の美肌の湯があるなんて意外だ。
ま、そんなことも他所に、克哉さんの父親と耀子先輩は温泉に超乗り気になっている。だが、妹さんの方はそれ程でもないらしい。
「お父さん! あそこは混浴よ。お客さんも困ってしまうわ」
「えっ、私……、構いませんけど、おじさまもご一緒にどうですか?」
「耀子!」
僕は思わず声を上げる。だが、耀子先輩が、その程度で美肌の湯を諦める訳がない。例え人前であっても、彼女は温泉であれば、入らずにはいられない性分なのだ。
「ねぇ、父さんも良いじゃない? 昔は一緒に入ったでしょう?」
耀子先輩……、何てこと言うんだ。僕は先輩と風呂に入ったことはない!
「都会の人には驚きだろうけど、田舎の村では混浴は珍しくないんだよ。慣れって言うのかな? 別に誰も何とも思わないし……。何なら、娘と四人して浸かりに行くかな?」
克哉さんの父親は乗り気だし、耀子先輩はおねだりするように僕を見てる。妹さんも強く拒否をして来ないので、流石に僕だけでは抵抗することが出来なくなってしまった。
「もう、すみません。突然押し掛けておいて、泊めて頂くだけじゃなく、食事や風呂まで世話して貰うなんて……」
「気にせんでください。それに温泉は村の物で、元々誰が入っても構わんのでな。儂が何かしたってもんじゃないで」
こうして、結局、克哉さんの父親が鍋の支度をし終えるのを待ってから、四人で村の共有の温泉施設へと向かうことになったのである。
温泉施設は、入母屋造りの銭湯の様な外観で男女共用の脱衣場と広々とした岩風呂のような場所に分かれていた。
脱衣場は屋内で外から見えることはないが、岩風呂は外から丸見えだ。道路を普通に歩いている人と、素っ裸のままご対面することも結構あるのではなかろうか?
「さっきも言った様に、髪の毛は湯に浸けん様にな。そこにヘヤキャップがあるから、良かったら被るとええ」
克哉さんの父親は、耀子先輩に注意すると、僕に対してもことばを掛けていた。
「あんたも、湯船に浸かると儂の様になるからな。嫌ならあっちに只の沢の水があるから、それで打たせ湯をするとええ。お嬢さんも、ここの温泉は最後に上がり湯を忘れん様にな!」
余程アルカリ性が強いか、特殊な泉質なんだろう。克哉さんの父親は、幾度となく僕たちにそれを注意をしてくれた。そして、それが事実であることは、僕たちにも湯に浸かって直ぐに分かった。
「すっご~い。無駄毛が全部抜けて行く!」
耀子先輩が湯の中で、驚きの声を上げる。僕も、湯の中で腕を擦ると、そこの毛が全て抜けていくのに目を見張った。
「これ、脱毛クリームいらないじゃない!」
耀子先輩は感動のあまり、身体中を湯船の中で擦りまわっている。もう、湯船から溢れる湯には、耀子先輩の体毛がこれでもかと云う程に沢山浮いているではないか。
僕の脇や股間も、もう何ひとつ残っていない。こりゃ当分、恥ずかしくて巣鴨の銭湯には行けないな……。
「こりゃ! そんなことしちゃいかん!」
突然、隣で湯に浸かっていた克哉さんの父親が、僕に大声で警告をする。
「そんなことしたら、眉毛も睫毛も無くなってしまうぞ!」
僕はいつもする様に、湯船の湯で顔を洗おうとしていた。危ない、危ない……。
「あんたの娘さんは綺麗だのう。肌など、まるで搗きたての餅の様だ……」
「そちらのお嬢さんも、とてもお美しい方だと思いますよ」
「そう思われるかな? そうだ、今夜一晩、うちの娘と床を共にしてみないか? あれを嫁にやる訳にはいかんがな……」
僕は、彼の冗談とも本気ともつかぬ提案に困惑するしかなかった……。
その後、妹さんには父親の方からの説得があったようで、不服そうな表情は隠さないが、彼女もあからさまに文句を言うことは無くなった。
泊まると決まったこともあり、父親は愉しげに僕たちに話し掛けてくる。
「折角だから、今夜はご馳走にしよう。確か猪肉が余っていた筈だ。だが、冷凍してしまってるので、鍋で煮込むにしても少し時間が掛かるなぁ。そうだ! 肉を保温鍋に入れたら温泉に案内しよう……」
耀子先輩は、温泉と聞いて一気にテンションを上げる。
「あら、温泉があるのですか?! 嬉しいわ。私、温泉が大好きなんです」
「ああ、美肌の湯じゃよ。肌が剥きたて茹で玉子みたいに、ツルッツルッになるぞ! ただし、アルカリ性が強いんで、髪の毛は浸けんようにな。尼さんになるんじゃなけりゃな!」
こんな村……、と言っては失礼だが、観光に全く縁の無さそうなこの村に、温泉、それも人気の美肌の湯があるなんて意外だ。
ま、そんなことも他所に、克哉さんの父親と耀子先輩は温泉に超乗り気になっている。だが、妹さんの方はそれ程でもないらしい。
「お父さん! あそこは混浴よ。お客さんも困ってしまうわ」
「えっ、私……、構いませんけど、おじさまもご一緒にどうですか?」
「耀子!」
僕は思わず声を上げる。だが、耀子先輩が、その程度で美肌の湯を諦める訳がない。例え人前であっても、彼女は温泉であれば、入らずにはいられない性分なのだ。
「ねぇ、父さんも良いじゃない? 昔は一緒に入ったでしょう?」
耀子先輩……、何てこと言うんだ。僕は先輩と風呂に入ったことはない!
「都会の人には驚きだろうけど、田舎の村では混浴は珍しくないんだよ。慣れって言うのかな? 別に誰も何とも思わないし……。何なら、娘と四人して浸かりに行くかな?」
克哉さんの父親は乗り気だし、耀子先輩はおねだりするように僕を見てる。妹さんも強く拒否をして来ないので、流石に僕だけでは抵抗することが出来なくなってしまった。
「もう、すみません。突然押し掛けておいて、泊めて頂くだけじゃなく、食事や風呂まで世話して貰うなんて……」
「気にせんでください。それに温泉は村の物で、元々誰が入っても構わんのでな。儂が何かしたってもんじゃないで」
こうして、結局、克哉さんの父親が鍋の支度をし終えるのを待ってから、四人で村の共有の温泉施設へと向かうことになったのである。
温泉施設は、入母屋造りの銭湯の様な外観で男女共用の脱衣場と広々とした岩風呂のような場所に分かれていた。
脱衣場は屋内で外から見えることはないが、岩風呂は外から丸見えだ。道路を普通に歩いている人と、素っ裸のままご対面することも結構あるのではなかろうか?
「さっきも言った様に、髪の毛は湯に浸けん様にな。そこにヘヤキャップがあるから、良かったら被るとええ」
克哉さんの父親は、耀子先輩に注意すると、僕に対してもことばを掛けていた。
「あんたも、湯船に浸かると儂の様になるからな。嫌ならあっちに只の沢の水があるから、それで打たせ湯をするとええ。お嬢さんも、ここの温泉は最後に上がり湯を忘れん様にな!」
余程アルカリ性が強いか、特殊な泉質なんだろう。克哉さんの父親は、幾度となく僕たちにそれを注意をしてくれた。そして、それが事実であることは、僕たちにも湯に浸かって直ぐに分かった。
「すっご~い。無駄毛が全部抜けて行く!」
耀子先輩が湯の中で、驚きの声を上げる。僕も、湯の中で腕を擦ると、そこの毛が全て抜けていくのに目を見張った。
「これ、脱毛クリームいらないじゃない!」
耀子先輩は感動のあまり、身体中を湯船の中で擦りまわっている。もう、湯船から溢れる湯には、耀子先輩の体毛がこれでもかと云う程に沢山浮いているではないか。
僕の脇や股間も、もう何ひとつ残っていない。こりゃ当分、恥ずかしくて巣鴨の銭湯には行けないな……。
「こりゃ! そんなことしちゃいかん!」
突然、隣で湯に浸かっていた克哉さんの父親が、僕に大声で警告をする。
「そんなことしたら、眉毛も睫毛も無くなってしまうぞ!」
僕はいつもする様に、湯船の湯で顔を洗おうとしていた。危ない、危ない……。
「あんたの娘さんは綺麗だのう。肌など、まるで搗きたての餅の様だ……」
「そちらのお嬢さんも、とてもお美しい方だと思いますよ」
「そう思われるかな? そうだ、今夜一晩、うちの娘と床を共にしてみないか? あれを嫁にやる訳にはいかんがな……」
僕は、彼の冗談とも本気ともつかぬ提案に困惑するしかなかった……。